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企業人政治フォーラム速報 No.100

2002年6月19日発行

企業人政治フォーラム速報は、今回で創刊100号となりました。
今後とも政治と企業人のコミュニケーションを深めるため、有意義な情報をご提供いたします。

企業人政治フォーラム2002年度定時総会・記念講演会開催

6月10日(月)企業人政治フォーラム2002年度定時総会・記念講演会を開催した。講演会は草野厚慶應義塾大学教授から「政」と「官」と「民」の新たな関係をテーマに講演いただいた。その後の記念パーティには、竹山裕参議院自民党議員会長、神崎武法公明党代表、野田毅保守党党首、岩國哲人民主党副代表他多数の国会議員や有識者に来席いただき、出席者と懇談した。

【新会長に荒木浩日本経団連副会長が就任】

定時総会では、1. 2001年度事業報告と収支決算、2. 2002年度事業計画と収支予算について審議、可決された後、3. 役員改選を行い、任期満了の古川会長の後任として、荒木日本経団連副会長が当フォーラム会長に就任した。今回選任された役員は次の通りである。

会長荒木浩 東京電力会長(新任)
会長代行前田又兵衞 前田建設工業会長(再任)
代表幹事 木原誠 新日本製鐵副社長(再任)
潮田敞 大成建設副社長(再任)
勝俣恒久 東京電力副社長(新任)
上坂凱勇 トヨタ自動車副社長(再任)
熊谷一雄 日立製作所副社長(新任)
和田龍幸 日本経団連事務総長(再任)
会計監事 山中塁 旭化成総務部長(再任)
山田純郎 東京海上火災保険総務部部長(新任)


草野厚 慶應義塾大学教授

草野厚慶應義塾大学教授講演要旨
「『政』と『官』と『民』の新たな関係」

【小泉内閣の採点】

小泉内閣は昨年4月26日にスタートし、一時期は90%前後の支持率を持っていたが今は40%を割っている。限りなく赤に近い黄色信号である。
小泉内閣は、総裁選当時からメディアが国民に影響を与え、誕生したようなものであるがこのような経緯をメディアは忘れているのではないか。ある雑誌の見出しに「小泉内閣41点」とあるが、私の採点は70点である。理由として、まず構造改革を明確に打ち出し路線を敷いたことである。一部には実績がないというが、誕生したのが昨年の通常国会後半であることを考慮すべきだし、30兆円枠を愚直に守っていることも良かった。2番目には特殊法人改革を進めたことである。橋本内閣が作った基本に枝葉をつけた。道路公団の民営化は道路族の抵抗で中途半端だという人もいるが、わずか8ヶ月で基本路線を敷いた。国鉄の分割民営化には5〜6年かかっている。不良債権処理が批判されており、これに同調しても60〜65点は出せる。安全保障はPKO法の改正までやり、80点であることから総合で十分70点はつけられる。

【審議が進まない理由は】

今次通常国会では有事法制、医療制度改革、信書法案を含めた郵政の関連諸法案、個人情報保護諸法案の4つの重要法案が全部衆議院レベルで止まってしまっている。これも小泉さんのせいにするのは簡単であるが、1つには突発的な事件・事故が多すぎたことと。つまり昨年9月11日の同時多発テロ、狂牛病、外務省問題、田中真紀子問題、鈴木宗男問題、そこから発展した政治と金の問題や瀋陽の事件等、実に多数の事件・事故がある。もう1つは、予算委員会は予算を審議しない、スキャンダル追及の場であるからだ。野党は先述した多数の材料を使って政権を倒そうとするので審議をせず、与党も単独で審議したくない姿勢であるから、何も先に進まない。スキャンダル追及の場と予算審議は別にすべきである。

【政治資金規正のあり方】

ロッキード、リクルート事件を振り返るまでもなく、一連の政治とカネを巡るスキャンダルは長い間の日本の政治風土、政治システムと関連がある。同じような議論が繰返され、法律が整備される。しかし、頭の良い人たちはその法律の隙間を掻い潜って政治献金をし、働きかけられた政治家、官僚はその見返りに便宜を図る。運悪く見つかるとスキャンダルになる。こういうことを繰返してきた。
基本的な姿勢として、個人献金1本化はこれまでの企業と政治家の付き合い、企業の社会的あり方から考えると一足飛び過ぎる。条件付で、広く薄く企業献金は認められても良い。条件とは、透明度が高く、当然のことながら金額は非常に少ないという大原則である。万が一にも個別の公共事業、公共プロジェクトの見返りとしての献金だと疑われるような献金の仕方はしてはならない。外務省でも瀋陽の事件でトップと出先の大使館、総領事館と意思の疎通が悪かったが、民間企業でも雪印をいうまでもなく、様々なスキャンダルの時、常にいわれるのはトップと現場の意識の差である。企業としての政治献金のあり方、政治献金を行なう理由をトップから下まで再徹底していただきたい。
具体的事項を3点申し上げる。第1点はあっせん利得処罰法である。対象を私設秘書にまで広げると思われるが、与党案の、現金授受があり犯罪の構成要素があるかどうかを重視する案と、野党の、約束をしただけで処罰できる案とでどう調整されるかである。2点目は自民党だけで3,000を超えて存在する政党支部の問題である。企業献金は政党支部にはできる。地場の企業を中心に政党支部に献金を行い、中央で集めた政治資金と地方で集めた資金が半々くらいのデータもある。この政党支部の数の制限が検討されている。3点目は情報公開である。政治献金のデータは総務省に行かないと閲覧できないが国民1人ひとりが自由にデータにアクセスして知る機会が制度化されるべきである。
最後に、政治とカネを巡るスキャンダルは日本の社会に対する考え方、風土に根ざしているところが大きい。物を頼む時に何かを包む、また何かを包めば見返りがもらえると思っている人たちが多い。日本社会の中心となるような人たちが裏金を使って自分の志を実現しようとする社会では政治と金のスキャンダルはなくならない。政治家だけ、官僚だけがしっかりしなければならないということではバランスを欠く。


[草野厚氏プロフィール]
くさの・あつし 1947年生まれ。71年慶應義塾大学法学部卒。78年上智大学大学院外国語研究科修士課程修了。82年東京大学大学院社会学研究科博士課程修了後、プリンストン大学大学院客員研究員を経て87年東京工業大学助教授。92年より現職。「官僚組織の病理学」他著書多数。

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