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トップが語る

1%クラブニュース (No.65 2004 春)

トップが語る
「企業が果たす社会への役割」

平野浩志
Hiroshi Hirano
(株)損害保険ジャパン社長
─御社は積極的に企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たそうと取り組んでおられますが、平野社長ご自身のお考えをお聞かせください。

CSRは受身で行うものでなく、社会が企業に何を求めているかを自ら考え、目標を設定して取り組んでいくべきと私は考えています。
CSRを推進する上で重要だと考えているポイントは、「本業におけるCSRの推進」、「企業風土づくり」、「情報開示とコミュニケーション」の3点です。
本業分野では、金融機関として長年環境問題に取り組んできた実績を踏まえて、「環境関連の新商品・新サービスの提供」に力を入れています。そうした動きの一環として、「エコファンド」と呼ばれる投資信託の商品を開発し販売したところ、大きな反響がありました。

─「エコファンド」はどういう商品ですか?投資家の反響や評価は?

エコファンドは、SRI(Socially Responsible Investment)の一形態です。SRIは企業に投資する際、財務面だけでなく環境や社会への対応なども考慮して投資先を決定する投資手法で、欧米を中心に急速に規模を拡大しています。当社のエコファンド「ぶなの森」は、1999年に発売した投資信託商品で、「環境問題に積極的に取り組む企業は中長期的に成長力が高く、企業価値が向上する可能性が高い」という仮説を立て、環境問題の解決に熱心に取り組んでいる企業の株式に投資しています。設定来の運用パフォーマンスも2004年3月5日現在で、TOPIX(東証株価指数)を9.2%上回るなど好調に推移しています。また、エコファンドの購入者を分析したところ、初めて投資信託を購入したという個人投資家が多いことが判りました。この新しい投資家を我々は「グリーンインベスター」と呼んでいますが、グリーンインベスターと企業の間をつなぎ、双方の理解を深めていくことが、我々金融機関の果たすべき重要な役割だと考えています。

─「企業風土づくり」と「コミュニケーション」についてもご説明いただけますか?

当社は、CSR・環境推進室を他社に先駆け設置しましたが、推進組織をつくっただけではCSR推進の企業風土は生まれません。時間をかけてその精神を社員全員の心と行動に根づかせることが大切で、そのためにはトップが本腰を入れて取り組むことが極めて重要です。「全員参加」、「地道・継続」、「自主性」は当社の環境問題への取り組みのモットーですが、CSR推進にも同様に取り組んでいます。
また、CSR推進のためには社内外のコミュニケーションを密にすることが大切です。コミュニケーションの核となるツールとして当社では「社会・環境レポート」を発行しています。このレポートで、結果だけではなく当社のCSR活動のプロセスも知っていただきたいと考えています。また、レポートを通じてさまざまなステークホルダーの声をお聞かせいただき、その意見に謙虚に耳を傾け、取り入れていく姿勢が求められると考えています。

─CSRの重要課題に「人権」があり、「人間尊重推進本部」を設立されたことにも関心を持ちました。

「人権」については世界的な取り組みが強化されておりますね。また、国による過労死認定基準の見直し、男女雇用均等法等に対する企業責任の強化など、人権問題に関する企業の社会的責任は従来にもまして非常に高いレベルで求められつつあります。当社ではこうした社会全体の大きな流れに加え、合併を経て新創業を迎えた損保ジャパンの新たな社風と社員づくりのために人間尊重推進本部を設置しました。異なる企業文化とDNAを持った社員が一緒になって新会社をつくり上げていく。そのためには、新たな企業文化の創造が必要だと考えたのです。人間尊重推進本部では、人権問題、健康管理、労働時間、女性活躍を重点取り組みテーマに掲げ、「人間尊重」をキーワードとして、「暮らしやすい社会」「仕事のしやすい会社」「オープンで活力あふれる職場」の実現に向けて全社的に取り組んでいます。

─新創業後も旧来の社会貢献活動は継続されていますか?現在の基本方針と具体的な取り組みをご紹介ください。

合併を機に「損保ジャパン社会貢献方針」を制定し、「企業として行う社会貢献」と「社員一人ひとりが行う社会貢献の支援」という2つの視点をもった基本方針を明確にしました。企業としての社会貢献の重点分野は、(1)美術、(2)福祉、(3)環境の3つでそれぞれ美術財団、記念財団、環境財団という3つの財団を中心に活動を展開しています。社会貢献活動の透明性を高めるため、自社が展開する社会貢献プログラムの評価基準をつくるとともに、社会貢献支出額の自主的なガイドラインを定めました。また、特に最近では、高い専門性を持ったNPOと連携した活動を推進しています。

─NPOと連携したプログラムとは?

ひとつは、1993年から開催している「市民のための環境公開講座」です。損保ジャパンと環境財団、(社)日本環境教育フォーラムとの共催で、この10年間で191回開催、延べ8600名が受講されました。地道な活動ですが、社会性の高いプログラムと思っています。
もうひとつは2000年からスタートした損保ジャパン環境財団が実施するNPOへのインターンシップ・プログラムで、これは希望する学生を最長8ヵ月間環境NPOに派遣する制度です。環境分野で活躍する人材の育成と人手不足に悩むNPOへの側面支援、NPO活動に対する理解を社会に広めるという狙いがあります。昨年は22団体に50名を派遣しました。こうしたNPOとのパートナーシップですすめる「人づくり」は、今後ますます力を入れていきたい分野です。

─「ちきゅうくらぶ」という組織もございますね?

1993年に設立した全社員が参加するボランティア組織で全国の地区本部、支店ごとに各地のニーズを踏まえた多様な活動を展開しています。最近の活動事例としては、静岡ちきゅうくらぶの人形劇公演があります。「稲むらの火」という民話を題材にした人形劇で、今年の1月にNHK静岡でも放映されました。これは阪神淡路大震災で被災経験のある静岡の一社員が、子ども達の防災教育の重要性を実感し、人形劇なら子ども達が興味を持つと、「人形劇センター静岡」に働きかけて実現した人形劇なのです。台本づくりには社員の自主的な寄付制度である「ちきゅうくらぶ社会貢献ファンド」から金銭的な支援も実施し、静岡県地震防災センターでの初公演では、運営ボランティアとして社員が積極的にかかわりました。
その他にも仙台ちきゅうくらぶでは、3年前から特別養護老人ホームでの「車いすの整備ボランティア」をスタートさせ、いわば整備のプロである保険販売代理店の自動車整備工場の皆さんと一緒になって活動しており、この取り組みは、長崎、広島など、各地に広がりつつあります。
また、近畿ちきゅうくらぶの「ぶなの森守ろう運動」、本社ちきゅうくらぶの「手話コーラス隊」、事務本部ちきゅうくらぶの「身障者向けのパソコン教室」など、各地でさまざまなボランティア活動に取り組んでいます。このような地域貢献活動の広がりを大変うれしく思っています。

─「人づくり」への尽力は大切なことですね

そのとおりです。企業経営の根幹は「人」です。私は「人」の成長が「企業」の成長をもたらすと確信しています。私の好きな言葉にイギリスの教育者W・アーサー・ワードの、「凡庸な教師はただしゃべる。良い教師は説明する。優れた教師は自らやってみせる。偉大な教師は心に火をつける。」というのがあります。「心に火をつける」ことは、とても難しいことですが、経営者としてこれからも人づくりに情熱を注いでいきます。

(文責 青木孝子)

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