企業人政治フォーラム速報 No.31

1998年 2月24日発行

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梶山静六前内閣官房長官/
当面の重要政策課題について−政経懇談会−

去る2月10日の政経懇談会で、梶山前内閣官房長官と当面の重要政策課題について懇談した。

[梶山議員]
■今の日本経済は高血糖を直しながらも、低血糖にならないように注意することが必要
日本は国、地方あわせて500兆円以上の借金がある。先進国でその国のGNPの100%にものぼる借金を抱えている国はない。幸い、日本には1,200兆円の個人資産があり、なかでも600兆円を超える預金性の国民資産があるので、それを借り受けて、国や地方は財政運営をやっている。しかし、この借金の度合いが高いということは人間の高血糖と同じで、これが長い間続けば、必ずいろいろな症状が出てくる。この借金をせめて200兆円代に落とさなければならない。それが財政再建のシナリオだ。
一方、もともと高血糖の人は、通常の人が血糖値50くらいで低血糖の症状がでるところを、100くらいで低血糖の症状が出てしまう。日本は、高借金体質に慣れてしまい、昨年の秋頃から、経済が縮小に向かうという低血糖の症状が出ているのではないかと思う。低血糖は一時的に麻痺が出るので、昏睡状態にならないように早く直さなければならない。ここへきて、官民をあげて、遅まきながら、対策をうってきたことで、株価も徐々に戻しつつある。今後は、これが失速しないように絶えず警戒していかなければならない。今は、高血糖を早く直すとともに、低血糖にならないようにすることが大切だ。

■政治は造山運動と水平運動の兼ね合いが重要
政治は、造山運動と水平運動(山を造ることとそれをならすこと)の兼ね合いが一番大事だ。景気がどんどんよくなっている時期は、思い切った分配論、水平運動ができるが、今はどんどん造山運動をやる時期だ。私は、自民党は造山運動に長けた政党だと思っていたが、今は違う。小選挙区制になってからは、あまねく平等社会を作りますといわないと票にならない。政治家は、本来、そういう痛みをこらえながらも、必要なときは、造山運動をやらなければならないと思う。

■国際化の流れは予想以上に早く、痛みを伴う
今は国際化がしきりに言われている。国際化というと聞こえはいいが、最近は恐れすら感じるようになった。国際化の流れは予想以上に早く、しかも深い。早いというのは、金融システム不安に対する対策が後手後手にまわったように、流れが早すぎたということで、深いというのは、国際化は想像以上に痛みを伴うということだ。
いずれにしても、国際化ということはアメリカ化ということだ。英語は身につけることはできても、その背後にある慣習だとか、考え方だとか、生き方までは、残念ながら馴染むことはできない。国際化というのは、結局は米国の一人勝ちになるのではないか。日本は物作りではすぐれた資質をもっているが、投機などは不得手で、むしろ、投機は罪悪だという意識がある。そういう文化の差を考えると、米国型の生活に突入するには、あまりに文化の違いがありすぎると思う。中長期的に考えると、日本が今まで長い間かかって培ってきた産業文化だとか、しきたりで経済が律せられなくなる。それをいちいち米国型に直していけるのかが、今後の大きな課題だ。

■資本の銀行依存度を下げることが国際化の道
金融問題については、詳しくはわからないが、この金融不況を乗り切れるかというと、まだバブルのつけは非常に大きいものが残っていると思う。
日本の銀行の貸出残高は、550〜560兆円で、GNPとほぼ同額だ。米国はGNPの40%弱であり、日本の半分以下だ。日本は良い悪いは別にして、銀行があまりにも大きくなりすぎた。その分、他の金融部門が未成熟で、例えば、証券市場に投資する、あるいは証券市場で資金を調達するということができる体制にすべきだ。日本は、株は悪という感じがあり、今は閣僚は株取引が禁止されている。政府がそんなことをやっているうちは、健全な株式市場は育たない。いずれにしろ、中長期的には、資本の銀行依存度を下げていくことが国際化の道だ。

■あらゆる分野の国際戦略が必要
これから先、日本が生きていく道は、やはり、貿易立国、技術立国だと思う。いつの時代もこの2つにつきる。これは、国際戦略として考えていかなくてはならない。橋本総理にも、経済でも政治でもありとあらゆる分野の国際戦略を持たなければならないと申し上げている。

[質疑応答]
経団連側発言:
株が罪悪だというような考えはなくすようにしなければならない。

■日本と欧米ではマーケットに対する価値観が違う
梶山議員:
日本人は投機を不道徳としているが、欧米では、投機は通常の取引と認識され、詐欺などとは峻別される。また、小学校の頃から、投機の教育が行われ、大もうけしたものを高く評価する。日本では、大もうけしたものはむしろ白い目で見られる。公平の価値観が根を下ろしている。このようにマーケットに対する価値観が日本と欧米では違う。これをどう克服するかがこれからの国際化にあたっての問題だ。

経団連側発言:
税の直間比率と個人所得課税の累進構造の問題をどう考えるか。小選挙区制になって、どの政党も弱者保護になる。これから、国際競争力を高める上でどうすべきか。

■個人所得課税の累進構造の緩和が必要
梶山議員:
わが国の所得課税は、租税負担率が50%〜65%の人が納めている税金が所得課税全体の40%を占めている。やはり所得の50%以上が税金として取られるのは多すぎる。こんなことをやっていると、国内で働く人がいなくなる。外国へ行った方が得だ。有るところから取って、無いところへ分けるのが政治や行政の手法だとするならば、有るところを無くしてしまったのでは取るところがなくなってしまう。有るところには有るようにしなくてはならない。だから、今はどうしても造山運動が必要だ。それがあって初めて分配論がある。今は分配論だけがあって、あれもこれも借金でやるということになりがちだ。

経団連側発言:
日本の国際競争力の観点から、税制については、早期に法人税の実効税率を40%程度に下げるとともに、証券市場を活性化させるためにも有価証券取引税を一挙に廃止してもらいたい。
また、日本の銀行が外国の銀行と競争していくためには、商品開発力をつけなくてはならないが、同時に円の国際化を進めなくてはならない。そのために、証取税の廃止や円債を買った場合の利子の源泉税の廃止といった制度的枠組みを是非作ってもらいたい。

梶山議員:
国際化とは、良くも悪くも国際水準にあわせることだと思う。極端なことを言えば、日本の金利は安すぎる。これから1,200兆円の資産を活かすとすれば、金利も国際化し、間違いなくここ1,2年で金利は1〜2%くらい上がるだろう。これはうまく運用できれば10兆円くらい減税したのと同じ価値がある。これだけ安い金利に守られている日本の金融界は今のうちに国際化を進められる体制を整えてほしい。

経団連側発言:
昨年来、6大改革が打ち出され、日本の進むべき方向が明確に示されたが、これからの課題をを伺いたい。

梶山議員:
今、もっともやらなければならないのが、日本経済の国際競争力を高めること、もう1つは中長期的になるべく小さな政府にすることだ。
それから、健全な社会をどう維持していくかという意味で教育の問題が重要で、本当はこれだけをお願いしたいと思っていた。過去の日本の内なる道徳律や倫理観は戦後50年でなくなってしまった。戦後、日本は、過去のいいものも含めてすべて捨ててしまった。過去にこだわるわけではないが、過去のいいものは残し、あるいはそれに取って代わるものを作っていかなくてはならない。


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