企業人政治フォーラム速報 No.24

1997年10月30日発行

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税制改革について/
宮下創平自民党税制調査会副会長
−政経懇談会

10月23日の政経懇談会で、宮下創平自民党税制調査会副会長兼小委員長は、来年度の税制改正の見通しなどについて語った。以下はその概要である。

■自民党税制調査会の役割
予算編成の過程で、歳出面については党の各部会がそれぞれの議論を取りまとめ、最終的には大蔵省の主計局が取りまとめて内閣の責任で予算編成をしていく。これに対し、歳入である税の方は、政府税調が多角的に検討しているが、党の税調はそれとは独立した形で存在し、党税調で決めたことはそのまま政府原案になるところが特徴である。そういう意味で、党税調の決定は重要であり、私共も最終責任を負っているという気持ちでことに当たっている。

■緊急国民経済対策
現在の景気の状況は、なだらかな回復基調にあるといったものではなく、相当厳しいものだという基本的認識が自民党の中にはある。そこで、10月21日に党で「緊急国民経済対策」を取りまとめたが、これは4本の柱からなっている。
第1は、規制緩和で、これは6大改革の経済構造改革の中に入っているが、可能なものは前倒しをということで、通信料金の自由化やKDDの民営化、情報通信、環境、金融、労働、土地などの各分野について行う。
第2は、土地税制の問題で、土地を流動化させて有効利用していくために、大規模土地取引に関する事前届け出制の事後届け出制への緩和や地価税の廃止ないしは凍結、個人・法人の譲渡益課税の見直しなどを盛り込んだ。
第3は、中小企業活性化対策で、法人課税の税率の引き下げに際しては、中小企業に適用されている軽減税率についても特段の配慮を払うことにした。
第4が、まさに税制改正の問題で、法人課税については、税率を下げる方向で、中小企業にも配慮して全体的な改革を行うことにした。また、金融証券市場の活性化のために、有価証券取引税と取引所税の廃止に努めることにした。

■税制を決めるのは税調
緊急国民経済対策は、政調会長を中心に臨時経済対策協議会の場で取りまとめたが、税の問題は税調が権威をもってやっているので、税調で決めることになる。そのため、税制に関しては方向性を示したものとなり、表現も「努める」という形になっている。

■税制改革の決定は12月中旬
税制改革の決定の時期については、景気対策の面からも11月中頃までに結論を出してほしいというニーズがあることは承知しているが、決定しても臨時国会で法案を通すのは難しいので、いずれにしろ、年次税制の一環として処理せざるをえない。ただ、土地税制については、緩和策ができるのであれば、4月施行となると、それまでの間は、かえって土地取引が抑制的になることもあるので、1月1日にさかのぼって適用することになろう。
さらに、税収見通し、経済見通しがたつのも12月初旬であり、これら全体の中で考えていかなければならないことから、税制改革の決定は12月中旬頃とならざるを得ない。

■将来の税体系
税制については、基本的な課題を議論していきたい。つまり、日本の将来の税制体系、直間比率はこのままでいいのか、という問題だ。消費税を2%あげてもこれだけの騒ぎだが、将来的には、法人税、所得税を軽減して、欧州型の付加価値税のウエートを高めた方がいいと考えている。ただ、橋本内閣のもとでは、消費税を上げないと宣言しているので、今はこの問題に手をつけられない。しかし、これはゆくゆく議論していかないと21世紀における税制構造を健全な形で保持していくことはできない。

■法人税問題
法人税の実効税率が現在49.98%といわれており、それを国際的整合性の点からも10%下げるべきだという主張はよく理解しており、下げたいと考えているが、そのためにはやはり全体の中で考えていかなければならない。
法人税10%引き下げということを年次計画で決められるかどうかについては自信がない。法人税の1%は4千億円に当たり、10%引き下げようと思えば、当然、国税(約33%)のみならず、地方税(約16%)も見直す必要がある。特に日本の赤字法人は60%に達しているという実態から、地方税における法人事業税についても外形標準課税の導入も含めて見直していく必要がある。

■法人税減税の税源問題
法人税減税の税源としては、いくつか考えられる。
1つは赤字国債の増発である。しかし、これは現在の財政再建路線に背馳することで好ましくない。恐らく、今後、次のような議論が出てくるだろう。それは、7兆円強の赤字国債を2003年にゼロにするということは、財政再建法案に明記してあるが、そのなかの各年度の減額幅については何も決められていない、そこで、来年は今の景気状況もあるので、赤字国債の圧縮幅を減らして、最終的な目標年でゼロにすればいいのではないか、という議論である。これについて、1つだけ指摘しておくと、税制はパーマネントなものなので、1回きりだからいいという問題ではなく、それが永続する可能性があるということである。私共も法人税の問題は、増減税イーブンでなくてはならないとは思っていないが、この赤字国債との見合いにならざるをえない。
2つ目は、よく学者などがいうことだが、公共事業などの歳出削減でやればいいということだ。しかし、今、財政再建で歳出カットは相当細かくギスギス決まっており、これ以上の削減は難しい。
3つ目は、総合的な税制改革の中で、付加価値税を設けるとか、消費税を引き上げるということだが、これは政治的には今は不可能だ。
そうなると、あとできることは、赤字法人への外形標準課税を導入するかどうかといったことだが、これも一助にはなるが、決定的なものにはならない。こういうことから法人税問題は、基本的には課税ベースの拡大等によって何年かにわたって漸減しつつ、税源をある程度基本的にキープしていかないと基本税率あるいは実効税率の引き下げはままならないのではないかと率直に申し上げておく。
経済の国際化が進み、かつ企業活動を活性化させるためには、税制もグローバルスタンダードでなければならないのはよくわかっている。こういう視点を十分踏まえながら、一方財政再建問題もあり、苦しい選択になると思うが、今後、検討していきたい。全体を見てグローバルな視点から状況を判断していかなければならないということは理解してもらいたい。

■長期的展望を織り込んだ対策を(今井副会長)
今、問題なのは、閉塞感というか将来の展望が見えないことだ。歳出の方は、財政再建法によって、長期的な展望のもとにやるのだから、歳入の方もできないことはない。平成10年度の税制改革を検討する際には、是非長期的展望を織り込んだ対策をお願いしたい。法人税も10%引き下げ、国際的整合性を保つということで是非やっていただきたい。法人事業税の外形標準課税の問題は、これを一部導入しないと事業税が下げられないという話もあるようだが、むしろ法人住民税の均等割りの方を引き上げるのも1つの方法ではないかと思う。

■平成10年度は5%の引き下げ、5千億円の実質減税の実現を(古賀税制委員会共同委員長)
税制の基本的な体系の問題は、その方向で考えていただきたい。
今年は、法人税の抜本改革を行い、まずは実効税率を5%下げていただきたい。同時に10%引き下げるためのスケジュールを示していただきたい。そのスケジュールが示されれば、課税ベースの適正化についても、国際的な整合性から見て、是正すべきものは是正するという覚悟でいる。
ただ、今の経済情勢からして、課税ベースの拡大でニュートラルにしてしまうということは問題があると思うので、5千億円くらいは実質減税をお願いしたい。


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