企業人政治フォーラム速報 No.29

1998年 1月27日発行

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宮澤元総理/金融システム安定化対策等、当面の重要政策課題について
−政経懇談会−

去る1月13日の政経懇談会で、宮澤元総理(自民党緊急金融システム安定化対策本部長)と金融システム安定化対策等の重要政策課題について懇談した。

【宮澤元総理発言】

■金融システム安定化法案の早期成立を期す
金融システム安定化対策については、昨年の12月15日に大体出来上がった。その時には、残念だが、いくつかの倒産が発生していたし、東南アジアの通貨危機は韓国まで来ていた。また、貸し渋りも相当厳しくなり、株価は下がり、海外ではジャパンプレミアムが発生する状況になっていた。そういう中で、昨日(1月12日)、預金者保護のための預金保険法改正案と97年度の補正予算案を国会に提出した。また、預金保険機構の改正案と金融システム安定に関する法律案は1月19日に提出することになるだろう。これらをできるだけ早期に、1月中には成立させてもらって、できるだけ早く施行したい。

■優先株、劣後債の公的資金による購入問題
金融機関の自己資本充実のために、優先株あるいは劣後債を公的資金で購入するという問題は、北海道拓殖銀行の場合における北洋銀行のように、破綻銀行の受け皿となる銀行を支援するような場合は客観的に見て問題ないだろう。しかし、それ以外の場合にどういうケースがあるかは、今一つはっきりしない。野党は、銀行救済になるという議論をしているが、どこかの地域で銀行の倒産が起こり、預金者は保護されるが、貸し出しを受けている人が路頭に迷うような状況も起こりうる。その場合に、少なくともその銀行を潰すことが社会的コストが大きく、何らかの支援をした方がいいという事態が起こりうるのではないかということで、この規定を入れている。
これを発動するには、民間からも委員を3人お願いしている審査機関(委員7名)で、全員一致の議決を前提とした厳正な審査をしてもらい、その後閣議決定に持ち込むという大変厳しい物差しでやっていくことにしている。審査機関における民間からの3委員の任命も野党との折衝の中で、国会承認事項になるかもしれない。

■貸し渋り対策
貸し渋り対策としては、早期是正措置について、国内基準である4%適用銀行は、期限を1年延長してもいいということを決めた。しかし、国際基準の8%適用銀行については、緩めるわけにはいかず、地方銀行のほとんどが8%適用銀行であることから、これがどれほど貸し渋りに効果があるのかはやや疑問である。
むしろ、所有株式の評価について、原価法と低価法の選択制を導入することの方が、すべての金融機関に適用されるので、株価を気にしている現状では有効ではないか。

【懇談】

■自社株取得制度の規制緩和を
経団連側意見:
今の金融関係が悪くなった根本的な原因は、株安だ。ここ数年で、株安に対して一番効果があったのが、経団連が提案した自社株取得制度である。これは、現在、剰余金のある会社でないとできないが、この規制を緩和してもらえば、さらに、株価上昇に効果があると思う。

■もう一段の内需拡大策、景気対策が必要
経団連側意見:
優先株の引き受けの問題については、ともすれば銀行の救済と受け取られがちだが、優先株の引き受けはあくまで貸し渋り対策だと思う。
優先株を申請して、審査委員会で拒否されると、それは破綻銀行だというレッテルを貼られることになるし、また、優先株を引き受けてもらうと政府の管理が厳しくなるということで、健全な銀行でも手を上げるところが少ないのではないかと心配している。
株式の評価法に原価法を適用しても、実体の正味財産がどうなっているかということが問題で、正味財産の価値を上げるには、株価が上がらないと駄目だ。そのためには、もう一段の内需拡大策、景気対策が必要だ。

■金融システム安定化の議論は借り手の視点が抜けている
経団連側意見:
金融システム安定化問題は、預金者保護か銀行保護かということだけが議論されているが、もう1つの当事者である借り手という視点が抜けている。貸し渋りの問題が深刻だが、これはまさに借り手の問題であり、借り手というのは、中小企業でもあるし、住宅ローンなどを借りる一般消費者でもある。

■不安心理を止めることが大事
経団連側意見:
銀行が最終的に追いつめられる時の状況があまりよく理解されていない。銀行にとっては、利益が減ることも問題だが、最終的には資金繰りで潰れる。これは、マーケットの心理であり、預金者保護という観点だけでなく、この不安心理を止めることが大事だ。そのために、政府が決然とした対策をとれば、株は自然と上がってくる。

■とにかく今は法案の成立に全力を尽くす
宮澤元総理:
自社株取得の緩和の件はすぐ検討するように政府に伝える。優先株の件も、今の議論には確かに借り手の視点が抜けている。預金者が保護されるのは当然のことで、借り手が困るということが一番重要な点だ。
一段の景気対策については、広くいわれており、国会でも議論の中心になるだろう。ただ、これは政局につながりやすい問題なので、とにかく今はこれらの法律の成立に一生懸命努力する。

■6百数十兆円の預金を株式に向かわせる方策の検討が必要
経団連側意見:
景気はやはり気であり、みんなの気を明るくしなければ駄目だ。その1つの指標が株価だが、株価を上げるには、日本の1,200兆円の個人資産のうちの6百数十兆円を占める預金を株に向ける方策をいろいろと考えるべきだ。同時に、ある程度消費をやっていかなくては、景気もよくならない。消費を刺激する方策も必要だ。

■世論の理解を得る努力を
経団連側意見:
今の世論は、この金融システムの問題について、はっきりした認識がまだできていないようだ。1つ間違えると、住専の時のようになってしまう。国会の場を含めて、議論をとことんしてもらい、特に一般世論の理解を得るようにしてもらいたい。

■21世紀政策研究所の提言は推進に値する
宮澤元総理:
大所高所からの貴重な意見をいただいた。経団連が設立した21世紀政策研究所が発表した銀行の優良債権の売却に関する提言は推進に値すると思う。銀行利子はないに等しい、株式は少し恐いという中で、中間的な金融資産として、非常に魅力ある投資物件になると思う。
自社株購入の規制緩和など、提起された問題のうちいくつかは、早急に検討していきたい。


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