[ 日本経団連 ] [ 政治への取り組み ]

2006年 自由民主党と政策を語る会・関西地区会合

2006年7月12日

日本経団連は、7月12日、大阪で「自由民主党と政策を語る会・関西地区会合」を開催した。同会には張副会長、前田政経行動委員長、関西地区の会員代表者など約300名が出席。中川秀直政務調査会長、甘利明政務調査会長代理、丹羽雄哉社会保障制度調査会長、柳澤伯夫税制調査会長と自由民主党の政策や取り組みに関する意見交換を行った。以下は、自民党側の発言概要である。

中川政調会長

1. 歳入歳出一体改革

  1. (1) 7月7日に「骨太の方針2006」が閣議決定された。歳入歳出改革では、2011年度ベースの歳入不足額16.5兆円のうち、最大で14兆5千億円、最低でも11兆3千億円の歳出削減を実施することを決定した。この歳出改革は、無駄や非効率を省くものであり、国民へのサービスを低下させるものではない。

  2. (2) 社会保障については、社会保障制度の持続可能性・安定性を確保するため、現役世代の負担が過度のものとならないよう配慮した。また、セーフティネットとして求められる水準に考慮した。この結果、給付の伸びを抑制するとの観点から、2011年度ベースで1.6兆円を削減して38.3兆円程度に抑制することにした。

  3. (3) 公共事業は、真に必要な社会資本整備へと転換する必要がある。2011年度ベースで5.6から3.9兆円程度の削減を行い、16.1〜17.8兆円程度とする。

  4. (4) 公務員人件費については、調査の結果、官民の給与格差は200万円であることが判明した。今後、人口減少社会に入る中で、公務員だけ、雇用や給与が維持され、国民は増税というのは許されるものではない。2011年度ベースで政府の既定分の1兆円弱と、党主導決定の新規分2.6兆円を削減し、32.4兆円程度とする。

  5. (5) アレシナ・ハーバード大学教授によれば、先進国の財政再建事例の「黄金比」は「歳出削減と増税が7対3」である。今回の歳出削減案では、歳出削減と増税の比率は下限でも7対3、上限では9対1だ。黄金比を達成した。

2. 格差問題等

  1. (1) 財政健全化に関する自民党の基本的立場は「経済成長と財政再建が相互に響き合う好循環」の実現であった。諸外国の成功した財政健全化の過程では、民間設備投資が大きく伸びて内需主導の経済成長が実現している。このため、「上げ潮政策」を提唱し、わが国経済の潜在能力を最大限発揮させ、欧米並みの実質経済成長率2〜3%、名目成長率4%の実現を目指すべきと主張してきた。

  2. (2) 「骨太の方針2006」の「再チャレンジ支援」に、格差問題の重要なポイントがある。それは、「パート労働者への社会保険の適用拡大や均衡処遇の推進等の問題に対処するための法的整備」などにより、「正規・非正規間労働者間の均衡処遇を目指す」というものである。経済界も、少子化問題についての社会的責任の一環として観点から、是非、ご協力いただきたい。

3. 党主導の意義

  1. (1) 今回の骨太の方針の最大の特徴は、党主導で決定したことだ。3月末に小泉総理からの党での検討指示があった。その後、100人規模の議員が2ヶ月、のべ約100回の会合を開催し、ゼロベースでそれぞれの歳出項目別に無駄や非効率がないかを積上げで議論した。

  2. (2) 仮に役所主導であったならば、大増税になっていたと思う。大きな政府になれば、役人の権限は増え、人件費も増加させることが可能だ。今回、政治主導こそが国民の利益になることを示せたと思う。

  3. (3) 自民党が党をあげて予算カットの話を目指すのは、30年の議員生活の中で体験したことがない。党での歳出削減議論は、何度か崩壊の危機に直面したが、皆の力で克服した。

  4. (4) 今回の歳出削減努力が一応の成功をみたのは、自民党が、昨年の9.11総選挙で小さな政府の旗を掲げ、「2010年代初頭のプライマリーバランス黒字化」を政権公約としていたことがある。議員にとってこれは国民との約束であり、自民党はこの公約を忠実に実行した。

  5. (5) 自民党政調会が「改革の指令塔」となり得たのは、従来の部会縦割りではなく、財政改革研究会のような「ヨコ串組織」を動かしたからだ。ヨコ串組織こそが、政策決定過程における「新しい自民党」の象徴だ。

  6. (6) 党主導を支える専門スタッフの不足を、陰で、民間の志ある多くの人々が手弁当で支えてくれた。実働部隊をチームとして供給する民間シンクタンクの必要性を改めて認識した。

4. 総裁選政権公約について

  1. (1) 政権公約の政治的意味は、国民に年限や数値目標を明示してその信任を得ることにある。官僚の骨抜きや先延ばしを許さないということだ。民意こそが、官主導から官邸主導に変える力の源泉で、その装置がマニフェストだ。政策における総理・総裁主導の源泉は、総理・総裁の個性にではなく、マニフェストに体言された「民意」にある。

  2. (2) 9月の総裁選では、候補者として掲げた総裁選マニフェストが新政権のマニフェスト・サイクルの起点となり、それが選挙の際の党の政権公約や、経済財政諮問会議の毎年の骨太の方針の原点になるのが理想だ。

  3. (3) 総裁選マニフェストのもとで、党政調会と経済財政諮問会議は、総理・総裁主導の装置として、役割分担をすることが可能となる。

丹羽社会保障制度調査会長

  1. 昨年の日本の人口は19000人減少し、いよいよ人口減少社会が到来した。高齢化が進むとともに、出生率が大幅に低下し1.25となった。年金などの試算に使う1.31を下回っている。2025年には1.9人の現役世代で1人の老人を支えねばならない社会になる。

  2. 右肩上がりの経済成長や人口増が当然であった時代に作られた社会保障制度を、人口減少社会にふさわしい現実的な制度に改める必要がある。社会保障に関する国民の安心感・信頼感を確保する方向で、改革を進めていかねばならない。

  3. 日本の社会保障制度は、良質な労働力を確保する観点から整備されたものであり、趣旨に照らして、事業主も応分の負担をしている。このため、社会保障費84兆円の3分の2の55兆円が保険料でまかなわれている。国費は21兆円、地方負担が7兆円、合わせて28兆円が公費負担となっている。日本の社会保障制度は、社会保険方式によって支えられている

  4. 日本の社会保障制度は世代間で支え合うという考え方で設計されてきたが、今後は、若年層の負担を軽減する方向で考えていかねばならない。所得のある高齢者には、相応の負担を求めなければ、人口減少社会は乗りきれない。先の国会で、医療制度改革法案が成立した。これは、年収520万円以上の高齢者には、医療費の負担割合を2割から3割負担に引き上げるというものだ。既に年金においても、マクロ経済スライドが導入されており、給付水準を調整する改革が実施済みである。また、厚生年金保険料は最高で18.30%とした。これらの結果、中長期的に経済とバランスの取れた制度に改革することができたと考えている。

  5. 基礎年金の国庫負担は、現在の3分の1から2009年までに2分の1に引き上げることとなっている。これが消費税の引き上げの議論と絡んでくる可能性がある。

  6. 社会保障制度は、今後とも自立と社会連帯を基礎とする社会保険方式の上で組み立ていくべきだ。年金の未納や滞納が防げるからと言って、安易に税方式に転換すべきではない。税方式とは、負担の如何に拘らず給付が得られるというものであり、生活保護と変わらなくなってしまう。さらに、負担と給付の関係、即ち、これまでまじめに保険料を払ってきた人と、そうでない人との間の公平間をいかに担保するかという問題も残る。

  7. 日本には皆保険制度があるから、所得の高い・低いに拘らず、均等な医療サービスを受けることができる。これが日本の安定につながっている。この観点から、自民党は社会保険方式を堅持し国民の安心を確保する。

柳澤税制調査会長

  1. 2011年の歳出・歳入には、16.5兆円のギャップが生じると見積もられる。プライマリー・ギャップをなくすためには、歳出の削減と制度改正による歳入増が必要になる。骨太2006に盛り込まれた歳出削減額を前提とすると、2〜5兆円の歳出増が必要になってくる。

  2. 欧米の主要国は90年代に財政再建を達成した。クリントン政権のケースを調査すると、財政再建の最大の理由は経済成長であった。

  3. 税の本来の役割は、必要な施策が実施できるように、しっかりと歳入を確保することにある。今後、財源が必要となる施策とは、社会保障の公的負担を増やすことである。消費税を目的税化しないでも、実質的に社会保障に使われることとなる。

  4. また、政策目的を達成するために税制改正を行う場合がある。この租税政策上の課題として、現在最も重要となっているのは、(1)国際競争力の強化と(2)少子化対策などであろう。

  5. 経済の活性化のために必要な税制として財政改革研究会で議論しているのは、減価償却限度の問題だ。日本は95%だが国際的には100%の償却を認めない国は殆どない。この点では、国際標準を取り入れたい

  6. また、経団連は法人実効税率の引き下げを提言している。現在は40%で、米国並の水準だが、韓国は27.5%、中国は26%、シンガポールは20%である。これを考えると、経団連が提言する理由は理解できる。しかし、自民党としては、数年前に法人税の引き下げを検討した際、現在の財政状況に照らして、法人実効税率を引き下げるのではなく、ITや研究開発など分野を限定した上で、それらを応援する政策税制の方が望ましいと結論付けた経緯がある。

  7. 少子化対策については、必要な場合には、税制面でも対応していく。

甘利政調会長代理

  1. エネルギーは国民生活、産業経済の血液である。しかし、わが国では国家戦略としてのエネルギー戦略を持っていなかった。

  2. 過去2度のオイルショックを乗りきった経験から、その場の対応で乗り切れるとの楽観論があった。しかし、昨今、中国は石油の大消費国、純輸入国になるととともに、国際的な資源確保に躍起になっている。このような中で、楽観論では乗りきれない。今般、骨太方針の中には、エネルギー戦略が組み込まれ、閣議決定された。ここに至り、日本はエネルギーの国家戦略を持つに至った。

  3. エネルギー戦略の基本的考え方は、エネルギー政策基本法に示されているように、(1)安定供給の確保、(2)地球環境負荷の最小限化、さらに(3)それらを前提とした上での経済合理性の追求である。この方向で、秋にも政府はエネルギー基本計画を策定・実施することとなっている。

  4. 自民党は、新政権発足後も、エネルギー政策は重要課題として積極的に取り組んでいく。

以上

日本語のホームページへ