[ 日本経団連 ] [ 企業倫理 ]

第2回企業倫理担当者研修会

日時2004年2月5日(木)〜6日(金)
場所経団連ゲストハウス
次第
1.講演 「経営倫理の実践教育とモニタリング」
貫井 陵雄 経営倫理実践研究センター専任講師
2.パネルディスカッション 「企業倫理徹底に向けた取り組み」
パネリスト:宮本 俊信 三菱地所コンプライアンス部長
岡田 佳男 雪印乳業コンプライアンス部長
水野 義弘 全日空法務主席部員
進行役:田中 清 日本経団連常務理事
3.ケース・スタディ(過去事例に基づく討議)
コーディネーター:横田 祐次 KPMGビジネスアシュアランス社シニアマネージャー
4.講演 「わが国企業におけるコンプライアンス推進上の問題点」
中村 直人 中村・角田法律事務所代表

1.経営倫理の実践教育とモニタリング

(貫井 陵雄 経営倫理実践研究センター専任講師)

本日は、企業の持続的成長の要因は何か、ということについて話したい。
企業不祥事は、3つに分類しうる。

・ごまかし(粉飾決算、食肉偽装など)
・不当な競争(独禁法違反など)
・人権・安全の確保

これら不祥事が起きる原因だが、モラルハザードや、業績至上主義ということだけでなく、その背景に何があったかを突き止めなければならない。

1.倫理綱領だけでは不祥事は防止できない。

不祥事を防止するならリスク管理だけで十分であるが、最近不祥事が表ざたになってきたのには、会社のために隠せという論理が通用しなくなってきたからである。現在は、全体の目的意識よりも、個の倫理が重要となってきている。過去の成功体験に基づき上り詰めたトップは、このように大きく価値観が変わってきたことに気づいていない。世の中がどう変わったか、若者の意識がどう変わってきているかという面で、トップの意識は非常に薄い。しかし、「不祥事がおきては困る」という経営者が今なお多い。
ここ3、4年の不祥事をみると、「不祥事を起こさない」という気持ちだけでは、どうしても無理がある。どれだけ立派な会社でも、不祥事が起きる可能性はゼロではない。そこで、「不祥事は起こさない」ではなく、「不祥事を起こさないような努力をし続ける」ということが重要になる。
昨年6月、経済産業省が、プロジェクトチームをつくり、日本版COSO(The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission 米国で経営倫理、内部統制制度、コーポレートガバナンスにより財務報告を改善するために設けられた民間の任意団体)報告書を作成、公表した。その主な内容は、リスクマネージメントのための仕組みを作ることと、内部統制システムを構築させることは経営トップの責任であるということであり、これらを実行することにより、企業不祥事は防止しうると結論づけている。富士ゼロックスの小林陽太郎氏は、「結局、経営倫理とは、当たり前のことを当たり前にやることである」、と言っているが、それがどれだけ難しいことか、考えてほしい。

2.コンプライアンス経営の意義

時代の変化とともに、基本コンセプトが変化してきていることを認識すべきである。たとえば、大学の経営学部が教えることは、「企業の目的は利益の極大化」である。これを否定はしないが、世間が企業をみる価値観は、「企業価値の向上」へと変化し、それが「持続可能な成長の追求」へと、さらに変わってきている。そのために企業は、「日々何を考え、何をすべきなのか」という点にコンセプトを変えざるを得なくなってきている。2002年3月に経済同友会が発表した第15回企業白書では、「企業と社会(ステークホルダー)はお互いwin-winの関係でいこう」とも訴えている。この認識は、これからますます重要になってくる。
それを可能ならしめるには、企業倫理を確立することに尽きる。これは、企業のコアとなる価値観をしっかり確立することであり、企業のミッション・企業理念を社員やステークホルダーにしっかり訴えているか、ということでもある。また、コーポレートガバナンスの確立・強化も重要である。これは、日本ではまだ12〜13年ほどの議論だが、簡単にいえばシステム論であり、「規律あるシステムを作り上げるには何が必要か」ということである。さらに、構造改革と意識改革である。これらを「CSRを意識した経営戦略を進める」と置き換えてもよい。この3つが、これからの企業の成長要因になっていく。

3.コンプライアンスとは何か

この言葉は、complyという動詞の名詞形である。それでは、何にコンプライするかということであるが、1つめは、関係法律全般であり、2つめは、定款やマニュアル等、3つめは、社会の慣習や世の中の常識、そして4つめは、社長の命令に従うことである。この4つめが非常に重要である。
社長が失敗したらどうするのかという議論もあろうが、社長が間違う可能性は、概して一般社員が間違いを犯す可能性よりはるかに低い。

4.コーポレートガバナンスの問題領域

アメリカでコーポレートガバナンスを研究する際に議論されている問題領域について簡単に説明したい。

・企業目的論企業は誰のために運営されるべきか。
・企業組織論どういう仕組みが望ましいか。
・経営者行動論経営者はどういうポリシーをもって企業をマネージするか。
ここで、アメリカでいうintegrityという言葉がでてくる。
・経営者救済論一生懸命やってきた経営者は、どういう条件で救われるべきか。

残念なことに、わが国の報道機関等で議論される際には、3番目と4番目の視点が完全に欠落しているが、この4つはセットで議論されなければならない。そのアメリカで、経営者救済の条件とされているのは、ビジネスジャッジメントルールに適っていれば、判断を間違って失敗したとしても、その経営者を救うことができる。
わが国では3番目と4番目の議論がされていないので、コンプライアンスといって社長の命令が入ると知ると、驚かれてしまう。しかしトップの判断、トップの命令は非常に重要なものであると同時に、トップの判断を救済する議論がされていない
残念なことに、現在わが国では、「こういう場合は救われない」という事例はたくさんある。例としては、大和銀行事件、神戸製鋼所の総会屋への利益供与事件、そして旧日債銀の粉飾決算などである。いずれの場合も、「トップは知らないでは済まされない」ということであり、経営トップの命令の重みや難しさが経営をきちんと行っていくうえで重要になってきている、ということだ。

5.法令順守だけすればよいのか

コンプライアンスを超えてintegrityを目指す経営戦略をとるべきであるという主張をしたのは、ハーバード大学のシャープ・ペインである。Integrityは、誠実・高潔などいろいろ訳されるが、私は、「一貫性」がふさわしいと思っている。日本の経営者は、照れ屋なので、integrityなど、あまり使わない。しかしアメリカの経営者は、惜しみなく使っている。それほどまでに誠実さや首尾一貫した経営が重要となってきているのだ。企業の大小に関わらず、経営者は毎日幾つもの判断をするが、それが経済的な観点のみならず、ステークホルダーにどのような影響を及ぼすかを、日々考えていくことが重要である。
また、企業倫理は、従業員の自己規律と自己成長であり、責任ある行動を促すために重要である。だれも社員に聖人君主になれとは言っていない。

6.経営倫理の内部制度化論

まずは、企業倫理綱領を制定することがスタートである。つくるにあたっては、トップのコミットメント、つまりトップの決意表明と全従業員に対する約束が必要である。なぜ綱領を作ったのかを語るということである。これが経営倫理をしっかり根付かせる第1歩である。よく、誰がトップの首に鈴をつけるのか、という質問を受けるが、これは簡単で、社長を味方につけることと、年間スケジュールを組んで社長や社長と役員の出番や勉強会の日程を事務局が組んで提出し、これをやらないと顧客が逃げると言えばよいだけである。そうすれば、どの企業でも、社長は承諾するので、さほど難しくはない。
次に、倫理担当役員の任命と担当部署の設置である。担当役員は、社長でも誰でもよいので任命してもらうべきである。また、担当部署は、他の部署と兼務でもよいし、2、3人でもよいので設置してもらうべきである。この部署が、全社的運動の推進役になる。
最大の問題は、倫理教育の実施である。これは、事務局が目的と目標、スキーム(教育基本方針)をしっかり構築することが成功への鍵になる。そして階層別・職能別・役員研修などを実施することである。大きな会社で事務局が小さい場合、事務局はトレーナーを養成し、社内に均展させていくカスケード方式をとらざるを得ない。ある先進企業では、3年計画でトップから関係会社まで、自分たちが作った倫理綱領を徹底させた。この期間中のトップの役割は、社内報やイントラネットを通じて、あらゆる機会を捉えて倫理が重要だといい続けることである。確かに最初のうちは倫理アレルギーも出る。しかしそれを克服することが必要である。
倫理監査と相談体制の整備だが、日本にはまだ倫理監査という発想がなく、定着もしていない。しかし是非、今後は進めてもらいたいものである。

7.モニタリングの重要性

日本人は、上から下まで、モニターされることが嫌いである。それでも、企業のためにはモニタリングは欠かせない。モニタリングする時の視点は、統制とか牽制(悪事をばらす)ということではなく、誠実さや自己規律をキーワードにすべきである。これは「支援」であり、相談にのるということである。そうでないと、モニタリングは失敗する。
実践に移す場合、よく採られる手段としては、個人と組織が自主的に行う自己評価がある。しかし他所から何も言われなくとも、自己規律をもってやっていく、というぐらい徹底していかないとうまくいかない。また、監査部門のように全社的な支援体制が必要でもある。
望ましいのは、倫理委員会によるモニタリングの仕組みである。チェックの重要性に鑑みれば、モニタリングは委員会が直接行うに値する。たとえばアンケート調査は、研修等実施した直後に、必ず実施すべきであり、その日の内に回収すべきである。そういう機会がない場合には、毎年、ある特定の日に、実態調査を行うべきである。そして経年変化をみることが重要である。

8.経営倫理のステップアップ

持続可能な成長要因の一つが、経営倫理のステップアップである。その一つが消極的行為によるステップアップである。これは、悪いことをしない、法律を守る、など全ての基本であり、これがないと先へ進めない。しかし、これだけでは先へ進めない。
次に、積極的な実践である。これは、正しいことをしようなどという積極的な企業倫理の考え方を推進しようというものである。
3つ目は、人間は、ここまでくると、たとえばボランティア活動のように、他人のために何かしてあげたいという気持ちが湧いてくるということである。社会貢献は世の中のために何かやるということだが、はじめの2つを抜きにここに到達することはありえない。自分たちが成長して高まってきた時、初めて世の中のために何かしようと思うようになる。
最後に、経営倫理はペイするということである。倫理は報われる。これもアメリカから発せられたメッセージであり、企業はよいことをしなければだめで、悪いことをすれば潰れるということである。ここに至るまでに、企業の利益追求と倫理追求との間の葛藤があった。たとえば、ある会社では、仕事がとれなくても、絶対に賄賂の提供には応じない。そういう会社だということが社会に理解されていけば、その会社に仕事が入ってくるという可能性が高まる。しかしそれは、その会社が企業倫理を経営戦略として位置づけて長年にわたり実践してきたという事実があったからこそである。
言い換えれば、これがCSRの実行ということである。改めて組織を作る必要もなく、自分たちの仕事の中から、どう社会に訴えるか、どう一緒にやっていくか考え続けることそのものがCSRである。

9.企業倫理という考え方の中で、どうCSRを捉えていくべきか

今、CSRの議論が盛んに行われているが、企業倫理、コーポレートガバナンス、CSRの関係について説明したい。
企業倫理とは、企業の経営の原動力・推進力である。これは価値観である。新しい会社では、企業のミッションをもっていないところがある。とくに、合併して生まれた会社は、価値観を統合するところまで、なかなかいかない。しかし、ここがしっかりしないと、社員はついてこない。コーポレートガバナンスは、システム論である。企業倫理に基づいて事業展開するときに、いかなる仕組みづくりが最も望ましいかということである。CSRには2つの言い方があり、ひとつは「自分たちの経営そのものだ」というものである。2つ目は、私の考え方だが、「企業戦略そのものである」というものである。これは企業戦略であるから、PDCAサイクルを回す必要がある。人権や環境や社会性を考慮しながら戦略を練るということに尽きる。
次に、米国型と国連・欧州型の2つのCSR論についても説明したい。
米国型は、企業の規範論である。キャロルの言い方は、企業には、はじめに経済的な責任があり、法律的な責任を全うし、そして倫理的な責任を果たした上で慈善的な責任を果たすということである。このようにアメリカ型のCSR論は、社会貢献的な要素が強く、基本的にリターンを求めない。たとえば学校への寄付、図書館の建設支援などのメセナ行為は、すべてこれに該当する。
もうひとつは、国連・欧州型だが、これは「企業の約束論」である。経済同友会の主張は、どちらかというとこれである。環境報告書で自分たちの活動をPRする等があるが、基本的にリターンを求めるというより、リターンを追求し、リターンを通じて社会に貢献する、という考え方である。たとえば、自動車会社の企業理念は環境保護である。自動車はガソリンを燃やして走るので、彼らは環境に非常に敏感である。したがって、いかに環境にやさしい車を作るかが、かれらの最大の問題意識となる。そのために大変なお金を注ぎこんで、たとえば省エネカーを作る。ハイブリッドカーをつくる。これが、国連・欧州型CSR論を地でいく考え方である。投資をするところは米国型と同じだが、それで儲けるところが違う。
このように、2つのCSRが同時並行的に進んでいるが、国連・欧州型の特徴である人権・労働・環境に対する考え方が米国型の中に取り込まれようとしているように見受けられた。欧州では、CSRヨーロッパなどが新しい基準作りをしているが、もっと進んだ考え方として、サプライチェーン・マネージメントの中に、どれだけCSR的な考え方を盛り込んでいくか、ということである。
コンプライアンスは、企業倫理を形づくる基本要素のひとつであるため、重要だが、それだけではだめだ。それを飛び越えた高いところに企業倫理があると思ってほしい。

[ このページのトップへ ]

2.パネルディスカッション「企業倫理徹底に向けた取り組み」

パネリスト:宮本三菱地所コンプライアンス部長
岡田雪印乳業コンプライアンス部長
水野全日空法務主席部員
進行役:田中日本経団連常務理事

田中

まずは、どういうきっかけで企業倫理・コンプライアンス体制を構築されることになったのか、経営理念との関係をどう整理されたのか、伺いたい。

宮本

当社は、平成9年に、総会屋に対する利益供与事件を起こした。現在会長の福澤が社長として、抜本的な改革を行うことにした。その年に業務管理委員会を立ち上げて、その年のうちに三菱地所の行動憲章を策定した。続いて平成10年に、「三菱地所としての3つの約束」を定めた。1つめは、反社会的勢力との関係遮断、2つめは、透明で公正な発注、3つめは、節度ある接待を、である。この3つが、現在の三菱地所のコンプライアンスのコアとなっている。
これを受けて、具体的な8か条の行動原則を定めており、実践のための指針をさらに詳しく定めている。三菱地所グループは、現在43社で構成されており、今申し上げたことは、それら全ての会社にとっての基本理念と行動規範である。

岡田

当社は大きな不祥事を起こして現在再建途上にある。2000年6月に大阪工場の食中毒事故を引き起こし、2001年には、「雪印乳業行動憲章2001」をとりまとめた。にもかかわらず、2002年の1月には、子会社の雪印食品が倫理観の欠如に伴う牛肉偽装を起こしてしまった。
その当時、取締役も全員変わり、会社組織も変わったが、何よりも社員が、雪印乳業は存在し続けてよいのか、ということについて、考えさせられた。その模索の中から2003年1月に、出来上がってきたのが、雪印乳業の企業理念である。
行動憲章を作ったときに、企業理念が身についていなかったことを反省し、企業理念も社員全員でつくり、また、それを実践するための行動基準を作ろうということになった、行動基準のフレームワークを作り、1500人の社員のうち800人にヒアリングをし、原案をつくって社員とパート全員にアンケートを行った。こうして理念と行動基準を社員全員で守っていこうというコンセンサスができ、非常に明快なものになった。

水野

全日空の場合は、少し状況が異なり、コンプライアンス体制を立ち上げるきっかけが特にない中で立ち上げた。2002年秋から準備をはじめ、2003年5月に社長からコンプライアンス宣言を行い、活動を始めた。確かに過去にはロッキード事件を経験しているが、それがきっかけとなったわけではない。
作った理由は、従来の経営スタイルはスタッフの自主性に任せる部分が多かったのだが、今後、システムや体制がないと、一歩誤ったときに対応できないのではないか、ということに社員自らが気がついたからである。そこで、自ら勉強した上で、経営層にこういうシステムを導入してはどうか、と具申した。社会の動きがそういう状況であったので、社長以下経営層が必要性をよく理解をしてくれ、コンプライアンス、リスク管理、内部監査の組織を一度に立ち上げる準備をした。
議論の中で、企業倫理をどう位置づけるかについて検討したが、健全で安定した経営こそが重要であるという意見に集約された。しかし、これだけだと守りの体制になってしまうので、さらに一歩進めて、企業価値を創造するようなコンプライアンス体制を構築することとした。
経営理念との関係でいえば、経営理念の下にグループ行動指針が6か条あり、経営理念の実践のためのガイドラインと位置づけた。とくにそのうちの3条の実践のために、行動基準を具体化した。

田中

それぞれ典型的なパターンの話を伺うことができたと思う。
雪印乳業の場合は、企業の存続が問われる中で、全員参加で作り上げたものであり、効力のあるしっかりした規定になっていると思う。
三菱地所の場合では、当時は総会屋との関係が次々に明るみに出たので経団連としても臨時総会を開いて対応を協議した。それをトップが重要な危機と認識して体制を構築したということで、ある問題を契機にトップダウンで体制を構築した、よい例であると思う。
全日空の場合には、今は大きな問題がないが、会社の将来を見据えて問題対応と会社の成長を考えていく中で、きちんとしたものを作っておくという判断だったのだと思う。
このように、きっかけはいろいろあっても、それをよいチャンスと捉えて進めていくことが必要だということだと思う。
次に、取引先も多様化し、グローバル化が進む中で、憲章を実践していくための社内体制をについて聞きたい。

岡田

雪印乳業の場合、推進エンジンになったのは、2002年6月に設置された企業倫理委員会である。社外取締役で元消費者団体連絡会事務局長の日和佐信子様に委員長をお願いし、BERCの田中様、弁護士の畔柳様、品質関係に造詣の深いコープ東京品質部長を経験された鈴木様、公衆衛生研究所におられた五十嵐様、という5名の、いろいろな分野の有識者の方々にメンバーになっていただいた。社内では副社長以下、当初は3名、今は4名が加わっている。そこで、企業倫理と品質という観点から「食の安全」を確保することを提言してもらった。
社内体制としては、2年前に企業倫理室を立ち上げた。今はコンプライアンス部になっているが、ここが企業倫理委員会の事務局と、企業倫理徹底の専門部署になっており、以前から制度のあったホットラインの窓口にもなっている。
グループ会社の場合は、2003年1月に分社した日本ミルクコミュニティ社のように、子会社でない場合には、連絡会を設けている。子会社の場合は、グループホットラインを作って、グループ全体のヘルプラインを作り、当社がコンプライアンス指導をしている。

水野

全日空の場合、ANAグループの行動基準があり、教育研修、コンプライアンス担当と共通の目的で業務を行っている監査部が行う内部監査、アンケート調査を中心としたモニタリング、派遣社員を含め通報できるANA法務部に窓口があるヘルプラインがある。
体制としては、社長の下に代表取締役副社長を委員長とするコンプライアンス委員会を設置し、その下に法務担当役員が務めるチーフコンプライアンスオフィサーがいる。なお、ANAグループは統一したコンプライアンス体制で行っているため、すべての関連会社に代表取締役または常勤取締役のコンプライアンスオフィサーがいる。事務局は法務部にあるが、コンプライアンスオフィサーの手足として、各部門に、実際の教育を担当する業務管理担当の部課長クラスのコンプライアンス・リーダーを選任している。

宮本

三菱地所の場合、もともとの制度が反社会勢力との関係断絶だったことから、今日に至るまで、3つの段階で制度を構築してきた。
最初の段階では、平成9年10月から約1年間、今のコンプライアンス室の前身である渉外管理室を設け、反社会的勢力との関係断絶に傾注した。ところが、当時の関係者たちは、企業倫理の問題も大きいことに気づき、そのころBERCの会員にもなって、検討を進めた結果、平成10年10月からは、第2段階として、企業倫理全般に取り組んでいこうということで、渉外管理室を業務管理室に改組し、コンプライアンス全般に関わる全社員研修やアンケート調査の実施、社内相談窓口の設置を行った。平成13年の段階で、本当にうまく機能しているのかどうかが気になり始め、PDCAによるチェックを行った。また、内部統制の観点からの見直しも行った。その結果として、3つの問題が浮かび上がってきた。1つめは、様々なルールを決めたが社内規定として明文化していないのはまずいということ、2つめは、外から見ている人に対して説明不足なこと、そして最後に、グループ的な展開が弱いということ、であった。そこで平成14年4月から、コンプライアンスという定義を用いて、業務管理室をコンプライアンス部に改組して現在に至っている。
グループ展開を進めるために、まずは行動憲章やヘルプラインをグループ各社と共有することにした。また、共通の教材やハンドブックを作成、配布した。取引先との関係については、当社は発注側になることが多いので、2003年10月に外部のヘルプラインも追加したが、取引先も利用できるようにした。海外の場合は、ロックフェラーグループだが、先方が従前より実施してきているコンプライアンス体制の内容を確認して、尊重しているところである。

田中

雪印には、倫理委員会等で、社外の声をどう取り入れているのかについて、全日空には、ヘルプラインの仕組みと利用状況について、三菱地所には、反社会的勢力の進出への対策を、体制面からどう支援しているのかについて、お話いただきたい。

岡田

社外の声は、できるだけ経営に反映させたいと思っている。企業倫理委員会は、取締役会の諮問委員会という位置づけであるが、この委員会自身が取締役会に対して独自に提言できる機能ももたせている。また、提言した内容を、雪印乳業がどう実行したかを検証する機能ももたせている。つまり、委員会からの提言は、当社にとって極めて重く、提案されたものを実行しないわけにはいかない。
もうひとつの社外の声としてお客様センターがあり、365日朝9時から夜7時まで受け付けている。事件があった次の年1年間で、15万件ほど連絡があった。今は、4万件ほど受け付けている。その中で、商品に対する苦情・不満が約25%だが、商品の改良改善につながるものもかなりある。
さらに、社内の風土改革・意識改革をしているが、社員が気づかないと、なかなか変えられないのが現状である。社長の高野瀬も言っていることであるが、2つの気付きが重要である。1つは、経営の中枢に入ってもらって気づかされる。これが企業倫理委員会の役割である。もうひとつは、われわれ社員全員が、お客様や消費者全員から話を聞いて、気づくことであり、お客様モニター、全工場の開放デー、酪農生産者との対話会を、ここ3年間、積極的に開催してきた。

水野

全日空の特徴として、効率的な運用を旨として、費用や人手をなるべくかけずに、専門部署も置いていない。ヘルプラインも法務部の中の自分を含めて2名が兼務で担当しており、守秘義務の関係から、他のスタッフはタッチしない。社外の窓口は用意していない。
もうひとつの特徴として、体制は全て手作りであり、コンサル始め外部の方々に頼ったことはない。
実際に多いのはメールと電話である。電話はフリーダイアルにしてある。また、匿名での相談を受け付けている。秘密保持と不利益取り扱いの禁止は徹底して行っているが、アンケートをとると、まだ社員から不安の声があがっており、これが解決されないとヘルプラインが十分機能しないと思う。当社の場合、担当者が秘密を守らない場合懲戒処分にするという内部規定まで設けているが、それでも十分不安を払拭できておらず、今後の課題となっている。
利用状況は、制度を立ち上げてまだ1年たっていないが、これまでで約30件ほど相談があった。

宮本

グループ会社へ展開するにあたり、グループ会社にもコンプライアンス担当者を置き、自社内にも、各部に担当者を置いている。その担当者の数は約90名になり、年2回、定例の連絡会を開催している。そこでは情報発信や注意喚起をしている。そういう中で、事例に対応するような渉外ガイドラインを設けており、全社員に配布し、さらに研修ビデオも作成して全社員が見られるようにしてある。また、実践担当者を対象とした講演会を、年1回実施している。コンプライアンス部の一番大きな機能は、相談を受けて支援することであり、事案が発生するたびに相談してもらっている。相談件数は、年間400件ぐらいある。そこで行っていることは、情報の共有である。ある部署で困っている際は、大体、他の部署でも困っていることが多い。そこで、タイムリーにネット上で注意喚起をしたり、グループ会社に連絡したりしている。

田中

倫理の浸透を図るために、何をしているか聞きたい。研修を含め、どのような手段を講じているか。

水野

教育研修制度を導入して約1年が経過し、次の1年でどこまで充実させるか、現在企画中である。キーマンであるコンプライアンスリーダーに対する研修は、知識付与と意識統一であり、力を入れた研修プログラムを組むと同時に、少なくとも1年に1回は研修会を開催し、すり合わせや課題の抽出をやっていきたい。また、人事部と協力して、コンプライアンスリーダーに任命している人たちに、日本商工会議所がやっているビジネス実務法務検定の3級は必ず合格する義務を課し、普段現場で法律を使っていない人についても基礎の部分を身につけてもらう。
階層別研修がもっともやりやすいところだが、新入社員、新任管理職、部長職、役員に対する勉強会を実施し、コンプライアンスへの意識付けをしていく。法律別、職種別のセミナーを来年度は実施していく予定がある。ただ、業務繁忙の中、なかなか研修に参加できないという事情に配慮し、eラーニングを導入し、自分のペースで進めていくことができるようにしていく。
また、ホームページの活用も進めていく。法務部のイントラページを利用して、そこで各種情報を提供しており、有効に利用されている。この類の情報は、掲載して放っておくと飽きられてしまうので、なるべく頻繁に改訂している。

宮本

ルールの明文化に加えて、トップがいろいろな場で頻繁にメッセージを発しており、これがグループ各社の社員にインパクトを与えている。また、グループ会社の社長と三菱地所の部署長以上を集めて有識者による講演会を年1回、定例化している。また、実践担当者レベルに対する講演会も同じく年1回、定例化している。さらにBERCにも講師の派遣をお願いして、全社員を対象とした延べ2日の集合研修を平成11年から15年まで、4年間かけて実施している。
さらに、グループとしての研修のために、当社オリジナルのビデオを作成、利用している。もちろん、イントラネットを通じた情報発信とグループ展開を行ってからは、定例のアンケート調査を実施しており、社員の意識が明確に浮かび上がってきており、参考になる。
また、資料はコンプライアンス部が作るのではなく、たとえば営業であれば発注チェックシートというものを作ってもらい、セルフチェックをしてもらっている。これからもチェックシートは増やしていく予定である。2004年であれば、情報管理のチェックシートを立ち上げようとしている。なお、コンプライアンスの推進状況のチェックについては、内部監査セクションが、中立的な立場から行うことになっている。

岡田

雪印では、各部門の所属長(部長・支店長34名)に行動リーダーになってもらい、倫理定着を実践してもらっている。リーダーには、それぞれ年間計画表をつくってもらい、それを実践して毎月報告をもらい、企業倫理委員会と役員会にあげ、見える管理を目指している。
教育研修については、社内外にかかわらず、できるだけ多くの機会を捉えて実施している。さらに事例研修も行っているが、ここでは、行動憲章の何ページのどこに書いてあるかを聞いている。これにより、行動基準をできるだけ多くの人に読んでもらうようにしている。
1月23日は、雪印食品の牛肉偽装事件が発覚した日であるが、この日を「事件を風化させない日」として活動をしている。1年目であった昨年は、その日にあわせて行動基準を発表した。2年目の今年は、1年間行動基準の浸透に取り組んでどうだったか、活動報告と社外からどう評価されているか、社外の有識者によるパネルディスカッションを実施し、次の年もがんばろうと呼びかけた。社長の高野瀬自身も行動基準が自分の経営そのものだと位置づけている。先日も「事件を風化させないためには、行動基準ともう一度向き合って、ここ1年の自分の行動と基準との関係を見直す日としたい」と言っていた。行動基準を最もよく読んでいるのは社長である。「社員全員で作ったので、読めば読むほどよくわかってくる」ということだった。
昨年9月、社員を対象にアンケート調査をしたが、当社のホットラインのことも聞いている。私が企業倫理室長になった1年半前に全国を回って聞いたところ、殆どの社員がホットラインの存在を知らなかった。それ以来、ホットラインを使ってほしいと言っててきたが、その結果、平成14年度には、34件の利用があった。その半分が人間関係で、その殆どは部下から上司に対しての苦情だった。そういうものを聞きながら、職場の風土を明るくしていきたいと思っている。
幸いにも、アンケートで改めてホットラインの存在を聞いたところ、86.1%の社員が知っていると答えてくれた。他に、行動基準を読んだかどうかについても聞いたが、99.5%が読んだと回答した。
この結果について、私はある程度満足して社外取締役の日和佐さんに伺ったところ、「1回しか読んでいない人が半数以上いる。皮膚感覚になるまで読み込んでほしい。この程度ではだめだ」と言われた。いずれにしても、継続が必要だと、改めて認識した。

田中

各社とも浸透には苦労している。しかし、部署ごとにコンプライアンスリーダーを育成して、実践させることを含め、いろいろ取り組んでいることがわかった。いずれにしてもトップの認識が重要だということは、よくわかった。

質問

各社とも、コンプライアンスリーダーを設けているが、これをどう評価しているか。また、各社ともヘルプラインを設けているようだが、受けた内容をどう処理しているか。

水野

評価は、難しい問題であり、人事部も交えて検討している。そこで、管理職に対する評価の1項目として、コンプライアンスへの取り組みを入れている。他に、現在はリーダーだけに課しているビジネス実務法務検定についても、管理職全員に取得させたい。さらに将来的には、コンプライアンスリーダーを務めることが、経営層への登竜門となるようになればと思っている。
ヘルプラインへの通報の実行組織だが、相談を受けているのは法務部であり、自分たちで対処している。ヒアリングや調査は該当の部署や監査部と相談しながら行っている。

岡田

人事上の目標管理の中に行動基準の徹底、行動基準の定着という項目が入っており、全体的な評価の中に組み込まれている。加えて階層型の試験制度をとっているが、試験の問題の中にも行動基準の項目、企業倫理の項目が入っているため、教育・昇進の際のチェック項目となっている。
ヘルプラインを「企業倫理ホットライン」と当社では名付けているが、この担当者は、企業倫理担当役員と、私とそして私の部下の3名だけである。そのことは、社内にも公表しており、できる限りプライバシーを守る方法で調査している。その結果、調査に時間のかかるものもある。具体的には、通報を受けると、申告者に、どういう調査をするかを告げる。対処のスピードはケースバイケースで決めている。

宮本

リーダーは部長、所長であり、それを補佐するのが部長・次長クラスである。評価は、目標管理であり、雪印と同様であるが、昇格昇進試験の中にまでは入れていない。
ヘルプラインについては、外部のヘルプラインを使っているので、匿名も可能としてある。社外を利用することに決めたのは、取引先まで対象を広げた際、取引先が三菱地所のコンプライアンス部に電話するのは無理だろうということになった。そこで、通報があると、コンプライアンス部には匿名の状態で情報がくる。調査が必要な場合には、調査会社を経由して本人の了解を得る。本人が調査を希望した場合には面談して、社内であれば各部署に、関連会社であればコンプライアンス担当役員と連携しつつ対応している。

田中

CSRについて、どう取り組んでおられるか。定義も混乱しているようでもあり、簡単に説明してもらいたい。

水野

まだCSR推進の組織は検討中である。法務部が担当しているコンプライアンスはCSRに近いものがあり、大きくいじらなくとも対応できるのではないかと考えている。環境や社会貢献の部署とも積極的に連携して対応していきたい。

岡田

2004年の1月1日に企業倫理室に監査部門をくわえてコンプライアンス部に名称変更をした。その際、CSRという名称も検討したが、まだ再建途上と言うこともあり部署名に使うのはやめた。ただ、コンプライアンスがCSRにつながるよう推進していこうということは今年の目標に組み込んだ。これから1年かけて議論していく。

宮本

コンプライアンスはじめ三菱地所の管理部門は8つあるが、これら8つが、それぞれコンプライアンスの推進を分担しながらやっている。CSRというのは、いろいろな考え方があって、共通用語になっていない。そこで、三菱地所グループとしてCSRをどう捉えるかということを今月から8部署で勉強を始めることにした。

田中

日本経団連の基本的な考え方は、企業の社会的責任は、企業がそれぞれの特色を生かして、それぞれの想いを込めて取り組むからこそ社会的責任であるという考え方である。アメリカなどに調査にいくと、まさにそういうことであり、自分たちの判断でやることで会社に競争力をつけ、発展させていく。これを、国やISOの規格に合わせさせるのはおかしいという考え方だった。
そこで、日本経団連としては、会員企業の申し合わせである企業行動憲章と実行の手引きに足りないところがあれば見直そうという姿勢である。国やISOの規格が新たにできて、ダブルスタンダードになることだけは避けなければならないと思っている。

[ このページのトップへ ]

3.ケーススタディ

(横田KPMGビジネスアシュアランス社シニアマネージャー)

(冒頭説明部分のみ掲載)

(1)企業不祥事の発生原因

頻発しているわが国における企業不祥事の発生原因は何であるかを始めに問題提起したい。企業不祥事の多くは、行政の監督不行き届きや個人のモラルの低さが原因で発生しているのであろうか。そうではなく多くの企業不祥事は、組織構成員に倫理的意思決定を促す仕組みが欠如していたことが大きな発生原因となっていることを指摘したい。元来人間は、誘惑やプレッシャーに弱いものである。人間である社員が日常業務を行う上で、そうした誘惑やプレッシャーに抑止がかからなければ容易に企業不祥事や不正行為が発生してしまう。そうした非倫理的意思決定を人間である社員がしてしまわないよう組織の仕組みが必要である。
1997年の経済広報に、サラリーマン1,000人に、なぜ不祥事が起きるのかを聞いたアンケートの集計結果が出ている。最も回答が多かったのは、「問題があっても指摘しづらい企業風土の存在」である。次に、「経営者の自覚不足」「企業倫理・行動基準が不明確」「チェック体制の不備」「トップにマイナス情報が伝わらない、あるいはトップがマイナス情報を聞こうとしない」などが続く。これらの「組織の仕組みから発生している問題」の原因にメスを入れないと、企業不祥事等の問題行為はなくならないといえる。
また、KPMGがアメリカの特定企業の従業員約3,000人に対して行った匿名の紙ベースでのコンプライアンス浸透度調査では、「コンプライアンス改善には何が必要か」という問いに対し、もっとも回答が多かったのは、「基準遵守へのインセンティブがあること」であった。社内規程等を真面目に遵守する社員にとっては、規程等を無視あるいは軽視して業績をあげた人間が先に出世するような会社では「正直者がばかを見る」ということになる。これに続くのが、「経営トップのより強力なコミットメント」「時間とリソース」等が続く。少数意見だが、端的に「現実的な利益目標であれば」という回答もあった。
次に、日本で企業不祥事があった際の典型的な企業の反省の弁を見てみたい。それらには、コンプライアンス体制構築の際の基本的な課題が含まれている。

問題が経営トップにあがってこない情報伝達の問題
問題を放置しないという感覚が希薄個人の倫理意識の欠如
何を守るべきなのか不明社内規程等の理解不足
管理責任が不明確であり自覚なし体制整備が不十分
自分勝手に問題の軽重を判断リスク評価が不十分
ライン管理者等に任せきりモニタリング不足
問題発生時の対応不十分で事件が拡大クライシスマネジメント欠如
コンプライアンス対策が形式に流れた有効なPDCAの欠如

これらを念頭において、社員に倫理的な意思決定を促す組織の仕組みを作っていく必要がある。企業倫理とコンプライアンスを足したインテグリティという考え方があるが、そうした仕組みを組織内に埋め込む必要がある。KPMGでは米国で開発したインテグリティ・マネジメント・システムという方法論を活用し、日本のクライアント企業のコンプライアンス体制構築のお手伝いをしている。こうした米国の方法論が日本でも参考となる理由は、コンプライアンス先進国である米国の考え方なり各種指針が既に日本においても採用されているという現実があるからである。例えば、金融庁の検査マニュアルや経済産業省の内部統制に関するガイドラインは、いずれも米国の内部統制のガイドラインであるCOSOを参考にして作成されている。

KPMGが考えるコンプライアンス体制構築の目的は、次の3つである。
・問題行為を防止すること
・問題行為の発生を発見すること
・問題発見時に適切に対処すること
である。

いかなる体制を構築しても決して企業不祥事等の問題行為がゼロになるとは考えられない。こうした状況下で特に重要なことは、発生した結果だけで企業の責任等が判断されるというのではなく、構築あるいは改善しようというプロセスがもっと重視されるべきであるということである。そうすることにより企業に対してコンプライアンス体制を構築しようというインセンティブが働くようになる。こうした米国の連邦量刑ガイドラインで採用されている考え方が我が国でも重要であると経済産業省の内部統制のガイドラインも指摘している。

(2)コンプライアンス体制に必要な仕組み

問題行為を防止するための仕組みには、リーダーシップ、ガバナンス、行動基準、情報とコミュニケーション、教育研修、パフォーマンス管理システム等が必要である。問題行為の発生を発見するための仕組みには監査とモニタリングシステムが必要である。問題発見時には、対処と継続的改善システムが必要である。これらがコンプライアンス体制の全体像である。

主たるポイントは以下の通り

※ 詳細は、KPMGビジネスアシュアランス著、「コンプライアンス・マネジメント」東洋経済新報社刊をご参照いただきたい。

[ このページのトップへ ]

4.わが国企業におけるコンプライアンス推進上の問題点

(中村 直人 中村・角田法律事務所代表)

(月刊「経済Trend」2004年4月号より転載)

なぜいまコンプライアンスか

冷戦の終結とグローバル化の進展に伴い、ビジネスの世界にも新時代にふさわしい枠組みを求める声が高まり、真のグローバル・スタンダードと国際ビジネスルールの確立が求められている。そして問題となるのは、どうやってそのルールを守らせるかというコンプライアンスである。
その手法の一つとして、米国ではルール違反に対する厳罰化と、巨額の制裁金の賦課が用いられている。たとえば大和銀行は3億4000万ドル、インサイダー取引を行ったマイケル・ミルケンは10億ドルの支払いを求められた。
このように法を犯した企業が受ける社会的制裁の規模はより大きなものとなっている。また、企業価値が産業資本から人的資本へ移行することに伴い、法令違反をした企業を存続させる必要がなくなってきていることも見逃せない。たとえば、アーサーアンダーセンが崩壊したからといって、誰も困らない。これは、同社のノウハウが勤務していた公認会計士やコンサルタントごと、別の事務所に移転し得たからである。

社会的責任投資とコンプライアンス・リスクの認識

今日、企業はコンプライアンス・リスクに弱くなっている。同時に、コンプライアンス・リスクに対する認識も深まっており、機関投資家は「コンプライアンス違反の可能性」という基準で企業を見るようになってきている。これは、リスクが高いと企業価値が減算されるが、逆にリスクを低減すれば企業価値が向上するということにほかならない。企業の中で、これまで金食い虫だと思われていたコンプライアンスが、一転して収益部門になっているといえよう。

取締役の監督責任のおよぶ範囲

企業は、最低限、すべての活動が適法の範囲内で行われることを確保しなければならない。同時に、企業価値の向上のため、また株主価値の向上のために、前向きに取り組むべき課題も少なくない。なお、役員が問われるのは過失責任であり、事件の予見可能性がなければ責は問われないことから、日頃のコンプライアンス活動を強化することで株主代表訴訟から身を守ることができる。

内部統制組織構築義務

最近の企業不祥事絡みの訴訟では、大企業には内部統制組織を構築・維持することが義務付けられる、との裁判所所見が述べられている。コンプライアンス担当役員を置き、十分な予算をかけて社内のほかの部署より強力な専任部署を設け、そこに優秀な人材を投入することである。

組織管理の基本

組織管理の基本は、社員に対して周到に教育研修を行い、業務記録を残させ、それを第三者にチェックさせ、不正が発見されれば厳しく処分することに尽きる。教育研修のコツは、して良いことと悪いことを明示することである。また、不正発覚後の処分については、会社の姿勢が口先だけではないことを示すために、厳しくすることが必要である。

内部通報制度

内部通報制度は、違法行為の防止と企業価値の維持・向上のため、そして内部統制システムが機能していることの確認のために必要である。また、企業が本気で取り組んでいることを社内外に浸透させることや、従業員のモラル向上に資する。
主な目的は、法令違反のみならずセクハラ・人事の不満等についても積極的に通報させることである。通報先は、社内のコンプライアンス推進部署、監査部門、社内外のコンプライアンス委員、コンサルタント、弁護士等、会社の事情により決めてよい。連絡を受けた窓口担当者は、情報を知りうるものを限定するなど秘密の保持に配慮するだけでなく、通報者が特定されないよう配慮することが求められる。調査の結果、不正が見つかった場合には、厳正な対処を行うだけでなく、通報者に結果を通知することが必要である。もちろん、通報者に対する不利益な取り扱いは厳禁である。
また、違法行為を行った者に対する処分を厳しくすることは、なによりも遵法者へのインセンティブになる。いずれにしても不祥事は、いかに防止に努めても必ずおきるものである。不祥事を積極的に公表することは、企業が自らリスクを低減し、企業価値を向上できたことと解するべきで、隠蔽する必要は全くない。

どこから始めるか

まずは経営トップの意識を高めることが重要である。その上でコンプライアンス担当役員を任命し、専任部署を設けるべきである。次に、十分な予算を確保した上で、会社の経営理念に即した形で行動指針を明確化し、外部コンサルタント等と相談しながら自社のリスク評価をすることが必要である。そうすれば、リスク管理体制の構築も難しくなく、コンプライアンス・プログラムも策定できよう。その後、マニュアルや教育体制を構築し、各部門にコンプライアンス担当者を置き、監査・検査部門を設置・拡充し、内部通報制度を設けることである。
いずれにしても、いきなり素晴らしい内部統制システムを構築できるわけではない。まずはできることから始め、日々改善の積み重ねを通じて社内全体の意識を改革していくべきである。

[ このページのトップへ ]

日本語のホームページへ