企業人政治フォーラム速報 No.39

1998年 7月 3日発行

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第3回定時総会・講演会(来賓:加藤紘一自民党幹事長)を開催

去る6月23日、当フォーラムは、第3回目の定時総会ならびに講演会を開催した。
定時総会では、1997年度の事業報告・収支決算、1998年度の事業計画・収支予算案の審議が行なわれ、承認された。
また、総会に引き続いて行なわれた講演会では、自民党の加藤紘一幹事長が「当面の重要政策課題と21世紀の日本の進路」と題し、講演を行なった。

[加藤幹事長講演]

■不良債権問題が日本経済の軋みの根本原因
昨年の秋以降の日本経済の軋みの原因については、2つの説があった。1つは、消費税や医療費の値上げなど、9兆円の国民負担増が原因とする説と、もう1つは不良債権問題が原因だとする説だ。これは、国内においても、米国においても、見方が分かれていて、私は昨年の暮れから不良債権が問題の根本だと思っていたが、世論や政治の世界から、さまざまな意見が出され、不良債権問題に本格的に取組もうということになるまでに時間がかかった。
そして、日本が16兆円の景気対策をやっても、市場が十分に反応しないのは、やはり、不良債権問題からくる金融システムに対する不安が原因だということに、米国をはじめとするサミット諸国の間でも意見がまとまってきて、それがバーミンガムサミットでの対日要求につながった。

■宮澤元総理の案が受け皿銀行議論の原形
現在、この不良債権処理問題にすべての焦点をあてて取組んでいるが、なかなかこれは難しい問題だ。新聞などは、すぐに銀行やゼネコンの救済だなどと書くが、われわれは、本当の金融システムの安定がないと、為替市場にも株式市場にも良い影響が出てこないし、お金は動きださないと考えている。
現在、経営破綻した銀行は、整理回収銀行で手当てをすることになっているが、その直前の債務超過みたいな状況になった銀行に対して、どういう受け皿を用意するかが最大の問題になっている。
この議論は複雑な様相を呈しているが、本日(6月23日)の政府・自民党の金融再生トータルプラン推進協議会の会合で、宮澤元総理が言った意見が非常に示唆的だった。結局、経営破綻あるいはそれに準ずるところは、経営者は責任をとって退陣してもらい、同時に、国が受け皿銀行を作って、そこから人を派遣し、その銀行を管理し、健全な債権と不良債権の仕分けをする、そして、融資機能も持たせ、健全な借り手が困らないように資金供給していく、その場合のニューマネーをどこから調達するかが今後の議論になるのではないか、ということだった。これは、今後の受け皿銀行の議論の原形になっていくと思う。
一方、忘れないでもらいたいのは、財政出動の方で、77兆円の当初予算と16兆円の補正予算があり、この効果は秋口までには出てくると思っている。その際に、金融システムに対する世界の信任がないと、経済に対する本当の明るい見通しは出てこないと思うので、今はこの金融問題の解決に全力をあげていかなければならない。

■日本社会は日本人の可能性を十分に発揮させない仕組み
暗い話ばかりになったが、今日、私が本当に申し上げたいのは、日本という国は本当にそんな駄目な国なのかということだ。
もちろん、反省すべき点は多い。政界を見ても、大臣はだいたい1年に1回は代わり、その知識、意欲の面でもとてもリーダーシップを発揮できる状況ではなかった。また、日本には、1億2千万人の非常に優秀な人材がいるが、独創的な科学者が育つようなシステムではない。私は日本社会の状況を見ていると、日本は人材を死蔵させていると思う。例えば、私の同級生でも、銀行には、大変優秀でやる気もある人が多く入っているが、あのように横並びの社会の中では個性を出し切れないのではないか。
近年、マハティール(マレーシア)やリー・クアンユー(シンガポール)など東南アジア各国のリーダーが日本に来るが、彼らは、自分の考えをきちんと言う。それに対して、経済の規模で見たら、圧倒的に日本の方が大きいのに、日本は国としてのメッセージを出していない。日本の社会は、どうも日本人の持っている可能性を十分に発揮させない仕組みになっているのではないか。

■日本のシステムを規定していたのは、キャッチアップと中央集権システム
しかし、これは日本の本質的な問題かというとそうではないと思う。従来、日本のシステムを規定していたのは、1つに、明治維新以来のキャッチアップのシステムであり、もう1つは、それを実効あらしめるための中央政府のコントロールの仕組みだった。これらが合致し、とくに戦後の1960年代、1970年代はうまくいっていたが、今から10数年前、日本経済は成熟したなと感じたときに、目的意識を喪失し、その目的を達成するための中央集権メカニズムに対する嫌悪感が生まれたのではないか。その時に、官僚組織もしくは政治家が新しいビジョンを提示できたなら、このように国民の批判を浴びることはなかったであろう。現在の大蔵省批判も、もちろん、接待汚職が直接の原因だと思うが、それだけではなく、本来期待される役割を果たさなかったという非難の部分が半分くらいあると考えるべきだ。

■バブル〜政治改革〜そして6大改革へ
ただ、われわれもこの10数年間、漫然と日々を送ってきたわけではない。1985年のプラザ合意で、景気が非常に悪くなり、これに対応するため、1986年4月には、6兆5千億円の補正予算を組んだ。それから景気が良くなり、バブルに入っていった。バブルは政治、行政には都合の良い面があり、バブルの6年間で、国と地方合わせて65兆円の税収増があった。本来は、このお金が政府、地方自治体において、きれいに債務処理にまわされたか、甘く使われなかったかということが検証されなければならない。いずれにしろ、このバブルとその崩壊により、5年間を空費した、というよりはむしろマイナスを残した。
その次の5年間は、バブルのお金が政治に流れたこともあって、政治改革という話しになった。そして、小選挙区制を導入すれば、2大政党制による政策論争があり、良い政策が行なわれ、日本も幸せになるに違いないと考えた。しかし、それは正解ではなかった。2大政党指向ということは、両方とも、すべての人をかき集めるような政策になるから、政党の特色が見えなくなっていく。国民は、環境に強い政党とか、国際問題に強い政党だとか、いわば専門店のようなものを求めている。それなのに、同じような品揃えの政党ばかりだから、国民は政治への関心は強いが、政党からは離れていくという現象を起こしてきたのではないかと思う。
この政治改革が求めていた改革ではなかったということで、本当の改革をやらなければならないということになったのが6つの改革だ。そして、その基本理念は何かと言ったら、キーワードは自立した個人であり、自立した国家である。
われわれは今までどこかの国を見習うことを考え、中央集権的なコントロールの下、横並びで、社会がうまくまわっていたが、今やそれではもう窒息してしまい、うまく回らなくなってきた。
今日、それをどうやって規制緩和していくかということが問題だが、これは非常に厳しい。役所に規制緩和の案を出させても、自分たちの権力を削ぐことだから、本当の意味の規制緩和をやるわけはない。
これはある種のメカニズムをつかって規制緩和をしていくしかない。それが金融ビッグバンだ。橋本総理はビッグバンをやる時に、「ビッグバンはいろいろなものに火をつけていく。これは6大改革の導火線で、その広がりと深さは役人も一般の国民も気づいていないが、これは大変なことになる」と言っていた。

■夢を持ち、新しい日本のシステム構築を
そして、案の定、大変なことになり、新攘夷論といわれるようなことを言う人もいるが、私は、やはり1回はグローバリゼーションの洗礼を受けて、そこから、日本らしいものを築いていくべきだと思う。常に、保護されているのが当然だと思ってはいけない。日本には、資産もあり、技術開発力もあり、ものすごく優秀な人材もいる。システムを変えることによって、無限の可能性を出しうると思う。
そして、新しいシステムのキーワードは、自立した個人の独創的な経営理念であり、独創的な基礎科学研究ではないか。そこに夢を持ちたい。われわれはこの苦境を乗り越えて、自らのメッセージを世界に発信していけるような国に立ち直っていかなければならないし、それができる国である。そのポテンシャルを持っている国なんだということに自信を持ち続けなければならないと思いながら、不良債権処理など日々の現実的な課題の解決に取組んでいる。

参議院選挙特集(Part 2)/シンポジウム「参院選の争点と投票率向上を考える」

フォーラムでは、6月29日、来る7月12日の参議院選挙を前に、選挙の争点や議席と投票率の予測、投票率向上の方策などについて議論するために、シンポジウムを開催した。

●パネリスト●
橋本晃和国立政策研究大学院大学教授
高橋利行読売新聞社編集部次長兼解説部長、論説委員
龍野建一共同新聞社政治部長
草野 厚慶応義塾大学教授(コーディネーター)

■参院選の3つの背景(草野教授)
今回の参議院選挙の背景には3つのポイントがある。第1は、4.1%の失業率に示される未曾有の経済不況、第2は、そうした中で財政構造改革法や中央省庁改革基本法など、六大改革が進展していることである。これらは、日本が国際システムの中に否応なく取り込まれていることを改めて示した。第3に、こうした重要課題が山積しているにもかかわらず、若者の選挙離れ、政治離れが進んでいることである。
本日は、未曾有の不景気、橋本政権の支持率低迷にもかかわらず、自民党の勝利が予想されるのはなぜか、なぜ対抗勢力が生まれないのか、なぜ若い人たちが政治に関心を持たないのか、といった点をめぐって議論を深めたい。

■戦後日本の「民意」の動き(橋本教授)
歴史的な流れから日本政治を眺めると、戦後、日本人の民意には、20年間隔で3つのターニングポイントがあった。第1は、ドッジラインが施行され日本が民主化から復興に路線を大きく転換させた1949年。第2は1969年で、この年に政治に関心はあるが支持政党はない、いわゆる支持政党なし層が確認された。第3は1989年で、この時期を境に起きた、(1)冷戦の終わり、(2)バブル経済崩壊、(3)湾岸戦争という3つの事件が、日本人の考え方を大きく変えた。
様々な世論調査がなされるが、そもそも、支持政党があることを前提にするところに間違いがある。いまや、支持政党なしが普通と見なすべきである。
いわゆる無党派にも、二つの世代があり、1989年〜1995年までが第1世代、1996年以降今日までが第2世代である。後者の特徴は、デフレ不安が消費者意識同様、有権者意識をも凍らせたことである。今日の低投票率はデフレ不安に根ざしており、技術的改善では投票率は上がらない。その意味で、低投票率を考えることは、まさに戦後日本と今日の日本人を考える大きな課題である。

■参院選は「二つの」選挙(高橋部長)
今にも倒れると言われた橋本政権が、参院選で力をつけ長生きする日本の政治構造とは一体何なのか、こうした状況でなぜ自民党が強いのか、なぜ投票率がかくも低下するのか、この3点が頭を悩ませている。
一つの答えは、参院選は、単一の選挙でなく、選挙区と比例区からなる別々の二つの選挙だということである。自民党が強いのは選挙区の話で、これは対抗馬が弱いためである。一方、比例区は、結果を見るまでわからない。
実は、議席を予想するにはまだ早い。各種世論調査では、有権者が投票態度を投票日当日に決める傾向がますます強まっている。その意味では、あと2週間の内に何が起こるかは誰にもわからない。
今回、40%を割る低投票率が予想される。組織票、基礎票選挙である。しかし、1議席に約80万票を要する比例区は、波乱要因たりうる。自民党が比例区で3〜4議席も減らせば、とても勝ったとは言えない。しかも選挙区では、無所属候補に有力者が多く、10〜12人は当選してくる。自民党は選挙区でも安閑とできない。現在、ようやく60議席に近づきつつある状況だろう。とはいえ最終的には64、5議席、選挙後の入党も入れると、過半数の前後には近づくだろう。
そうなると、橋本政権は、まだしばらく続き、臨時国会後、9月末に内閣改造・党役員人事となる。そこまで時間がかかるのは、自社さ解消後の政権のパートナーを探す時間がかかるためである。

■野党は自民をスピードで上回れるか(龍野部長)
参院選は橋本政権に対する審判だと言われているにもかかわらず、世の中はそれどころではないという意識が強い。やはり、投票率はあがらないだろう。骨と骨の戦い、各党の組織選挙になってくる。そうである限り、自民党はそこそこ勝てる。投票率向上を望むのは民主党と共産党である。
今度の選挙で争点が明示されていると言えるか。自民党は、問題点を先取りし、不良債権問題等の検討を前倒しで処理しつつ、不安感の吸収に努めている。問題は、民主党その他の野党が、これを上回るスピードで有権者を引き付ける政策を打ち出せるかにある。自民か非自民か、自民党の過半数阻止というだけでは有権者には受入れられない。
自民党は、改選数は上回るが、せいぜい65議席、これに選挙後の入党等を加えて、ぎりぎり68、69議席を得、政権としては一息つくことになろう。その後、部分政策連合の動きを模索し、臨時国会を経て、9月の党役員人事に併せて内閣改造を行なう。しかし、秋以降、橋本総理の力は下り坂にならざるをえない。ポスト橋本、次期衆院選を誰でやるのかを踏まえた動きになってくる。10月になれば、衆院選から2年となり、議員達も浮き足立ってくる。その頃に、各種の経済指標が上向きになるかどうかが、秋以降の政局を大きく左右することになる。

■参院選は次期衆院選のステップ(橋本教授)
参院選は次回の衆院選のステップである。今の政治は、1割台の得票で政権を担える「1割民主主義」である。このツケはいずれ必ずくる。自民党が勝てば勝つほど、とくに、衆院選で圧勝すれば、自民党の分裂による政界再編成が起こらざるをえない。後藤田元副総理も同じ考えのようである。それには、1989年から数えて次の20年にあたる2009年までかかるかもしれないが、それまでの間は、55年体制終了後の次の体制の幕間に過ぎない。

■白票を第1党に(作家の石川好さん)
(当日は、「選挙に行こう勢」運動代表の作家の石川好さんが飛び入り参加し、議論を盛り上げた)
有権者は日本の政治が嫌になってしまっている。一度否定するしかない。思い切って白票を出すべきである。20%もあれば白票が第1党、10%でも野党第1党である。そうすれば、それ以下の政党は解散必至である。実際、今回の選挙は、かなりの白票が出る気がする。
神戸、沖縄、徳島などでは、皆を選挙に行かせようということで、商店街がセールをしている。そうしたお祭り気分も必要だと思う。

■選挙に行こうという運動は全国的に(橋本教授)
今回、投票に行こうという運動が、マスコミも含めて全国的に盛り上がっている。こうした運動が投票率にどの程度貢献するか、大きな関心事である。

■政治ジャーナリズムも55年体制的体質から抜け出せ(龍野部長)
投票率の低下は、有権者の選択の結果であり、われわれが左右すべき問題とは必ずしも言えない。投票率が高ければ民主的な選択がされるかというと、そうとも言えない。一方、政治ジャーナリズムも、政界の内幕や派閥抗争を報じるといった55年体制的な体質から抜け出し、政権選択を明確にする報道をしていかねばならない。

■新聞の役割の重要性(高橋部長)
いろいろな問題が複雑化している今日、ある事象をただ単に切り取って伝えるだけでは、有権者は理解できない。わかりやすい説明が必要である。それをするのが新聞の役割である。

■激しい政策論争があれば投票に行く(フロア発言)
今度の参院選は魅力がない。投票率が落ちるのも当然である。自民党が勝っても、野党が伸びても、展開される政策は変わりがない。選挙民もそれを実感している。自分が投票しなくても同じである。激しい政策論争があれば、やはり選挙に行く。

■小選挙区制のさらなる改善でメリハリの効いた政治を(高橋部長)
小選挙区になって、各議員は、地元には対抗馬がいなくなり、本を読んで勉強している。一方、近年、グローバルスタンダードという大津波が押し寄せてくる中、中選挙区制下のスピード感のない政治では、これをこなしていけるか不安がある。従って、小選挙区制を改善しながら、メリハリの効いた政治を目指していくべきである。国内の視点だけでなく、日本が国際戦略を遂行する上で、それに必要な選挙制度にしていくという視点も必要である。

■国際感覚のスピードに対応できる政治を築け(橋本教授)
小選挙区制で最低でもあと2回は選挙をするべきである。その際の条件は、同一選挙区での3回以上の当選を禁止することである。例えば、橋本総理が沖縄から出る、加藤幹事長が北海道から出るというように、そこまで自民党が踏み切った時に初めて小選挙区制の良さが現れ、国際感覚のスピードについていける日本国家を作る基礎ができる。


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