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いま、社会の一員として

─ 地域社会との共生をめざす企業と市民団体 ─

静岡県
(No.47 1999 June)

 相模湾から駿河湾、遠州灘にいたる長い海岸線。秀麗な富士山。多くの河川が流れ、丘陵地帯にはみかんや茶畑が点在する豊かな自然に恵まれ、サッカー競技の歴史が古く盛んな地域。今回訪ねたのは静岡県です。企業は磐田市に本社を構えるヤマハ発動機と、創業55年、沿革を辿ると120年余の歴史のある地銀、静岡銀行に伺いました。
 ヤマハ発動機は1955年に二輪車メーカーとして設立。以来小型エンジン技術を基軸として、その応用技術を拡大しながら、事業の多軸化を推進し、世界150拠点とグローバルネットワークをもつ国際企業です。バラエティに富む製品群をレジャー・スポーツに、ビジネスに、人々の生活に、生産活動に提供し、陸に、海に、空に、地球全体をステージとする多彩な事業活動を展開しています。
 静岡銀行はきびしい経営環境に直面する金融業界にあって、優秀な資産内容と経営方針を持つ地方銀行です。「地域密着」と「健全経営」を掲げる同行の、もう一つの先見性ある優れた活動が「情報開示」。銀行の経営方針、業務内容や業績、地域社会への貢献活動などを分かりやすく紹介したディスクロージャー誌の発行と共に、個人向けのミニディスクロージャー誌「What's SHIZU-GIN?」も平成7年から制作。経営の透明性向上に努め、高い評価をうけています。支店は県下に150余、県外に29支店、海外にも3支店があります。
 ヤマハ発動機の社会貢献活動をCCS推進室の鷹取さんと立花さんに、静岡銀行の活動は広報文化室の渥美さんに伺いました。あわせて知的障害者の授産施設、浜松学園と環境保全に取り組む市民団体、サンクチュアリ・ジャパンの活動も取材しました。


陸に、海に、空に、“感動創造企業”をめざす
ヤマハ発動機の活動

企業理念と「3つの満足」に基づく自由な貢献活動

 1990年、ヤマハ発動機では全社的な「ニューヤマハ運動」を推進。この過程の中で企業の社会貢献も検討されました。そして1992年、世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する「感動創造企業」を理念に策定し、同時に顧客の満足、社会の満足、社員の満足の「3つの満足」をバランスよく推進するCCS推進室(Customer & Community Satisfact-ion Activities Division)が誕生しました。CCS推進室は、地域社会への貢献活動も担当業務の一つですが、全社的見地で活動を推進する部署ではありません。ヤマハ発動機の貢献活動の特長は、18の各事業本部や関連会社が、企業理念と「3つの満足」に基づく独自の活動を自由に展開していること。地域特性や環境、社員の意志を考慮して、自由裁量による貢献活動をそれぞれが展開しています。

「社会貢献マップ」に見る貢献分野

 CCS推進室では毎年一回、各事業部や関連会社が行っている貢献活動を取りまとめ「社会貢献マップ」を作成して、CCS委員会に報告します。取りまとめは各部門の自己申告がベース、報告を義務づけたものではありません。従って、「こんな活動もしていたのか!」と後で判るケースも多いとCCSの鷹取さん。「例えば海外市場開拓事業部が97年に始めたキャンペーン『ホームページアクセスごとに1回25セントの寄付』。初年度に1,307.50ドルが集まり、ユニセフ東京事務所に寄贈していたことを、社内電子メールで初めて知りました」。
 社会貢献マップによると、貢献活動は地域社会・環境・教育・スポーツ・芸術文化・福祉医療・国際交流など8分野が対象です。支援方法も、(1)企業活動を通じて、(2)関連財団によるもの、(3)公共性の高い団体へ対して、(4)寄付・賛助によるもの、の4段階に分けて明示されています。この中からスポーツ・福祉分野の活動の一部をご紹介しましょう。

ヤマハ発動機ならではのスポーツ支援

 今年も首位を走るJリーグ、ジュビロ磐田。その正式名称はヤマハフットボールクラブ(株)で、Jリーグ発足前は、ヤマハ発動機のサッカークラブでした。本社前にあるサッカー場では、地域市民や小・中学生を対象としたサッカー教室やブラジルで盛んなフットサル(ミニサッカー)競技会も行われ、近隣に多いブラジルの方々も参加します。コーチや会場設営には社員ボランティアも多数参加しますが、ボランティア登録制度などはありません。必要に応じてそれぞれの部門が社員に声を掛け、必要な人たちが自然に集るのです。
 オートバイのテストコースを地域市民に開放して行われたチャレンジロードマラソンには、健常者と車椅子の方々の競技もあります。リレーや団体競技など種目も多様。多くの市民が楽しみに参加する行事です。夏休みの一日、小学生たちにマリンスポーツを楽しんでもらう行事は「ちびっ子マリン体験in浜名湖」。23回目の昨年は県下4市から91名の小学校5〜6年生が参加。マリンジェットやモーターボート、セイリングクルーザーなど、インストラクターの丁寧な指導で、海上のルールやマナーを楽しみながら学びました。この他、親子バイク教室やボードセイリング、スノーモービル競技など、バラエティ豊かな活動が行われています。

知的障害児の工場実習など、社会福祉と地域活動

 浜松の北にある浜北工場では浜松学園(就職を目的とする知的障害者の授産施設兼職業訓練校)の2年生30名を工場実習生として受け入れています。5日間にわたる工場実習は1日8時間の労働に耐え、仕事に対する自信と自立への意欲を持つための訓練です。品質管理の厳しさや、職場での人間関係の大切さを学んで社会性を高め、社会人となるための訓練の一環でもあります。浜松学園からの依頼を受けた浜北工場の職員が工場長に相談、工場長の判断と責任で受け入れが決まりました。21年も前のことです。鷹取さんも3年間の浜北工場総務部時代に経験があり「長年の経験が職場ごとに受け継がれ、受け入れ態勢は整っていますが、実習期間中は工場全員のサポートが必要ですね」と語りました。子どもたちは毎朝バスで付き添いの先生と一緒に出勤します。作業開始は8時、終業は午後5時。実習する職場は、子どもの特性や性格などを考慮して個別に配置。事前に決めた担当者が指導と世話にあたります。昼食は社員食堂で職場の人々と一緒に。これも子どもたちの楽しみの一つです。実習終了時には、写真と励ましの言葉を添えた工場長名の修了証書が記念品と共にひとりずつに手渡されます。
 “目の不自由な方に盲導犬を贈ろう!”。これは、ヤマハ発動機と販売店と会員が一体となっている全国組織Y.E.S.S.(ヤマハアースリー・スポーツシステム)による募金キャンペーン。89年から展開され10年を迎えた活動です。97年度の募金額は230万ほど、日本盲導犬協会神奈川訓練センターに贈呈されました。9年間の累計金額は4千万を越えています。
 磐田市を中心に多数点在する各工場や事業所が、近辺をきれいに清掃する「クリーンアップ作戦」。出勤前の早朝30分、あるいは土曜・日曜日の朝に行われます。最初は参加してもらうのに苦労しましたが、今はきわめて自然に「今日はクリーン作戦」と全員が参加します。新入社員研修の一環にもクリーン作戦が取り入れられ、環境美化に自然体で取り組めるよう、本社近隣のカーブミラーを磨くなど、地域の清掃活動を体験します。

年一回の「社長賞」は優れた社員の活動にも

 毎年1回、優れた活動をした社員に贈られる『社長賞』の受賞は、社会貢献分野で顕著な活動をした社員にもと鷹取さん。パラリンピックで日本に数多くのメダルをもたらしたチェアスキー。この開発にはヤマハ発動機の技術者3名の献身がありました。しかし社内では殆どの人が知らなかったと言います。パラリンピック終了後に事実が分かり、社長賞となりました。金メダルをとったチェアスキーは、昨年7月に完成したヤマハコミュニケーションプラザに展示されています。このプラザにはヤマハ歴代のオートバイを始め、陸、海、空をステージに活躍する数々の製品や障害ある人々に向けた車椅子も展示紹介されています。琵琶湖で行われた鳥人間コンテストに昨年出場、対岸へ渡る長距離飛行を成し遂げ見事優勝した人力飛行機も美しい片翼を伸ばして飾られ、社員チームによる技術の結集と見事なデザインに思わず見とれました。
 各事業部や関連会社が夫々の判断で地域社会や市民に役立つ活動を実践する。ヤマハ発動機の社風を感じる取材でした。

“自立した社会人として障害者を育成する”知的障害者授産施設『浜松学園』

 浜松学園は浜松市にあった「手をつなぐ親の会」からの要請で昭和42年に開園、今年で創立32周年になる全寮制の施設です。入所者は義務教育を終了した者。訓練期間は2年間で定員は、各年30名ずつ(男子20名、女子10名)の60名。平成9年に諸設備の整った知的障害者授産施設として浜松市都田町に移転し現在に至っています。
 1年目は基礎訓練、試行訓練、練成訓練を受けます。2年生になると応用訓練、最終訓練過程を経て本格的な就職活動が始まり、3月に退園、就職となります。学園は授産施設であり、企業などから受託した仕事を訓練作業で行い収益を得ます。入所の子どもたちには工賃が支給され買い物や貯金など、金銭管理や経済観念育成の指導も行われます。今年の就職は2年生29名中27名。厳しい経済環境下にあって高い確率です。先生方の指導と生徒の真面目な訓練、ヤマハ発動機浜北工場の実習もプラス効果に貢献していると言えるでしょう。「5日間の実習を境に2年生の顔つきや態度が変わるのです。やり遂げたという満足が自信になり、就職への重要なステップになっています」。「ヤマハさんは工場をあげて子どもを受け入れてくださる。社員の方々は事前に子どもの能力や特徴を検討し、配属先や担当者を決めるなど周到な事前準備をされます。20年余、毎年の親身な配慮に頭が下がります」と担当の先生。
 工場で行われる夏の納涼祭には全員が招待され社員の方々と再会し、12月には組合主催の観劇会にも招待され、手紙のやり取りの交流もあるとのこと。「障害児と触れ合う機会のない方たちが、5日間の実習を契機に直に接し、理解してくださることがとてもうれしい。この積み重ねから障害者の住みよい社会が生まれてくると思います」。先生方の言葉が印象深く残りました。

“地域とともに夢と豊かさを広げる”静岡銀行の活動

創立50周年の新たな企業理念のもとに

 静岡銀行では平成3年6月、新しい企業理念「地域とともに夢と豊かさを広げます。」を掲げ、大きく変化する時代に向けた企業の姿勢を表明しました。そして平成5年、創立50周年を契機に、この新しい企業理念を具現化するさまざまな活動に取り組みました。地域貢献活動を重要課題と位置づけ、全体像とビジョンを持った取りくみが始まりました。創立50周年記念事業として全行をあげて取り組んだ営業店感謝活動が、現在まで続く地域貢献活動の原動力となっています。企業理念の実践に向けた「地域貢献活動ガイドブック」や、行員一人ひとりが自覚を持って活動に参画するようマニュアルも作成されました。自然環境を保全する「公益信託しずぎんふるさと環境保全基金」も50周年記念事業として設立されたものです。
 これらの地域貢献活動や文化・芸術の振興、社内外の広報業務を担当する広報文化室の現在のスタッフは渥美室長を含めて6名です。個人に向けたミニディスクロージャー誌「What's SHIZU-GIN」の制作発行や社内外に向けた広報活動、文化・芸術振興、環境保全基金などの地域貢献活動が担当業務です。またそれ以外に、各地域社会への貢献活動はそれぞれの支店が自主性を持って企画・実施しています。

「公益信託しずぎんふるさと環境保全基金」

 地球環境問題が深刻化する中、静岡県内で環境保全活動に取り組まれている個人や団体などへの助成事業を通じて、かけがえのない郷土の自然環境を守り、豊かな生活環境づくりのお手伝いをする。基金はこの目的をもって設立されたもの。静岡県には長い海岸線、富士山から浜名湖まで、海、川、山、湖に恵まれた豊かな自然があります。この豊かな自然を次世代に残す。環境保全には継続した支援が必要であり、地銀にとって重要な貢献分野であると決まりました。
 助成事業を長期にわたって安定して実施できるよう、基本財源は10年間に5千万円ずつ積みあげる。最終目標は5億円です。基金の受託先を三菱信託銀行として運用されています。助成先の募集はマスコミ、地方公共団体を通じた公募。県内の高等学校にも応募書類が送られます。助成金は運用益にもとづいて決まりますが、ここ数年は1年約300万円。選考委員による審査を経て20件前後の活動に資金支援を行います。活動内容によって、3年間の継続支援もあり、平成9年までに75件の活動に1,200万円の助成が行われました。

海、川、山、湖へ、自然を守る多様な活動

 御前崎から浜名湖にいたる遠州灘はアカウミガメの産卵地。毎年5月から8月末の間、真夜中から未明にかけて砂浜にあがり産卵をします。御前崎ではアカウミガメ保護監視委員会が、浜松ではサンクチュアリ・ジャパンが、海岸を走る四輪駆動車や自然破壊からウミガメと卵を守る活動を行っています。アカウミガメの産卵時期に合わせて、保護団体の人々は昼夜を問わない巡視活動を続けます。昭和55年に国指定の天然記念物となり、3カ所に人口孵化場や解説板も設置されました。10数年にわたり、たゆまず継続されている保護活動も助成の対象です。
 「次世代を担う子どもたちが、自然の中で多くの感動を体験し、自然保護活動をめざす人材に育ってほしい」。そんな願いを込めて発足したサンクチュアリ・ジャパンの「ジュニア・レンジャー制度」にも活動支援が行われました。この他、開発による入山者の増加で、生息環境が脅かされている富士山や南アルプスの高山植物保護を訴え、自然を守る啓発活動を行う団体。環境教育の一環として「浜名湖湖上学習」を実施して湖の汚染状況を観察、人間と自然との関わりを考える高等学校の活動。環境技術者の育成に取り組む農業高校が、環境復元の技術習得のために設置する環境生態観察園の建設費支援など、多様で幅広い資金支援を行っています。
 「基金発足10年の節目に支援先の個人・団体の方々が、環境保全の成果と課題について意見交換するセミナーが開催できれば」。渥美さんの思いです。

子どもたちへの情操教育は率先垂範で

 静岡銀行では、県下に設置された「小さな親切」運動に協力。グループ企業である静銀総合サービス内に県本部事務局を置いて、運動の普及と啓発に取り組んでいます。この運動を率先垂範で実践されているのが、静岡銀行相談役の酒井次吉郎氏。県本部の代表も務めておられます。小・中学生の子どもたちを活動に呼び入れ、「クリーン作戦」(清掃活動)やコスモスの種をまき花を咲かせる「コスモス作戦」を県内各地で展開しています。酒井氏は「やって見せて言って聞かせれば、子どもたちに公徳心が育つ」と、いつも子どもと一緒に清掃活動に参加されます。静岡県本部が発足して2年。会員は2万人を超え全国2位の規模に。運動の裾野を広げる活動は着実に育っています。
 この他、静岡県ジュニアサッカー大会小学5年生の部への支援、地域の文化・芸術振興を目的に行うクラシックやジャズのコンサート、文化講演会の「カルチャー・フォーラム」も提供、豊かな地域社会の発展に向けた地道な活動を静岡銀行は実践しています。

好奇心、行動、感動そして継続へ
サンクチュアリ・ジャパンの環境保全活動

 サンクチュアリ・ジャパンは1985年に浜松市に設立された自然保護団体。当初「浜松サンクチュアリ協会」の名称でしたが、幅広い視点から自然保護活動を推進しようと現在の名前になりました。本部は浜松市にあり、全国に17支部があります。会員数は1,470名ですが、役員や総会などの組織は持ちません。自分のスタンスで活動に参加する自己申告制が原則です。会の目的と活動は、身近な自然をサンクチュアリとして保護し、そこに住む野生生物の保護と研究調査を行うこと。自然観察会を開催して自然や野生生物と触れ合い、好奇心や感動とともに自然環境保護の大切さを学ぶことです。特に次世代を担う子どもたちへの自然教育に力を注ぎ、「ジュニア・レンジャー制度」を設立。自然のすばらしさを次の世代に伝える子どもの育成に力を入れています。
 代表の馬塚丈司氏が環境問題に関心を持った動機は「昭和40年代の公害問題。特に水俣病を見てしまった」こと。自然保護に取り組んだ契機は、浜松市を流れる馬込川河口域の大規模開発を知り、流域の貴重な自然を守ろうと立ち上ったことです。市民の意志を行政との交渉に反映させるべく署名活動を行い、市の人口54万の時に集まった署名数が11万。予想以上でした。この活動が行政を動かし、馬込川河口は野鳥のサンクチュアリとして守られ、川沿いに「野鳥の森」公園も建設されました。
 大学で水質調査や大気汚染調査などの環境分析を行っている馬塚氏は、「分析や調査をしても自然はきれいにならない。河川の汚染を語るより、美しい自然や野生生物を語る方が、人々の関心と感動を呼び、自然保護の啓発活動につながる」ことを悟ったと話します。馬塚氏は大学の文部技官の仕事を持ちながら、土日は勿論、平日も早朝から自然観察会やアカウミガメの保護のため自ら現地に出向き自然保護の大切さを説きます。取材日は長野県伊那谷の企業の方々が天竜川下流域の自然視察に訪れた日。馬塚代表の懇切な解説とサンクチュアリ・ジャパンのボランティアメンバーの案内で、馬込川河口の野鳥サンクチュアリ、中田島砂丘のアカウミガメ人口孵化場、浜名湖河口にあるコアジサシのコロニーを一緒に視察しました。雨の降りしきるコロニーに入った時、自生している浜ボウフウを乱獲している人々を発見。海辺動植物の保護地域は立入り禁止であり、採取したものを速やかに返すよう要請し口論に。あらためて自然保護の難しさ厳しさを実感するひとコマとなりました。
 次世代を担う子どもたちの育成に熱心な馬塚氏は「好奇心旺盛な子どもたちの好奇心(K)を刺激し、その好奇心が行動(K)となり、そこで感動(K)を得る。その感動を継続(K)につなげて」と、プラス志向の4Kを掲げ日夜活動を続けておられます。サンクチュアリの活動が更に発展することを願う取材でした。

(取材・文責 青木孝子)


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