企業人政治フォーラム速報 No.37

1998年 6月11日発行

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私の政治信条と21世紀の日本のあり方
/秋葉忠利社民党政策審議会長
(5月22日政経懇談会)

[秋葉議員]

●政治家になった経緯
私はもともと大学で数学を専攻しており、マサチューセッツ工科大学の博士課程でも専攻は数学だった。米国には、タフツ大学で16年間教えるなど、合計19年間滞在した。その間、日本が理念として世界にどういう貢献をすべきかをいろいろ考えたが、日本の被爆体験を世界に伝えようと思い、いろいろな活動をしていた。そんな関係もあり、米国の大学をやめて、広島の大学に席を移したが、1990年に社会党から頼まれ、断りきれずに、総選挙に立候補することになった。
米国社会と日本社会を比較すると、まだまだ日本社会が米国社会から学ぶべき点はたくさんある。逆に米国社会が日本社会から学ぶべきこともある。国会活動を通じて、米国の基本的な理念の中で、日本社会、特に政治の中で理念として生かさなければならないと感じたことが大きく2つある。

●conflict of interest
1つは、“conflict of interest”という概念だ。これは、“利害関係の衝突”とか“相反利益”という意味で、米国社会では組織などの問題を考える上での基本理念の1つである。
例えば、泥棒が裁判官になって、自分を裁くことはできないように、裁く立場と裁かれる立場は相反する利害関係にあって、その裁く立場と裁かれる立場を同一人物あるいは同一機関に託してはいけないということだ。人間は、非常に弱い存在であり、その弱い存在の人間が公平・公正な社会を作るためには、当然、制度的に最低限の公平さ・公正さを担保しなければならない。これがconflict of interestという考え方だ。
日本の政治の世界では、この考え方が理解されていない。自民、社民、さきがけの与党3党で議論した政治倫理の問題の中で、国会議員の行為規範というのがあり、国会議員の兼職禁止について議論した。それは、国会議員が国の補助金をもらっている団体の役員になることを禁止しようという内容で、国会議員は国の補助金を決定する立場にあるのだから、出す側ともらう側が同一人物では公正ではないということだ。これに対して、自民党から、自分の事業については除外してほしい、という要求があった。しかし、「自分の事業」というのはconflict of interestという概念からいえば、一番厳しく問われなければならないところだ。これは、必ずしも常に不正が行なわれるからというわけではなく、人間は弱いものだから、自分が役員をする団体に補助金を持ってきたいのは人情で、それでも公平さが担保されるような制度をつくろうというのが目的だ。

●complicity
もう1つは、“complicity”という概念だ。これは、“従順に服従する”という意味で、何かの決定に従うということだ。これは、米国社会で、特に第2次世界大戦の教訓の1つとして、強く打ち出されたものだ。それは、ナチス時代のドイツの一般市民の役割について、確かに、ナチスやヒットラーは悪いが、ドイツの一般市民はそれを知っていても沈黙し、黙認していたということが問われている。ナチスの戦犯を裁いたニュルンベルク裁判では、ナチスの将校等比較的下級の地位にある人たちは、自分たちは上官の指示に従っただけで、自分たちに罪はないと主張したが、裁判では、組織の一員であって、上官の命令に従っただけでも、やはり人間個人としての責任があり、上官の命令が人類の普遍的な原理に反する場合には、異議を唱えなければならないと結論を出している。
どんな組織においても、自分の良心に照らして、おかしいと思うところは、これを告発しなければならない。現在の公務員倫理法制定の問題でも、内部告発の扱いをどうするかが問題になったが、内部告発は日本ではただ単に組織に対する裏切りとだけとらえられがちだが、そうではなく、人類全体の知恵の1つとして、組織の決定であっても、個人個人の責任を免れることはできないという点が大事だ。こういったことが日本社会の中でもう少し整理され、社会全体の共通した理念として、理解され、実行されていくことが大切だ。

●日本から世界に発信すべき理念
逆に、日本から、米国や世界に対して、輸出すればいいと思うものもいくつかあるが、その1つが広島の原爆慰霊碑に掲げられている言葉の背後にある考え方だ。慰霊碑には、「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませんから」とある。「過ちは繰り返しませんから」というのは、主語がないが、それは「私」であったり、「日本は」であったりする。一番広い意味でいうと、「人類は過ちは繰り返しません」ということになる。これが、当時の広島市民の思いだったのであろう。実は、この考え方が21世紀の世界で非常に大事で、私たちが日常直面している問題のほとんどが人類的な視野で取り組まないともはや解決できない。これを何とか日本発のメッセージとして、世界に発信していくことが大事だと思う。

自由主義政党の現状と課題
/白川勝彦自民党組織本部長代理
(6月3日政経懇談会)

[白川議員]

●日本を自由主義社会たらしめたものは何か
日本社会は、いろいろなことを言う人はいるが、間違いなく自由主義社会だと思う。しかし、日本の自由主義の歴史はそう長いものではなく、日本が本当に政治的にも、経済的にも、社会的にも自由主義社会として発展してきたのは、戦後50年のことである。
それでは、戦後50年、日本を自由主義社会たらしめたものは何かというと、第1に憲法(基本的人権条項)だ。社会党や共産党は護憲といいながら、社会主義、共産主義社会を目指すと言っていたが、今の憲法は自由主義社会を前提にしたものであり、今の憲法のまま、社会主義社会を目指すのは無理である。さらに、日本を自由主義社会たらしめているものとして、政治的、経済的、社会的に独立した個人や団体の存在、さらに、政治的に自由主義政党が存在し、そこが政権を取るかどうかが大きい。
日本に自由主義政党は、55年体制下を含め、自由民主党しか存在しなかった。ただ、自民党が本当の意味での自由主義政党といえるかどうかは疑問だが、逆に自民党以外に自由主義政党たろうとした政党はなかったということは記憶に留めておかなければならない。
自民党と社会党を中心とする55年体制は、自由主義と社会主義というよりは、保守対革新という捉え方をした方が適切だ。当時は、革新陣営に対して、保守陣営全体が自民党に集まっており、自由主義者がその中核ではなかったというのが厳然たる事実である。

●自由主義政党と非自由主義政党
ソ連の崩壊により、イデオロギー対立の終焉だとか、55年体制の崩壊だとかよく言われるが、実は、外交・防衛政策についての対立は、社会党が政策転換したためになくなったが、自由主義と自由主義でない(管理を重視する)イデオロギーは人間社会が存続する限り、永遠の対立軸として残ると思う。だから、私はイデオロギーの終焉という言葉は間違っていると思う。
自由主義政党と非自由主義政党を分けるのは、その政党が誰によって支えられているかによって決まると思う。特定の限られた団体によって支えられている政党は本質的に自由主義政党たりえない。そういう意味で、かつての総評に支えられていた社会党や、同盟と創価学会に支えられていた新進党、さらに連合に支えられている新しくできた民主党も、自由主義政党とは言えない。
自由主義政党は、本来、どうぞご自由にというのが原則なのだから、組織的には論理上自己矛盾を抱え、その組織力は脆弱である。従って、自由主義政党が組織政党に対抗し、政権をとるためには、量において圧倒するしか方法がない。そこで、私の最近の結論としては、日本における自由主義は、自由主義政党を2つ持つほど強くはないということだ。あらゆる自由主義者は1つの旗のもとに集まらなければ、これ以上自由主義を押し進めることはできない。

●政治倫理確立法とあっせん利得罪
政治倫理問題は、社民党の与党離脱の最大の原因と言われているが、自由主義社会においては、どんな団体や個人がどんな主張をするのも自由であり、その主張の実現に向け、政治家や政党が努力するのは民主主義そのものだ。その努力に対しては、票で応援しようという人もいるだろうし、政治資金で応援しようというところもある。これを否定したのでは、自由主義政党は成り立たない。

●主権在民の第2期の始まり
戦後、憲法制定以来、制度的には主権在民が確立したが、官僚はしたたかに、首相や知事らを取り込み、自分たちの思うようにやってきたのではないか。しかし、そろそろそれも終わりに来て、本当の意味で国民が選んだトップが官僚をコントロールするときがきたと思う。我々がコントロールしなければならないのは、国および地方の450万人の公務員と約100兆円の予算である。これらを管理するのは、個々の政治家や首長に任せておいたのでは無理だ。国民が真の国民政党を作り、政党という組織で、官をコントロールしなければならない。
官僚も大臣がいうことには従うが、今の大臣にはこの省をこうするという見識も資質もない。やはり、これは政治家個人の資質に任せておいては駄目で、政党として、この役所をこういった方向に持っていくといった党の戦略を持たなければならない。そのためには、自民党も1つの省に対して2〜3人くらいの担当スタッフを抱えて、党としての戦略を打ち出していけば、政治主導という話しはいくらでも進むと思う。
私も1人の自由主義者として、必ずしも完全な自由主義政党ではない自由民主党の中でがんばってきた。これからも、自由民主党を本当の意味の自由主義政党とするようにがんばっていきたい。


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