[ 日本経団連 ] [ 企業倫理 ]

第3回企業行動委員会企画部会概要

(未定稿)
日時2004年5月12日(水) 14:00〜15:30
場所経団連会館 9階 クリスタル・ルーム

日和佐 雪印乳業取締役 発言要旨

1.食中毒事件後の対応と問題点

雪印乳業は、2000年6月の食中毒事件の後、外部に依頼して「企業行動憲章」を作り、総務の中にコンプライアンス担当を設置したが、コンプライアンスを普及するための活動は行っていなかった。憲章は本社の全社員に配付したが、関連会社や子会社に対しては、役員クラスに配っただけで、事件後は事後処理の対応に追われていた。重要なのは憲章の趣旨を徹底させることだが、実際には憲章の存在を知る人も少なかった。これが2002年1月の雪印食品による食肉偽装事件につながったのかもしれない。

2.分社化と行動基準策定

雪印乳業は、2002年6月から半年の間に次々と分社化し、2003年1月から新しいスタートをきった。その結果、事業規模は6分の1となり、事業領域としてはバター、チーズ、マーガリンだけになった。再スタートにあたって、企業理念も新たなものにし、「企業行動憲章」を見直して、新しく行動基準を作った。その際、国民生活審議会消費者政策部会自主行動基準検討委員会の「消費者に信頼される事業者となるために−自主行動基準の指針−」(2002年12月)を参考にした。
話は遡るが、2002年6月に社外取締役に就任し、企業倫理委員会をたちあげ、企業倫理委員会として取締役会に提言を出した。

3.見直しのプロセス

行動基準を作る際には、企業倫理室が事務局となって、全社員の意見を集約するために、役員と社員800人にヒアリングを行った。その結果をまとめ、企業倫理委員会の意見もふまえて、第一次案を作成し、全社員等約2500名に配付して意見を求めたところ、1538通の意見が寄せられた。これらの意見をできるだけ取り入れ、都合16回、書き直した。その過程で社内の関心度は高まり、できあがった行動基準について説明するために改めて全国を回った。

4.コンプライアンス推進体制

本格的にコンプライアンスを推進するためには、体制を整え、トップが強い意志を持つことが重要である。当社では、担当の部署を独立させて担当役員を置き、権限のある組織にした。
本社の各部や支店等でも、リーダー、サブリーダーを決めている。コンプライアンス部は、年間研修計画や事例集を作成するとともに、リーダー、サブリーダーの研修を行い、リーダー、サブリーダーは各部署で普及活動を推進し、その結果をコンプライアンス部に報告する。
1年間、このような取り組みを進めてきたが、理解度に差が出てきたため、企業倫理委員会とコンプライアンス部は、理解度の低い部署に出向いて理解を深めてもらうよう努力している。

5.浸透・定着チェック、モニタリング

行動基準の定着状況を全社的に確認する意味で2003年8月と2004年3月にアンケートを実施した。1回目のアンケートによると、行動基準を一度しか読んでいない人は40%だった。行動基準は、1回読んでわかるようなものではない。社員として活動するうえでの最も基礎的なマニュアルなので、皮膚感覚になるまで何度も読み返すことが重要である。
アンケート結果は、それぞれのリーダーにフィードバックし、とにかく読むことから始めてもらうように働きかけた。幸いにも、2回目のアンケートでは、この数字は10%ぐらい改善した。また、セクハラについての指摘もあったので、セクハラ防止の研修会を行った。

6.子会社・グループ会社への普及

雪印食品の事件が起きた時、雪印乳業の売上は、食中毒事件以前の約70%にまで回復していたが、子会社である雪印食品の不祥事により、小売店から全商品が撤去され、会社として存続できるかどうかの瀬戸際に立たされた。
雪印食品の不祥事からみても、子会社・グループ会社への行動基準の普及は極めて重要である。子会社との間では意見交換の機会を設け、本社の取り組みを伝えて理解を求めている。本社の社長は部長とともに子会社のトップや担当部署からヒアリングをしている。業態が違うと、行動基準をそのまま取り入れてもらうのは難しいが、せめて同じ精神に則った基準を設けてもらうようにしている。関係会社との間でも連絡会議を開いているほか、子会社と関係会社のトップを対象とした研修会も実施している。

7.ホットライン(内部通報制度)の運用状況

雪印乳業の企業倫理ホットラインは、2001年4月に開設した。しかし殆どの社員はその存在を知らず、周知徹底されていなかった。利用件数は、2001年度11件、2002年度34件、2003年度20件であった。ホットラインを作ったからには活用してもらう必要があるが、ホットラインは利用しにくいという意見も多いので、ハードルを下げる工夫をしている。通報先はコンプライアンス部で、秘密厳守、個人情報厳守にしているが、それでも言いにくいという声があった。そこで、2003年10月、外部に委託して、社外の窓口として「スノーホットライン」を開設した。グループ会社の従業員も使えるようにしたが、これまでの利用件数は3件である。

8.企業と消費者の関係

日本経団連も企業行動憲章を作って積極的に取り組んでいるが、会の性格から個々の企業には指図できないという限界もあろう。しかし企業のコンプライアンス違反は後を絶たないので、これをどうするかは大きな課題だと思う。
現在の憲章(2002年10月版)をみると、経済団体のものらしい内容だが、環境への取り組みが積極的なのには感心した。
雪印の取締役になって驚いたことは、消費者という概念が希薄であったことで、事件が起きる前までの雪印乳業にとって「お客様」とは取引先のことであった。そこでまず、「お客様」という概念を見直すところから始まった。
残念ながら日本の消費者保護基本法には、消費者の権利が規定されていない。事業者を取り締まり、適正な事業活動によって、消費者は保護されるという考え方である。
今国会に消費者基本法が上程されている。その中では、消費者の権利が明確にされている。消費者自身も自立して役割を果たす必要がある。企業も消費者も、行政の指導ではなく、それぞれ自立して活動しないといけない。
社会の枠組みが変わろうとしている。その中で企業として消費者の権利にどう対応するかが問われるようになっていく。

質疑応答

質問

社内の体制として企業倫理委員会のほかに品質部会と表示部会があるようだが、その役割はどのようなものか。

日和佐

企業倫理委員会は9名で構成されるが、社外からも5人が参加している(その後1名増員)。2つの部会は企業倫理委員会の下に作ったものである。雪印乳業はSQS(Snow Brand Quality Assurance System)という独自の品質保証システムにより、商品の安全と品質を保証する取り組みを進めている。このSQSは、ISO9001とHACCPを取り入れたものである。このSQSに則り品質部会がチェックを行っている。表示部会は、食品の表示が妥当かどうかチェックしている。

質問

各社ではコンプライアンスの活動を浸透させるために、アンケートを行ったり、研修会を開いたりしている。社内のどの層から始めるのがよいか。

日和佐

結果的に実績があがればよいので、それぞれ有効なやり方であればよいと思う。

以上

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