企業人政治フォーラム速報 No.3

1996年10月3日発行

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総選挙─政局は?争点は?

9月27日、臨時国会冒頭、橋本総理は衆議院を解散した。いよいよ、小選挙区比例代表並立制の下で初めての総選挙が行われる。
当フォーラムでも、投票に臨む会員の方々の判断材料にしていただくために、政局動向や、最大の争点として注目されている行政改革への動きに関する催しを行っている。

自民党の水野行革本部長、行革のノウハウを紹介。政権与党としての実績をアピール

自民党における行革のとりまとめ役として、党内調整や役所との交渉に当たっている、行革本部長の水野清氏が、26日、同本部の事務局次長として金融・証券分野の規制緩和に尽力した塩崎恭久参院議員の同席のもと、政権与党の行革への対応を語った。

■規制緩和のイロハ■
水野氏は、規制緩和の具体例を挙げて、一つひとつの実現の積み重ねが経済社会に大きなインパクトをもたらすことを強調した。
例えば輸入住宅について、水野氏は「水道用品から止め金に至るまでJIS規格をはじめとする細かな規制がかけられており、消費者は割高な部品を購入させられていた」と述べた。これらの規制は輸出国側の要請もあり、大幅に是正された。

■中央省庁を4分野・10省庁に再編■
また、水野氏は「行革や地方分権を行ったうえで、最後に省庁再編により縦割り行政の弊害をなくすことが重要」と述べ、橋本総理が提唱する「霞が関改革」構想を紹介した。これによれば、中央省庁を新たに4分野・10省庁に再編、政策立案機能に特化させ、補助金の配分、許認可などの執行機能は「エージェンシー」(※)に委ねるというものである。

※エージェンシー:
英国でサッチャー政権時代に導入された行政執行機関。まず行政事業の民営化を検討し、民営化が困難な事業のみをエージェンシーに委ねる手法がとられている。

保利耕輔氏、自民党の3年間と教育信条を体験から語る

衆院解散当日の27日朝、保利耕輔氏は政経懇談会で、93年からの野党時代を自民党悲哀の時代とし、「マスコミ、役所、業界団体の対応は悪化した」と振り返った。また、政調副会長として橋本政調会長を補佐し、多くの議員立法法案を作った事を良い経験とした後、細川政権のガット農業交渉の受入れの問題・後処理の苦労などを語った。

さらに94年からの連立政権につき「当初、難しい状況だった」「運営が難しく、政策面で『尻尾が犬を振る』こともあった」と述べた。またこの間、加藤政調会長を会長代理として支え「様々な政策を学んだ」とし、最大の思い出として「歴史観の多様性」を盛り込んだ終戦50年決議をあげた。

続いて保利氏は文相等の経験から、「教育基本法は義務教育期間中、親は子に普通教育を受けさせる義務を定めているが、普通教育の規定は曖昧。9年間を通したカリキュラムの作成、中学卒業時の到達点の明確化を提唱していきたい」と述べた。

福岡政行教授、「自民党単独過半数へ」と衆院選結果を予想

27日の午前中、企業人政治フォーラムでは、白鴎大学の福岡政行教授を招いて『解散・総選挙の見通し』と題した講演会を開催した。席上、教授は豊富な経験と人脈、情報網から推測した今回の総選挙の見通しについての興味深い予想を披露した。

■浮動票は自民、共産、民主へ■
福岡教授は、長年にわたって政治心理学に基づく浮動票の分析を行ってきた専門家。93年衆院選67%、95年参院選45%という投票率の低下傾向の中で今回の総選挙の投票率を58〜59%と見通した上で、相当数に上るとみられる浮動票の流れについて自民、共産、民主にほぼ1/3ずつ流れると予測した。
これは、教授が進めている関東ローカルでの世論調査等から推測したもの。その結果、自民は240前後の議席を獲得し、選挙翌日の10月21日の朝刊には「自民単独過半数へ」という見出しが出る可能性もあると述べた。また、その他政党の議席については、「新進、さきがけ、社民惨敗」「共産躍進」「民主は50超」と予測した。

■民主党の獲得議席、その影響は?■
今回の総選挙では、小選挙区制の話題ばかりが先行している感がある。だが、実際には小選挙区比例代表並立制である。つまり、500議席のうち200議席は比例代表として決まる。福岡教授はこの点を重視、注目の民主党の議席数について「相当数とるのではないか」と予想した。
その根拠について、福岡教授は、

  1. マスコミの世論調査でも「菅直人氏を総理に」という声が20%を超えている、
  2. 教授のグループの関東ローカルでの調査でも30〜40%の浮動票が民主党に流れると推測される、
  3. かつての参院選での比例区で、日本新党が選挙の直前に結党して旋風を巻き起こし、細川・小池コンビで340万票を瞬間で獲得してしまったこと
などを挙げた。現在の鳩山由紀夫・菅直人コンビは、細川・小池コンビ以上に集票能力はあると思われ、したがって比例代表区で20%程度、つまり40議席、小選挙区で30議席ぐらいを確保するのは難しくはない、とした。
さらに福岡教授は、民主党の議席が100を超えるえるようなことになれば、政界の再々編成においてリベラルの極として大きな意味を持つことになると指摘。
歴史的、構造的に見ても行政改革は時代の流れであり、今後日本の政治は行革を軸にコンサーバティブ(保守)とリベラル(自由)の2つの方向に収斂していき、公明党という宗教政党と共産党がその周りに少数党として存在し、それ以外の政党は2つの大きな流れに吸収合併されていくだろう、という意見を述べた。

■政界再々編成の4つのパターン■
総選挙後のいわゆる政界再々編成について、教授は次のような見解を示した。
1つ目は、「自民党+α」政権。自民党が250議席程度をとったとき、あと10〜20人程度を新進・さきがけなどから一本釣りというパターン。
2つ目は、「自民党+民主党」。これは、自民党が230、民主党が70議席程度をとったときのもので、数字的に言ってかなりの決断ができる安定政権になり得る。このパターンが成り立つかどうかの問題は、橋本総理の政策決断にかかっている。つまり、霞が関問題など行政改革に対して、橋本総理が踏み込む決意があれば、鳩山・菅ラインが乗ってくる可能性があるとのことだ。
3つ目のパターンは、いわゆる大連合救国政権と言われる「自民党+新進党」だが、福岡教授はこれについて「100%ない」、また、4つ目のパターンである「民主党+新進党」については肌合いの違いから「200%ない」と断言した。

小泉純一郎氏、「行革の本丸は郵政事業民営化」と強調

一貫して行革の必要性を説き、特に「郵政3事業の民営化」を主張している自民党の小泉純一郎氏が、10月1日、その背景と持論について熱弁をふるった。

■なぜ、郵政が行革の本丸か?■
なぜ郵政3事業(貯金・簡保・郵便)の民営化が行政改革の“本丸”なのか、と小泉氏は切り出した。
たとえば、大蔵省を改革したとしても、役人は減らない。歳出削減も期待できない。また、一つ二つの特殊法人を統廃合したところで、やはりたいした歳出削減運営は期待できない。一方でそれらの運営資金となる財政投融資資金は、郵貯や簡保・年金から出ている。郵政事業を変えれば、大蔵省の改革はもちろんのこと、特殊法人などすべての問題を見直さざるを得ない。株価の売却利益だけでも10兆円を超えるとされる、これが小泉氏の主張だ。

■官業は民業の補完に徹すべし■
小泉氏は、それが「民間でもできる」として郵政の民営化を説く。
『官業は民業の補完に徹すべし』というのが、本来のあるべき姿。民間でできる仕事は、どんどんまかせていくべきである、と続けた。現在の郵政事業は、それどころか『税金を使って民間の仕事を奪っている感すらある。』と憤る。一方で、今年度で16兆円の予算が後向きの国債償還に向けられている。いまの行政の状況は、借金が借金を生む、まさに「借金は麻薬」の体質。いまの時代だけ考えて、問題を先送りにして、孫・子の代まで借金を残して膨れ上がらせるのではなく、長岡藩の家老だった小林虎三郎の“米百俵”の精神を思い出して、百俵を将来の千俵、一万俵にするような、将来をよくするための、“金を生む”ことのできる抜本的な行政改革に早期に着手するべきだと小泉氏は強く訴えた。


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