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いま、社会の一員として

─ 地域社会との共生をめざす企業と市民団体 ─

宮城県仙台市
(No.51 2000 February)

 今回は進路を東北に取り、訪ねた先は宮城県仙台市です。杜の都、仙台は江戸時代に伊達政宗が青葉城を築き、整然とした町割をもつ、奥州最大の城下町を建設したところ。明治以降も東北地方の行政、文化、交通の中心地として拠点的役割を担ってきました。宮城県の西部は山地、中部の仙台平野は穀倉地帯。北部の海岸地帯は変化に富んだリアス式の海岸線で、日本三景の一つ松島があり、気仙沼は「牡蠣の森を慕う会」の畠山重篤氏が活躍する牡蠣の産地。取材には東北電力(株)と地場企業の総合商社カメイ(株)を訪ねました。
 東北電力は新潟県を含む東北7県に電力を供給している電気事業会社です。国土の5分の1を占める広大な地域に安定した電力を届けるため、暮らしのライフラインである送電線、配電線を供給地域にくまなく張りめぐらせ、その長さは地球を14周するほど。発電所、変電所など多数の設備を持ち、地域で暮らす人々すべてを顧客とする極めて公共性の高い企業として、地域社会との信頼関係を一層強める、地域協調活動に熱心に取り組んでいます。
 カメイは明治36年の創業、3年後に創業100周年を迎える老舗の地場企業です。カメイの歴史は石油の歴史でもあります。創業の地は塩釜市で、漁船への石油供給から始まり、モータリゼーション到来に先駆けて海から陸へ。現在では航空燃料からガソリン、灯油などの石油製品にLPガス、全国に展開する自動車のサービス・ステーションでのエネルギー供給、食品、産業機材、情報機器、各種生保・損保も扱い、海外法人とのネットワークを活かして事業展開をする総合商社です。
 東北電力の活動は本店地域交流部の諸橋幸栄副長に全体を伺い、仙台北営業所と白石営業所を訪ね地域に密着した協調活動を、カメイでは三瓶泰史(さんべ ひろし)常勤監査役に活動を伺いました。また仙台市を中心に先進的な活動を行なうNPO「MIMINet」(MIYAGI Model・Initiative・Network)の活動を常任幹事・座長の川村志厚氏に、白石市で環境保全に取り組むNPO「蔵王のブナと水を守る会」の活動は理事・事務局長の仲村得喜秀(なかむら ときひで)氏に伺いました。


「いつでも どこでも いつまでも 真心をかたちに カメイ」を標語として
 カメイの社会貢献活動

企業もいち市民、社会に役立つ活動を

 地域社会に密着し、顧客への奉仕を第一に歩み続けてきたカメイの基本姿勢は「企業もいち市民として活動する」こと。創業100周年を2003年に迎えるにあたって策定された「100周年ビジョン」のキャッチフレーズが「いつでも どこでも いつまでも 真心をかたちに カメイ」です。石油を中心とする総合商社のカメイは、卸と小売りを兼ね備えた、より消費者に近い産業。生活の場面、場面で社会の成長と発展に貢献したいとの思いを表現しています。
 最初の地域社会への貢献事業は会長の亀井文蔵氏が理事長を務める社会福祉法人やすらぎ会の設立でした。1970年代半ば、高齢化が社会的な問題となる以前のこと。仙台の北、鳴瀬町に建設した特別養護老人ホームは高齢者50名が入居し、カメイの支援で運営されています。

奨学財団を設立して次世代を担う若者を支援

 カメイの地域貢献の原点は2代目社長亀井運蔵氏に溯ります。現会長亀井文蔵氏(3代目)、社長亀井昭伍氏(4代目)の父である同氏は、厳しい環境の学生たちへ私財をもって奨学金援助を行なう、教育支援に熱心な篤志家でした。(財)亀井記念財団は、その意志を継ぎ1981年に設立された奨学財団です。高校生と外国人私費留学生に奨学金支給を、大学生には奨学金の貸与を毎年行なっています。高校生は20名程度、留学生は宮城県下の大学に通学している大学生・大学院生で10名内外。大学生は東北6県出身者で宮城県下の大学に通学している者、または岩手大学に通学する宮城県出身の大学生・大学院生で20名程です。支給・貸与期間とも正規の修学期間。貸与の返済は貸与期間の3倍の期間です(無利子)。奨学金の支給および貸与は学校長・校長の推薦をもとに選考委員会の審議を経て各学校宛てに通知されます。支援を受けた学生は延べ800名ほど。毎年11月には「奨学生激励会」を開き、現役の学生とOBが100名ほど集まります。財団関係者と学校側の先生、留学センター関係者も参加する立食パーティーは、奨学生激励と共に外国人留学生にとって貴重な国際交流の場になっています。
 この他、次世代を担う青少年の育成事業のために企業寄付として1億円が塩釜市に寄贈されました。1990年から5ヶ年計画で贈られた基金をもとに同市は「カメイ子ども夢づくり基金」を設立。中学生を対象とした初の海外研修事業をスタートさせ、国際的な視野を持った青少年の育成を始めています。

創業90周年を記念して文化支援の財団を設立

 1994年、仙台駅近くに建設した自社ビルに「カメイ記念展示館」がオープン。創業90周年を迎えて文化支援活動を進めるカメイの記念事業です。ここには蝶の収集家として知られる亀井文蔵氏所蔵の「世界の蝶」の標本と、亀井昭伍氏が集めた東北地方の名工の手による「伝統こけし」、同社所有の絵画も展示されています。亀井文蔵氏・昭伍氏の兄弟が生まれ育った塩釜の山々には蝶が多く、文蔵氏は中学生時代、虫カゴと捕虫網を手に一日中野山を駆け回る少年でした。現在も休日に近くの野山を散策し、帰宅すると採集した蝶の標本づくりに励む熱心な収集家です。地球上には現在約1万5千種、日本には240〜250種の蝶が棲息しているといわれています。展示館のコレクションは約4千種・16万頭に及ぶ日本屈指のもの。中には他で見られない珍しい蝶も多く、地域別に整理された展示は見事です。
 カメイ記念展示館がオープンした翌1995年、博物館の運営と学芸員への教育支援・助成を目的に文部省を主務官庁とする(財)カメイ社会教育振興財団が設立されました。単に展示品を一般公開するだけでなく、学芸員の内外研修に対する助成や情報サービス、博物館に関する国際交流への助成、青少年の社会教育活動に対する助成なども行なっています。昨年の助成は合計19件、1340万円でした。財団を通じての社会貢献活動は、継続性を重視するカメイの企業姿勢を表明しています。

地域社会の生活文化向上へ役立つ活動を

 社業の延長線上にある貢献活動では低公害車向けのエネルギー供給拠点「エコ・ステーション」の設置があります。1995年に東北第一号が仙台市内にオープン、電気や天然ガスなどの燃料を供給し環境保全の一助となる活動を行なっています。また、下水処理施設で出る汚泥を短時間で粉砕・乾燥する「ジェットバーナーシステム」を日本下水道事業団などと共同で開発しました。有害なダイオキシン類や二酸化炭素を出さずに汚泥を処理するほか、貝殻や生ゴミなど、さまざまな廃棄物の処理に利用可能な環境保全に役立つシステムです。エネルギー供給を主事業とするカメイは、今後とも環境保全に役立つ事業へ積極的に参入したいと考えています。
 仙台オペラ協会の会長も務める亀井昭伍社長は、地域社会の文化振興に熱心であり、「地方でも芸術性の高い音楽を」と、仙台・県民会館などで上演されるオペラ公演も支援しています。カメイの社会活動は、企業財団による継続した活動と教育・文化・環境・福祉、地域で求められる行事への参加などを通じて一歩一歩、着実に実践されていました。



NPOの存在意義は実践にしかない
 MIMINet

 MIMINet(ミミネット)とはミヤギモデル・イニシアティブ・ネットワークの略称で、参加資格を個人とする開放型、ネットワーク型のNPO。環境や福祉など単一目的のNPOとは異なる非営利組織です。MIMINetの活動を紹介する前に、組織が生まれた地域と環境特性に触れておきます。仙台の北部に20年以上の歳月をかけて開発している「泉パークタウン」があります。欧州の街をモデルに理想のまちづくりを目指して、統一コンセプトのもとに開発された地域です。計画人口は5万人で、現在はまだ半分。住人には大学や企業の研究者・専門職も多いのが特徴です。ここを高度な産業集積地にしようという国と宮城県の構想のもとに、21世紀研究プラザというインキュベーターラボもまちづくりに組み入れられました。そして外資を含む企業の研究所、大学、図書館、ホテルなどさまざまな施設も地域の中に揃いました。
 日本でインターネットが云々される前の1995年、地域との関わりについて勉強しようと、企業の社員・研究者たちも参加して研究会がラボの中に発足。研究会は米国シリコンバレーに誕生した非営利組織「スマートバレー公社」の精神に習い、宮城県版をめざして「宮城情報交流推進グループ」と命名。これが1年後、名称をMIMINetに変更して本格的な活動の開始となりました。会の目的は、世界の先進的な事例に学びつつ、宮城県の地域経済・産業と地域社会を相乗的に活性化するための先駆的な活動モデルを創出すること。いつでも、だれでも会員になれますが、参加資格はあくまで個人。個人の自発性と能力に基づく創意を基本として運営されています。
 MIMINetの構成は「支援協議会」と「プロジェクト委員会」からなり、前者は宮城県下各界の著名人50名が名を連ね、活動の社会的認知と発展を側面支援するネットワーク。後者は実際のプロジェクトを組成・実行するネットワークで、会員は企業人、研究者、公務員、主婦など多様な140名。常任幹事・座長の川村志厚さんによると「MIMINetは個人の自発性に基づくさまざまなプロジェクトを立ち上げるための基盤。立ち上げに必要となる要因分析や外部へ協力要請するためのビジネスプランを作成するプラットフォームであり、その役割を担っている」とのこと。力量が問われるプラットフォーム・コーディネータの役割を果しているのがマネジメント・コンサルティングの専門家である川村さんです。国際性豊かな経験のもとに、プロジェクトごとにビジネスプランの作成を支援、今までに立ち上げたプロジェクトは15件。1つ1つがNPO的存在です。全てが先駆的モデルとして社会的な評価を受けました。成功の理由は、(1)MIMINetが個人の自発性と能力を基盤とする組織でありながら、個人が所属している産・学・官の組織や民のネットワークから、活動資源を導入できる柔軟なしくみがあること。タテ社会の組織がもっているパワーをヨコ社会であるNPOで活用できるチャネルを形成している。(2)小さな成功例の積み重ね。小さな成功は大きな自信に繋がり、非常に重要。(3)参加者全員に必ずメリットがあることが大原則。メリットのないことをいくら自発性に基づいてやってもダメ。実践に培われた川村さんの分析です。「日本社会にもNPO的発想と活動が根づく時代になったと思います。これからの変化は急速に進みますよ」。確信に満ちた力強い言葉が心に残りました。



「地域繁栄への奉仕」を経営理念に、地域社会に密着した活動を展開する
 東北電力の地域協調活動

全社的取り組みとして展開される地域協調活動

 暮らしのライフラインである電力を管内の全地域に供給する東北電力にとって、そこに暮らす人々全てがお客様。地域社会の支持がなければ企業の存在基盤も揺らぎかねません。「全社的に取り組むために地域協調推進本部体制を敷き、地域社会との信頼関係を深める努力を重ねてきました」と、地域交流部副長の諸橋さん。地域社会との交流をめざす地域協調推進本部は60年代に設置されていました。地域協調活動(東北電力での社会貢献活動等の呼称)は、担当部門単独の活動ではなく、全社的活動として展開されるものです。本店に「地域協調推進会議」、各支店・営業所に「地域協調推進委員会」を設置すると共に、東北電力グループ各社と一体となった取り組みを展開するため「関係会社地域協調推進会議」も設置。東北電力およびグループ各社の社員全てが「地域協調活動」という名称で地域社会との対話・交流活動に取り組む全社・グループあげての活動です。

「地域の人々と一緒に」をモットーに

 地域協調活動を進めるにあたって、東北電力では企画段階から地域の人々が参画し、共に活動する地域参画型の行事を重視しています。特に支店や営業所などでは地元のニーズを尊重した活動に重点がおかれ、高齢者・障害者支援、福祉施設慰問や街路灯寄贈などの社会福祉活動、環境保全活動、各地域イベントへの参加などの活動を行なっています。本店では、次代層の育成支援活動として小学生のミニバスケットボール大会や中学生作文コンクールなどを開催すると共に、文化振興活動として、東北の伝統芸能や歴史を紹介する文化誌の配布やコンサートも開催。仙台フィルや山形交響楽団など、地元オーケストラによる「名曲の夕べ」を東北七県で年一回ずつ行なっています。
 営業所の地域協調活動は「地域協調推進委員会」が地域ニーズを汲み上げ、活動計画書に沿って実施されます。今回は仙台北営業所と白石営業所を訪ね、地域に根ざした具体的な活動を伺いました。

特養ホーム・独居高齢者宅訪問を継続
仙台北営業所

 仙台北営業所の所員は90名。管内には支店直轄の事業所があり、営業所と一緒に地域協調活動に参加しています。
 管内の特養ホーム3施設について1990年から一昨年まで1施設年2回、昨年からは1施設1回の奉仕活動を実施しています。
 ホームでの奉仕活動は、電気配線の点検や照明器具の点検・清掃など、電力会社ならではの作業。さらには、窓ガラスや網戸の掃除、障子の張り替え、庭の草取りから球根植え付けまで、事前にホームと打合わせを行ない、希望に添った活動を展開しています。作業は9時過ぎから午後3時頃まで。お天気の良い日には作業終了後、車椅子を押して散歩したり、施設の責任者から高齢者介護の実際を教わることも。奉仕活動を行なう企業人とホームの人々の間には親密で暖かな交流が育ち、高齢者から大変感謝されている活動です。
 一人暮らしの高齢者が増えている現状の中で、独居高齢者宅への訪問活動も実施しています。民生委員、自治体、消防署員と共に行なうもので、内容は電気設備の点検・清掃、対話など、特養ホームでの奉仕活動とほぼ同じです。昨年は3回で約130軒の独居高齢者宅を訪問しました。この他、河川の清掃活動、地域各界の識者から意見を頂戴する地域懇親会の開催など、地域に根ざした地道な活動が着実に継続されていました。

NPOと連携し蔵王の自然環境を守る
白石営業所

 白石営業所は仙台の南、福島・山形の県境を含む地域を所管しています。周辺に蔵王連山や温泉郷のある地域は、きれいな水と交通に恵まれ、ハイテク産業が多く集まる地域でもあります。所員は92名、独居高齢者宅訪問など地域福祉活動をはじめ、他営業所と同様の地域協調活動にも取り組んでいますが、NPOの『蔵王のブナと水を守る会』と連携して植林活動や自然環境保全の啓発活動を昨年から始めました。守る会は東北で最初に法人格を取得した環境保全のNPOです。会の目的と白石営業所の環境保全活動が内容的に一致するため、「単なる支援でなく、私たちも一緒に活動しようと決まりました」と、課長の高橋さん。『蔵王のブナと水を守る会』はブナの苗木を育成し植林するグリーンレンジャーと、寄付で集めた基金をもとに植林の土地を買うナショナル・トラスト運動からなっています。営業所ではグリーンレンジャー支援を企業グループとして社員の任意参加で行なっています。昨年6月に行われた植林作業には家族を含む22名が参加し、環境保全の大切さを学びました。企業が支援するNPO活動を、社員が個人として家族を連れて参加する活動へどう繋げ広げていくか。今後の事務局の課題です。この他、NPOに不足している植林作業の用具を購入して貸与したり、活動を広く一般に知らせる啓発活動用のパネルやチラシの作成、子どもたちの学習用に植物図鑑の購入も行ないました。社内向けに環境保全を啓発する講演会の企画も進めています。NPOと連帯した環境保全活動が広がりのある大きなうねりになるよう願う取材でした。



“森林”の保護と復元をめざして
 蔵王のブナと水を守る会

 冷温帯気候の東北地方は潜在的に落葉広葉樹林のブナ林に適し、戦前まではほとんどがブナの原生林でした。戦後の開拓と開発によって、ブナ林の伐採が続き、防風林も残さず高標高地のブナ林が伐採されました。荒れ地のまま森になれない場所が現在も数百haあります。『蔵王のブナと水を守る会』はブナ林を守ろう、荒れ地を森に戻そうと1986年、任意団体として発足しました。会を立ち上げた一人が林業を営む、現事務局長の仲村得喜秀さんです。
 任意団体には資金がなく、最初から苗木畑を借りて自分達で苗木を作りました。畑は300坪ほどを年間1万円で借りています。グリーンレンジャーを立ち上げたのは1990年ですが、苗木を植林する土地がありません。土地を探し、蔵王山系東斜面にある国立南蔵王青少年野営場と交渉して森づくりの認可を得、植林活動が始まりました。ナショナル・トラストで買った南端部の土地でも植林活動を始めています。通常のナショナル・トラストは現状を守るため土地を買い取る活動ですが、当会では荒れ地を買ってブナの森に戻す活動です。昨年から子どもたちを対象に、「森の教室」も始まりました。子どもたちが樹木の名前を覚え、“自然”について学んでほしい、森作りの技術と作業を体験し、森作りのエキスパートになってほしいと願うものです。現在の会員数は300名ほど。白石市内より他の市・町や県外の会員が多くなっています。
 会の活動内容は仲村さんと事務局の大浦さんに伺いました。大浦さんは東北電力のOB。在職中に会の活動に関心を持ち、月例会に馳せ参じてグリーンレンジャーとして植林活動に参加していました。「1992年ごろ、社内誌で会を紹介し参加を呼びかけましたが、反応はゼロでした」と当時を振りかえります。個人会員として森づくり活動に参加して10年。大浦さんの活動を介して企業とNPOとの連携が生まれました。最初の一歩が新しい市民社会へのステップへ。新たな発展が期待されます。

(取材・文責 青木孝子)


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