[ 日本経団連 ] [ 企業倫理 ]

第1回企業行動委員会企画部会概要

(未定稿)
日時2004年2月16日(月) 15:30〜17:30
場所経団連会館 12階 ダイアモンドルーム

I.平田光弘東洋大学経営学部教授発言要旨

1.企業不祥事はなぜ起こるか

人間によい人間と悪い人間がいるように、企業にもよい企業とよくない企業がある。企業性善説や性悪説が言われるが、私はいずれによって立つことも望まない。
企業の不祥事はいつでも起こりうることであり、企業不祥事を根絶することは難しい。そこで企業としては、いかに事前と事後の処理をきちんと行っていくかが重要である。
不祥事は、企業のみで起こるものではなく、公共事業体をはじめ、様々な組織で起こっている。その最大原因は、組織体の構成員に「不祥事を引き起こしたら存亡の危機にさらされかねない」という危機意識が薄いことである。企業に限定していえば、経営者がどれほど立派な経営観や倫理観をもっていても、またどれほど行き届いた行動憲章や統治システムを導入していても、経営者を始めとするすべての構成員に危機意識がないかぎり、不祥事は必ず起きる。
企業不祥事を防ぐためには、全ての構成員に危機意識をもたせるよう教育を施し、危機管理を徹底させていく以外に方法はない。そのための意識改革としていえば、そもそも「不祥事」という言葉を使わないことである。この言葉は、「縁起の悪いこと」、「運の悪いこと」、あるいは「不幸・不運・災難」といった他律的な意味を持つ。企業人がそう受け止めている限りは、不祥事はなくならない。企業は、不祥事を自らの不正として受け止めることから始めねばならない。
また、最近の傾向として、安易に企業統治に頼りすぎる傾向にある。いわば「企業統治の安売り現象」であり、不祥事がおきる、あるいは業績が悪くなると、ガバナンスが悪いからだと言われることが多い。しかし、企業統治には、不祥事の防止や競争力の強化を可能とする機能はないので、過剰な期待をすべきではない。

2.企業不祥事の4つの波

企業不祥事は、戦後、時代の変化とともに、次の4とおりに分類できる。

  1. 1960年代までのもの
    産業公害、環境破壊、欠陥・有害商品、誇大広告、不当表示等、企業活動の過程で事後的に発生し、結果として反社会行為になったもの。
    → 企業の社会的責任や企業倫理が問われた。

  2. オイルショック後のもの
    投機、買占め、売り惜しみ、便乗値上げ、株価操作、脱税、背任、贈収賄等、最初から反社会的であることを知りながら、意図的に引き起こされたもの。悪質化。金額が拡大。
    → 企業の社会的責任や企業倫理が問われた。

  3. 1990年代のもの
    価格カルテル、入札談合、贈収賄、業務上過失致死、私文書偽造・行使、不正融資、内部取引、利益供与、損失補てん、粉飾決算等。最初から反社会的であることを知りながら、意図的に引き起こされたもの。さらに悪質化、金額が拡大。
    → 企業の社会的責任、企業倫理に加え、企業統治が問われた。

  4. 2000年代のもの
    集団食中毒、食肉偽装、リコール隠し、原子力発電所の損傷隠し・点検記録改ざん、防衛装備品の水増し請求等。最初から反社会的であることを知りながら、意図的に引き起こされた。さらに悪質化、金額拡大。社会的影響の拡大。消費者の信頼を損ねた。内部告発により発覚。
    → 企業の社会的責任、企業倫理、企業統治が問われた。

これら異なる時代に発生した不祥事の共通の根本原因は、日本企業の体質が古いからだと言う指摘も聞かれるが、それより、経営者をはじめとして企業人が危機意識をもつこと。そして徹底した教育を行うことの方が不祥事の防止に資すると思う。2000年代に入って不祥事を起した企業は、みな立派な経営理念を掲げていたが、起業時に定めた経営の原点を忘れて不祥事を起している。そのような意味からも、コンプライアンスとクライシス・マネージメントが重要であり、この二つが不祥事防止への早道である。
日本経団連は、これまで企業行動憲章を発表し、会員企業に働きかけてきたが、憲章の中には、ガバナンス、コンプライアンス、CSRの全てが十分に織り込まれており、新たに付け加えるべきことはない。しかし、危機意識を高めることと、クライシス・マネージメントについては、必ずしも具体的に書かれていないので、明示するべきではないか。
私は、日本経団連による2002年の企業行動憲章改定を受けて、会員企業が自らの行動憲章制定に取り組んだことと、反社会勢力との関係断絶に向けて取り組んできたことを高く評価している。これと関連法律の強化が相まって、かなりの効果をあげている。手引きに記載のある「企業不祥事防止のための取り組み強化」についても、適切な措置を講じてきていると言えるが、それにもかかわらず不祥事が起きるという現実が、どれだけ立派な憲章や手引きを作っても不祥事を防止しえないという証左となっている。

3.コーポレートガバナンスの2つの側面

企業統治(コーポレートガバナンス)は、コンプライアンスと狭義のガバナンスの2つが車の両輪のように必要だと考えている。コンプライアンスが前提となり、ガバナンスが力を発揮する。鉄道に例えると、コンプライアンスとはレールを敷くこと(不祥事防止を通じた不健全経営の健全化)であり、ガバナンスは競争力強化(非効率経営の効率化)である。しかし、狭義のガバナンスはあくまでも業績改善のためにできることのひとつに過ぎず、ガバナンス改善だけで企業業績が良くなると思うことは間違いである。ガバナンスの改善は、主に取締役会と経営機構の改革であり、企業の競争力向上につなげていくものである。ただ、経営者の行動を監視していくといっても、あまり強くいうべきではないが、野放しにしろという意味でもなく、そのための仕組み作りこそがガバナンスの改善である。
このようなガバナンスの考え方が先進工業国で出てきた背景には、3つ理由がある。1つめは、ガバナンスの問題は、所有と経営が分離した大企業の問題である。規模の小さい企業については対象外となってきた。大企業を中心とした社会では、企業は社会から要請された商品・サービスの提供をすることで社会に貢献する。その結果として、株主の利益が軽んじられる結果を招いた。2つめは、企業はさまざまな社会の制度の一部に取り込まれており、さまざまなステークホルダーとの関係を保ちつつ存在せざるを得なくなってきているということである。3つめは、これまで「眠れる獅子」であった株主が発言する株主になってきたことである。これら3つの原因が複合的に絡まって、コーポレートガバナンスの必要性が高まってきた。
企業が大規模化することにより社会に対する影響が拡大していくにつれ、企業の発展は必ずしも社会の進歩につながらないという評価も生まれ、公害・消費者問題などが露呈するようになった。このように企業の社会的責任は、戦後不祥事の第一段階から問われてきたが、1980年代の安定成長期には、企業の社会的責任も、企業倫理を叫ぶ声も、すっかり影をひそめてしまった。ところが、90年代に入り、バブルが弾けて不祥事が次々おこる。改めて企業の社会的責任やコンプライアンス、ガバナンスが問題とされるようになってきた。コーポレートガバナンスが求められるようになった理由は、企業不祥事の発生である。企業倫理やその当時から行ってきた社会的責任もそれなりの抑止力としての役割を果たしてきたが、コーポレートガバナンスとコンプライアンスが不祥事防止に大きな効力があると信じられ今日にいたっている。

4.CSRとコーポレートガバナンスの関係

最近求められている企業の社会的責任は、1960年代から70年代にかけて求められてきたものとは次元が違うという人がいるが、私は、人権や環境問題、雇用問題など、中身こそ違っても、かつて問われた社会的責任の延長線で今日問われている社会的責任を考えなければならないと思っている。市場経済における企業の運営原理のひとつは、収益性あるいは営利性であるが、これだけでは済まなくなってきている。他方、新たに生まれてきた企業の機能は、企業の社会性に対する必要性を浮かび上がらせることとなった。企業の運営原理は、その2つしかない。今日CSRで問われている問題は、すべて社会性に包含される。
企業が、企業と社会との関係の中で、たった1つの利害関係者である株主のことのみを考えて行動すればよいという時代は過ぎ去った。さまざまなステークホルダーとの関係が、すべて重要になっている。とくに機関投資家の力が増大する中で、投資家は企業にいろいろな要求を突きつけてくる。これがSRIとして表れている。片や消費者がグリーンコンスーマリズムの名の下に、少々高くても体によい商品、環境によい商品を購入したがるようになり、企業は消費者から要求を受ける。これらが最近求められているCSRに大きな影響を及ぼしている。
これら多様なステークホルダーが企業に要求を突きつけてくる中で、企業としては全て言うことを聞き続けることはできない。その限界は、企業の収益力である。収益性を犠牲にして社会性を優先すると、やがてその企業は持続可能性を失ってしまう。言い換えれば、利益のどれだけを社会的活動に還元するかということであり、理論的には還元率が50%に近づけばよい会社ということになるが、まずは収益性が優先されなければならない。CSRに用いる金額や手法などは、個々の企業が実情にあわせて決めればよい。

5.企業不祥事の防止策

2003年5月〜6月に実施した日本監査役協会の「社長アンケート」によれば、不祥事防止策として、「経営トップの正しい経営姿勢を繰り返し社内に伝達する」取締役会で活発に議論して社内の聖域をなくし、透明度の高い企業風土を醸成する」「自社の内部統制・危機管理上の弱点をしっかり認識し、対応策をとる」「悪いニュースが経営トップへすばやく伝わる仕組みを設ける」等があげられている。経営トップの問題意識は高く、社長が先頭に立って防止に努めていることがわかる。

最後になるが、コンプライアンスは、利害関係者を含めた社会全体での取り組みを考える必要がある。企業のみが取り組んでも、企業不祥事はなくならない。

II.萩原日本電気企業行動推進部長発言要旨

1.日本電気の企業倫理への取り組み

日本電気は、1899年、米国ウェスタン・エレクトリック社との合弁会社としてスタートした。当初から「ベタープロダクツ、べターサービス」という経営理念があったという記録が残っている。
その後、数次の変革を経て、1972年ごろより、「クオリティー作戦」が始まったが、これが社会的責任を意識した始まりである。さらに1977年に小林会長が「C&C」(コンピュータ&コミュニケーション)というCIを発信した。これは、単なる技術だけということではなく、技術を通じて事業領域を拡大し、さらに人間的な要素まで昇華させていくということである。
実際、企業理念や経営指針が制定されたのは1990年である。このころ、「C&C」を通じた企業理念と経営指針を制定、その後、97年に、経団連の企業行動憲章第2版を受けて企業行動憲章を制定した。その後、日本電気は重要な事件に遭遇し、その反省を踏まえて99年に企業行動規範を制定して、今、憲章と規範の見直しをしているところである(新規範は2004年4月発表)。

2.日本経団連の7つの要請への対応状況

(1) 行動指針の整備充実

1990年に企業理念と経営指針を策定し、その後97年に行動憲章を策定した。しかし企業と個人を混同している部分があったため、憲章と規範を整備し直して、会社としてあるべき行動と、個人としてなすべき行動を区別する方向で見直している。また、今次見直しを機に、国内外を含めたグループ会社全体を意識して、関係会社まで含めた対応を行うこととしている。
また、CSRを取り巻く環境も変わってきているので、CSRのベースとして、憲章と規範に抜けている部分や表現を改めたほうがよい部分等を含める方向で検討している。その中には、当然サプライチェーンの管理が含まれる。これらを企業理念、憲章、規範の3本立てに整理していきたい。

(2) 経営トップの姿勢の社内外への表明

毎年、NECビジネスエシックスという会合を開催している。昨年12月に第3回会合を開催したが、NECグループ全体においている企業行動推進者を集めて、社長には基調講演を、外部講師に講話をしてもらっている。社長からは企業倫理の必要性について話をもらったが、その中でCSRとは法令を守るだけではなく、企業を取り巻くステークホルダーに十分配慮した経営をしていくことだと述べてもらった。
企業倫理の広場というのは、企業行動推進部のホームページ上にイントラネットを構築しており、トップメッセージをはじめ行動規範、実際に起こった事例など各種情報を盛り込んでいる。過去の事例についても、具体的なケーススタディに仕立てて掲載している。また、会社と社会のルールということで、社内の各種ルールや法律等の情報なども盛り込んでおり、法改正がある度にアップデートしている。同時に、このページには海外法人向けの事例も掲載している。まだ課題が残っているが、情報発信、情報共有は進めているところである。教育にも使え、各事業ラインでは、本ページを元に周知徹底してもらうことにしている。また、ここにCSRという視点で、企業倫理やヘルプライン、環境、人事などのページを掲載しており、最近の動き、社内ルールやマニュアルなどを閲覧できるようにしている。
また、社外向けのホームページでは、CSRへの取り組みや企業倫理についても、各種情報発信をしている。

(3) 全社的な取り組み体制の整備

全社的な組織として企業行動委員会がある。委員長は専務がつとめており、委員は各事業ラインとスタッフ部門を統括する役員と執行役員で構成されている。担当部署は企業行動推進部である。同時に各事業ラインと関連会社の各部門に企業行動推進者を選任してもらうことにしている。関係会社では、総務や経営企画の部門の方が中心となっている。9つの事業ラインでは、主にスタッフ部門から選任されている。同時に、企業行動兼務人事の発令をしている。たとえば法務部や経理、CS推進、環境、品質、IT戦略などに兼務者を20名ほど置いており、定期的に兼務者会議を開催し、社内規定の見直し等では協力をあおいでいる。
また、NECヘルプラインを設けており、実際の窓口は経営監査本部に置いているが、昨年11月よりNEC本社だけでなく、グループ会社や資材パートナーから、リスクに関する情報をすばやく吸い上げるため拡大した。
チェック機能は、トップ直轄の経営監査本部があり、ここには監査機能があるため、ヘルプライン機能のみならず、従来の業務監査を含めて、NECグループ各社や各部門全体をみている。9つの事業ラインには、それぞれマネージャークラスから部門長・部門長代理クラスの推進者を置いている。

(4) ヘルプライン

目的はリスクの早期発見である。これを作った当時は、これが機能するかどうか疑う意見がずいぶんあった。もう10年近く前になるが、当初はNEC本体だけを対象に、上司に相談できないことを聞けるようにということで始めたが、今では、その機能について文句を言う人はいない。このような機能がなければ、今のようなネット社会では、すぐにネット上で告発されてしまうので、かえってリスクが大きい。導入当初は、他人の悪口や上司への不満、自分の処遇への不満も多かったが、最近では少なくなってきており、本来の健全な相談が増えてきた。窓口を設置したのは99年であるが、それ以前から、いろいろな取り組みをしてきたところである。
昨年の11月から運用を拡大したが、広範囲からの吸い上げを目的として、窓口を経営監査本部だけでなく、第三者機関にも拡大した。これは、弁護士事務所にする等、いろいろな意見があったが、受付機能だけを外部委託するということで、コンサルタントに依頼した。委託先には、グループ会社や資材パートナーまで含め、“なりすまし”等がないよう本人チェックをした上で経営監査本部に報告することだけをお願いしている。資材パートナーに対しては、資材部長から各社の社長あてに制度の説明と利用のお願いをしている。
報告の実績としては、年間約20件程度の報告があった。2003年4月〜10月までの実績は17件であり、11月〜2004年1月までの間に10件出ているので、少し多いようである。内容としては、個人的な処遇・不満、社内制度・管理の疑問・指摘、公私混同・個人不正の指摘、倫理コード違反の指摘、その他相談・問い合わせ等である。個人的な処遇・不満は最近、少なくなってきているが、逆に倫理コード違反の指摘は増えてきており、本来の趣旨が定着してきている。

(5) 教育研修の実施

教育研修については、粘り強くさまざまな研修をやっていくしかない。当初は、全社員に対する憲章・規範の説明を行う等していた。最近はweb教育がはやりだが、向いているものといないものがあるので、対面型の教育とQ&Aで理解を深める等の使い分けが必要である。
教育ツールの例として、「あなたならどうする?」というものを発行している。会社は社員のネット利用をモニターできるのか等、さまざまな事例を検証している。アクセス件数が多く複雑な気持ちになったものには、「ばざーるでござーる」の宣伝用配布物の利用にはルールがあり、あまったからといって転用してはいけないというものだったが「これを有効活用しようということでネットオークションに出したところ2000円の値段がついたので忘年会の費用に回した」というものがあった。また、「国家公務員である大学の先輩からゴルフに誘われたがどうするか」というものがあったが、ゴルフのケースの場合、利害関係者の誘いは、自腹であっても断らなければならないのだが、そのあたりが関心を呼んだ。

(6) 浸透状況のチェック

過去5年、毎年定着状況チェックのアンケートを実施してきたが、その結果からは、憲章と規範がかなり浸透してきたことが読み取れる。しかし、減少しつつはあるものの、上司に相談した社員の中で約4分の1を超える社員が、また関係部門に相談した社員の約4割が、対応に不満足だと答えている。また、困ったことに、中間管理職層が、倫理意識が不十分だと思っているようであるので、より深い研修が必要である。

(7) 適切な情報開示、原因究明、再発防止、関係者への厳正な処分

まずは、社員が頭に思い浮かべることができそうな事例と対処案を多数示して再発防止に努めるとともに、有事対応チームを組織した。そして、情報の伝達についてステークホルダー間に差が生じないように、社内にも同じタイミングで開示する体制をとった。
さらに有事対応(クライシス対応)にも力を入れており、刑事事件化した際等、経営トップから現場担当までのメールでの緊急連絡網が用意されている。

3.企業行動憲章・実行の手引きについて

現在の憲章・手引きは、幅広い内容を含み綿密に書かれている。しかし実際、各企業がどのような憲章・規範を構築して進めていくかについては、各企業の自主性に任せてもらいたい。
多くの会社では、CSRという観点から、多くの部門が連携して対応していることが多い。その意味から、サプライチェーンを含めた徹底を図る必要があると思っている。たとえば外資系の企業は、資材取引先に対し、自社の憲章・規範の遵守を求めている。具体的には、半導体子会社のNECエレクトロニクスに対して、自社の憲章・規範の遵守が求められており、遵守できない場合には、取引を再検討すると言われている。
また、今や連結経営の重要性が増してきており、国内外を含めて、いかにグループ企業に徹底させていくかが重要な課題となっている。不祥事は、自社の社員のみならず関係会社や契約している協力会社の社員が引き起こすこともり、グループ、取引先、資材パートナーまで考えた対応が必要となってきている。そういった意味からは、目先の営利追及だけでなく、ブランドの維持のため、企業価値を高めるために、一人ひとりに価値を共有させるよう、憲章の趣旨を活かしていかなければならない。
なお、CSRの推進についても、企業行動推進部が中心となり、関係各部と連携をとりつつ推進しているところである。

III.質疑応答

質問

CSRについて、ISOでは規格化を進めていると聞いている。この規格が日本に入ってくることになった場合、それが望ましいのかどうか。

平田

私は、結構なことだとは思うが、個々の企業の力量にあわせて、どの程度取り組んでいくべきかを考えればよい。全社が一律に従うべきものではないと思う。

質問

コンプライアンスとCSRの関係について整理していただきたい。また、とある官庁が、第三者認証は絶対にやるといっているが、どう考えるべきか。

平田

コンプライアンスは、CSRのベースになるものである。コンプライアンスはガバナンスのレールになるものであり、その上を狭い意味のガバナンスが走ることになる。これに対して社会から企業に対してブレーキをかけることがある。これが現在、CSRの名をまとっている。
結局のところ、CSRは企業の運営原理である収益性にどれだけ社会性を取り込んでいくか、というところで理解すべきであると思っている。収益性を軽んじれば、本体の競争力がなくなってしまう。企業が社会の中で存在するためには、様々な利害関係者の間で舵取りをしていく中で、とくに機関投資家や消費者の声がCSRとして投げかけられていると思っている。

事務局

CSRの規格化への対応について説明したい。明日(2月17日)に理事会でご承認いただければ建議する意見書である。内容は、経団連はCSRの推進に積極的に取り組んでいくこと、次に、CSRは官主導ではなく、民間が自主的に取り組むべきであること、最後に、企業行動憲章と実行の手引きを見直してCSRの指針とすることの決意表明となる。
これをまとめた背景として、ISOが2001年以来、CSRの規格を作るか否かの検討をしてきており、4月に報告書をまとめる。現時点では、規格を作る場合と作らない場合の両論併記になりそうである。その後、6月にスウェーデンで国際会議を開催し、各国の意見を聞いて規格をつくるかどうかを決めることになっている。経済産業省は、それに対応して、CSR標準委員会と作業部会を設置して、規格をどうするかという検討を行っている。経済産業省は、欧州では規格化で一致して進んでいるという説明をし、3月か4月に規格の日本案をまとめてISOの会合で発表したいということである。しかし、先日EUのカンタンCSR担当総局長が来訪された際に聞いた話では、「EU委員会としては、CSR推進のためには、各ステークホルダーがCSRを自らの課題として考えることで、CSRは法制化になじまない。また国際的に一律な規格を定めることにより、個々の企業の自主的な取り組みが妨げられるべきではない」と述べており、経団連の意見書とほぼ同じ趣旨である。従って、経団連としては、提言と、4月までに憲章の見直しを終えて、6月の国際会議に臨みたい。

以上

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