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2006年 民主党と政策を語る会


日本経団連は、5月22日、「民主党と政策を語る会」を開催した。同会には奥田会長以下、日本経団連の幹部や会員代表者など約290名が出席し、小沢一郎代表、鳩山由紀夫幹事長、直嶋正行政策調査会会長代理、峰崎直樹ネクスト財務大臣、仙谷由人ネクスト厚生労働大臣、前田武志財務局長と意見交換を行った。以下はその概要である。

1.奥田会長挨拶

今日わが国は地球規模での競争激化、あるいは人口減少社会、超高齢化社会といった未曾有の事態に直面している。このような環境変化に適切に対応するためには、課題が山積している。改革はいまだ道半ばである。
改革を加速するには、政策本位の政党政治の実現が必要だ。民主党には、本日の意見交換を踏まえて、国会の場で政府・与党と建設的な政策論議を展開していただきたい。

2.民主党の政策と取り組みについて

(1) 小沢一郎代表

民主党の目指す大きな方向性を申し上げる。今後、自分自身の考えを基に党内で議論し、国民に分かりやすい明確な政策を示していきたい。
何としても、日本に議会制民主主義、政党政治を定着させねばならない。そのためには、基本的哲学や理念を持ち、政権を担いうる政党が2つ以上存在し、その時々の状況に応じ国民の要請に応えて政権を担っていくことが必要だ。民主党には「信頼されるには種々の要件が欠如している」との指摘がある。この点はある程度認めざるを得ないが、民主党は世間から言われる以上に考え方を共有している集団だ。
政権を担おうとする政党やグループは、理念・哲学でまとまるべきだ。巷には「自民党と民主党の間で対立軸が見えない」とか「対立軸は余りない方がいい」との声があるが、これは間違いだ。
戦後半世紀以上、自民党は55年体制の中で政権を担ってきた。この半世紀は対立軸のない時代だった。実は自社両党にイデオロギーの違いはなく、所得の分配方法は満場一致で決められていた。経済成長が続く中では、自民党は社会党の主張に配慮しても、最終的には国民全体に利益を回すことが可能だった。また、タブーとされる問題には自民党も社会党も決して触れなかった。
しかし、東西対立の消滅、共産主義の崩壊という世界史的な変動の中では、55年体制のままでは変化を克服できない。その結果、様々な社会の矛盾や病が表面化し、毎日信じられない事件が起こっている。これからの政治は、政権を担いうる政党がきちんとした方向性とビジョンを持ち、切磋琢磨していく必要がある。
日本は以下の2つのタイプの政党にまとまるべきである。1つは、日本の伝統的な手法や哲学を大事にする政党だ。コンセンサスを大事にし、できるだけ旧来のやり方を守りながら徐々に変化に対応する政党だ。社会の中では平等を最大の原理とし、対外的にはやや内向きの政策を取る政党である。
もう1つは、世界史的な変化に対応するために、自由でオープンな考え方をとり、対外的には前者より外向きの政策をとる政党である。この政党は、コンセンサス重視、護送船団的手法、中央省庁の規制などといった旧来の手法にとらわれない。
最近、自民党が「自分たちは改革政党だ」というので、国民は何が本当の改革なのか混乱している。自民党の政策は、時代の変化に合わせて微修正しているだけであり、本当の改革ではない。本当に日本が変わるためには、国の制度・仕組みそのものを抜本的に見直す必要がある。経団連が求めている官僚的な規制社会の見直しも、中央集権的な日本の統治機構が変わらなければ実現しない。些末な権限や財源を地方に移しても中央官庁の支配に影響はない。中央省庁は、地方に任せて良いことや民間で十分やれることには関与しないで、国家的な仕事だけに集中すべきである。

(2) 鳩山由紀夫幹事長

「小沢代表就任で民主党は変わったか」とよく聞かれる。代表選挙に際して小沢代表は「自分自身が変わらなければならない」と発言したが、その時点で民主党は変わったと考えている。
政治資金規正法の合理化について申し上げる。海外で活発に活動する日本企業に対して、外国の投資家が関心を寄せ、投資するのは当然だ。その結果として外国人持株比率が50%を超えたとしても、それを以って企業の政治寄付が制限されるのは、基本的におかしな話である。経済界の要望に応えられるように努力をしたい。
民主党は、小沢代表の言う「共生」の理念を政策面の根拠として行動していく。外交では、対米関係一色ではなく、アジア諸国との関係を重視する。靖国問題については早期解決を図る。経済政策においては、大企業と中小企業の共生を図る。また、経済と環境の両立を目指し、エネルギー政策と環境政策を車の両輪として推進する。国と地方との関係については、一極集中的な政治を排し、地方主権を前提に見直す。これは、住民に近いところの機関が問題解決を図るという補完性の原理に沿った考え方である。

(3) 直嶋正行政調会長代理

(税・財政改革)
民主党は2010年代初頭に基礎的な財政収支を均衡させることを当面の目標にしている。この点では自民党と同じだが、プロセスが異なる。民主党は財政の収支均衡を8年計画で考えているが、最初の3年間は歳出の削減に全力を尽くす。その後、その作業を継続する中で、歳入についても議論する。
歳出削減については、第1に官僚の天下りの是正が必要だ。天下りは官製談合の根源である。天下りが多い背景には、公務員独特の早期退職勧奨制度があり、これは見直さねばならない。
国・地方の年間約40兆円の公共調達の中で、かなりの部分が随意契約となっている。また、役所と所管の公益法人との間での契約が約7割を占める。公共調達の見直しは必須である。
社会保障の無駄の排除や特別会計改革も歳出削減に不可欠だ。民主党は、現在31ある特別会計のうち、国債償還のための特別会計、外為特会、交付税特会の3つを除き、原則として全て廃止し、一般会計化すべきだと考えている。
特別会計の問題点は、第1に過度に細分化・複雑化していることから国会のチェックが機能せず透明性に欠けること、第2に不要不急の事業に資金が使われていること、第3に特別会計の中に資金が滞留し、国全体の観点から、資金効率が低いことである。

(社会保障制度改革)
民主党としても年金、医療、介護の一体的改革が必要と考えている。国民の老後の収入となる年金制度を安定させることを基本として、医療・介護の改革を検討していく。
年金の最大の問題点は、国民年金が空洞化し、制度として成立しなくなっていることだ。被用者年金の一元化のみでは意味がなく、将来的には全ての年金を一元化すべきだ。保険料の上限は15%程度と考えている。これを前提に制度を構築していく。

(規制改革)
現在参議院で市場化テスト法案を審議中だ。民主党は基本的に法案に賛成であり、衆議院でも賛成している。また、民主党は教育バウチャー制度の導入や、株式会社の農業参入を提言している。

(エネルギー・環境政策)
原油価格の動向等を考えると、エネルギー政策はますます重要になっている。特に、エネルギーのベストミックスが必要だ。新エネルギーの開発に積極的に取り組むとともに、原子力についても安全確保を前提に推進すべきだ。ただし、核燃料サイクルへの考え方については党内での結論は出ていない。
民主党は環境税の導入を提唱している。京都議定書の目標達成の観点からも、経済的手段の採用が必要だ。ただし、導入の際には、自動車重量税や取得税のあり方等を見直し、自動車関係諸税の簡素化を進めるとともに、ナフサなど産業の原料となるものは課税対象から除外する。また、企業の省エネ努力やCO2発生抑制に対する努力等も考慮した税制にすることも検討したい。

3.意見交換

(1) 経団連側発言

出井副会長 (行政改革)

日本が競争力を維持・向上させ、新しい価値を創造していくには、高度成長期に構築された官の仕組みや官に関係する生産性の低いサービスの見直しが不可欠だ。また、内外の情勢変化に応じた機動的な政策運営が可能となるよう、硬直的な行政システムを見直す必要がある。抜本的な公務員制度改革、中央省庁の改革の再評価、国・地方の役割分担、道州制を含めた地方の行政単位の再検討など、課題は山積している。

勝俣副会長 (地球温暖化問題、エネルギー政策)

地球温暖化の防止に向けて、経団連では京都議定書策定以前から自主目標を定めてCO2の削減に努めており、着実な成果を上げている。民主党は環境税の導入を公約しているが、地球温暖化には自主的な省エネ努力や技術開発、国民運動など、民間の活力を最大限に活用して対応すべきだ。原子力の活用は環境とエネルギーの両面から国策として推進すべきだ。

宮原副会長 (通商政策)

日本企業がグローバルな競争に勝ち抜くには、WTOを通じたグローバルな自由化の推進とともに、東アジア諸国や資源の供給国との間で、高水準のEPAを早期に締結することが必要だ。韓国や中国などは、国家戦略としてEPAの締結交渉を進めている。わが国も、しっかりとした戦略と司令塔の下で関係省庁の連携を強化し、スピード感を持って推進すべきだ。

(2) 民主党側発言

小沢代表

地方分権は中央官庁の抜本的な改革につながる。地方への個別の事業補助金は、一括して自主財源として全国300〜400の基礎的自治体に全部移譲すべきだ。国は、外交・安保や治安、基礎的社会保障、基礎的教育、あるいは非常事態対応など、国家的な課題に取り組むこととすべきだ。こうした権限移譲により、国と地方で行政経費の1〜2割は削減できる。
特殊法人、特に独立行政法人は、国会の監視から離れて官僚の世界そのものになっている。基本的には特殊法人、独立行政法人はその役割を終えており、廃止すべきだ。民主党に政権を任せていただければ、このような改革を必ず実現する。

直嶋政調会長代理

エネルギー政策は最重要の課題の1つである。資源・エネルギー外交の際には、日本の省エネ技術をバーゲニングパワーとして活用すべきだ。
原子力の活用には、安全が大前提となる。原子力を活用しなければ、日本のエネルギー供給はおぼつかない。
農業については、従来の補助金や農業土木を中心とした農政からの思い切った転換が必要だ。農業再生のための法案を国会に提出し、政府法案と併せて審議を行った。民主党の基本的な主張は、農家に対する直接的な所得保障を行い、やる気のある農家を直接支援するというものである。今の農業予算の枠内で財源は捻出可能であり、思い切って個人農家に補助を行うべきだ。
外国人の受け入れについては、なかなか難しい部分がある。専門的な能力を持った外国人は、積極的に受け入れを検討すべきだが、外国人の子弟の修学や、日本の社会保障制度の中での位置づけなどについては、十分な検討が必要だ。

峰崎ネクスト財務大臣

地球温暖化防止のために、産業部門が努力をしているのは承知している。しかし、環境税には、国民の環境意識を高めるアナウンスメント効果がある。また、流通や運輸部門では改善の余地があり、環境税導入により対応を促進することができる。
民主党としては、原材料となるナフサや製鉄の原料炭などについては基本的に課税しないこととしている。徴収した環境税から、環境対策に財政支出をしていけば、産業界全体にとっては、実質上の負担増にはならないのではないか。ただし、炭素税として導入すれば、業界間で負担のアンバランスが生じる。影響を最小限に止めるために努力する。

(3) 自由懇談

西室評議員会副議長

社会保障の抜本的改革に向けて2004年に三党合意がなされ、社会保障のあり方に関する懇談会が開催されている。しかし、実質的に与野党間の協議は進んでいない。抜本的改革に向けて協議を進めて欲しい。
民主党としては、潜在的国民負担率はどの程度であるべきと考えているのか。経団連としては、経済成長のためには50パーセント以下であるべきと考えている。医療制度改革に関しては、一定以上の所得・資産を有する高齢者には、能力に合った負担を求める仕組みを組み入れるべきだ。

岡村産業問題委員長

エンターテイメント・コンテンツ産業は、わが国経済の持続的発展を支え、ソフトパワーの源泉となる戦略的産業であり、更なる成長の可能性を強く秘めている。更なる振興に向けた取り組みを期待する。

フロア発言

現在、国会で審議中の容器包装リサイクル法の改正案に対しては、民主党から、拡大生産者責任にもとづいて、事業者に一層の負担を求めるという声がでている。しかし、容器包装には、食の安全や安心、その他すべての商品の安全・安心を担う、重要な機能がある。事業者に新たな負担を課せば、即、容器包装が削減されるという単純な状況ではない。
そもそも改正案は、政府の審議会において、地方自治体や消費者団体、学者、産業界など、幅広い関係者が議論を行って、ようやくまとまった結論をベースに作成されたものである。

峰崎ネクスト財務大臣

潜在的国民負担を50パーセント以下という経団連の考えについては、おおむね異論がないと思う。ただ、もう少し党内で考えを整理したい。

直嶋政調会長代理

容器包装リサイクル法については、国会審議の過程では色々あったかもしれないが、結論としては賛成である。

仙谷ネクスト厚生労働大臣

国民年金は空洞化している。これに手をつけずに、被用者年金だけ一元化しても本質的な問題解決にはならない。医療についても、国民健康保険の問題をそのままにして、診療報酬や医療給付費を引き下げるだけでは、国民生活に必要な医療サービスが提供されなくなる。
民主党としては、国民年金を含む一元化について、率直に議論するのであれば、三党協議にはいつでも応じる。

4.御手洗副会長挨拶

世界経済の変化のスピードがますます速まる中で、政党が企業活動の最新の情報を踏まえて政策を立案することは極めて重要だ。引き続きこのような政策対話の機会を持たせていただきたい。

以上

民主党作成資料

日本経団連の2006年の優先政策事項と民主党の政策・取り組み <PDF>


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