1998年 7月 8日発行
PDFファイル版はこちら7月7日に開催した経団連常任理事会において、今井会長は、今回の参議院議員選挙に、できるだけ多くの企業人が投票に参加するよう呼びかけた。
現在、不良債権問題や税制改革など、重要政策課題が山積しており、これらはいずれも、政治の強いリーダーシップなくして実現できない問題である。とくに最近は、法案の成立の過程において、参院の役割が重要になっており、その意味でも、今回の選挙は非常に注目されるところである。
政治がリーダーシップを発揮するには、多数の有権者が、選挙に参加していく必要がある。有権者が政治に無関心であれば、政治のリーダーシップも発揮できない。その意味で、近年の投票率低下の傾向は、誠に残念な事態である。前回の参院選では、投票率が44.5%と、はじめて5割を割り込んだが、こうした傾向が続けば、政治と民意とが乖離し、議会制民主主義のあり方そのものの問題ともなりかねない。国としてもこの点を憂慮し、投票時間の2時間延長など、投票率向上のための環境整備を行なったところである。
経団連でも、かねてより、企業人政治フォーラムを中心に、企業人の政治参加の重要性を訴えてきた。さる6月29日には、参議院選挙と投票率をテーマにシンポジウムを開催したが、今回の選挙では、投票に行こうという運動が、マスコミも含めて全国的に広がっているという報告もあった。
企業人も、今こそ積極的な投票を通じて、政治に対する意思表示を強めていくべきである。会員企業代表者の皆様には、是非とも、社員の方々に投票を呼びかけていただきたい。
参院選を間近に控え、企業人政治フォーラムで
は、企業人の参院選への関心度合いや政治意識をさ
ぐるため、会員各位のご協力をいただき、FAXによ
る緊急アンケート調査を実施しました。
実施期間は6月24日〜30日で、計403名の会員
から回答がありました。以下はその結果概要です。
会員各位のご協力に厚くお礼申し上げます。
総数 | 403 |
うち役員 | 180 |
管理職 | 208 |
無回答 | 15 |
参院選に関心がありますか
大いにある | 61% |
ある程度ある | 34% |
あまりない | 4% |
全くない | 0% |
投票態度を決める上で考慮するポイントは何ですか(複数回答、2つまで)
(上記(1)で大いに関心がある、ある程度あると答えた方のみに質問)
橋本政権の実績 | 41% |
野党の実績 | 3% |
各党の公約・政策 | 54% |
党首の能力 | 25% |
日頃から支持する政党・候補者 | 35% |
候補者・政党の清潔さ | 7% |
その他 | 3% |
選挙に関心が持てない理由は何ですか(複数回答、2つまで)
(上記(1)で、あまり関心がない、全くないと答えた方のみに質問)
選挙の争点がよくわからない | 36% |
各党の主張・政策の違いが不明確 | 56% |
魅力ある候補者・政党がない | 44% |
自分一人が投票しても何も変わらない | 3% |
今の政治に期待ができない | 22% |
その他 | 6% |
参院選後の最重要政策課題は何だと思いますか(複数回答、2つまで)
景気・雇用対策 | 71% |
金融システム・不良債権対策 | 68% |
財政再建 | 5% |
税制改革 | 22% |
行革・規制緩和 | 22% |
福祉・社会保障 | 2% |
外交・防衛 | 2% |
政治改革・倫理 | 3% |
その他 | 1% |
参院選では、投票に行きますか
必ず行く | 84% |
なるべく行く | 14% |
たぶん行かない | 1% |
行かない | 1% |
わからない | 1% |
投票率の低下は、どのような点で問題だと思いますか
民主主義が空洞化 | 40% |
特定政党・候補に有利 | 16% |
民意が政治に反映されない | 37% |
政治がリーダーシップを発揮できない | 5% |
問題だとは思わない | 1% |
その他 | 2% |
今回の参院選に際し、投票率向上のために行なわれた制度改正について、どう思いますか
※制度改正の内容
良い改正であり、投票に行きやすくなると思う | 53% |
あまり効果はあがらないと思う | 43% |
わからない | 4% |
今の政治には、企業人の意見が反映されていると思いますか
十分反映されている | 0% |
ある程度反映されている | 42% |
あまり反映されていない | 53% |
全く反映されていない | 4% |
わからない | 1% |
最近、企業人の意見を代表する、新しいタイプの政治家が増えてきていると思いますか
そう思う | 15% |
そうは思わない | 61% |
どちらとも言えない | 24% |
企業人の意見を政治に反映させるために、どのような手段が重要だと思いますか(複数回答、2つまで)
投票に行く | 43% |
企業人の意見を集約する為の組織づくり | 70% |
政党・政治家の演説会や集会に出席する | 4% |
政党の党員や政治家の後援会に入る | 9% |
個人献金等、政治資金の拠出を増やす | 9% |
一票の格差を是正する | 14% |
政治家になり直接政治に関わる | 7% |
その他 | 5% |
■臨時国会の見通し
今年の通常国会は、参議院議員選挙もあり、会期の延長が8日間と例年に比べ短かったが、法律、条約、人事承認案件など、あわせて142件を通した。しかし、それでも、20件が継続審議となり、その主ものは、日米ガイドライン関連法案、国鉄長期債務処理や林野事業改革の関係、組織犯罪防止法、労働基準法、情報公開法、政治家の倫理確立法、公務員倫理法、住民基本台帳法などである。そのため、参議院選挙が終わったら、早急に臨時国会ということになる。7月の下旬に総理が訪米するから、帰国後臨時国会を開き、9月末までの2ヶ月くらいの会期になると思う。
■財革法について
財政構造改革法は、昨年の臨時国会で成立させ、今通常国会で改正したが、これはもともと法律にする必要がないものだった。本来は、閣議決定や政府の声明で十分だった。現在、課題となっている特別減税の恒久化をやるとすれば、必ず財革法の再改正という問題になる。私は、財革法を作ったり、改正したりで騒ぎ、手間暇をかけるよりも、内閣の責任で財政改革を粛々とやり、それを国会で議論し、その当否は選挙で問うという方がわかりやすくて良いと思う。
■省庁改革について
中央省庁改革基本法は、プログラム法であり、これ自身が法的効果を持つわけではない。本当に大事なのは今後作る省庁設置法や独立行政法人通則法だ。これから、内閣に改革本部を作って法案作成作業を進めるようだが、各省の省益を排するとともに、政治のチェックの仕組みを残し、途中経過のディスクロージャーの徹底を図っていかなければならない。
本来、省庁改革が目指すのは、簡素効率化であり、スリム化だ。しかし、今の世間の受け止め方は、22省庁を1府12省におおぐくりにし、巨大官庁を作るという感じだ。確かに、中央官庁の局や課の数を減らし、公務員も1割削減すると言っているが、仕事を減らさずに、組織や公務員の数を減らすことはできない。そのためにも、国が本来果たすべき役割はどこまでかということを明確にする必要がある。
それから、中央の役所で一番問題があるのは、地方の出先機関だ。現業は仕方ないが、事務や権限交渉をやっている機関は徹底的に縮減すべきだ。これらは、規制緩和で民に任せる、あるいは地方分権で地方になるべく権限を渡し、現業機関以外の出先機関は廃止すべきだ。もう1つは、補助金の問題だ。補助事業の審査やチェックに膨大な人と時間をかけている。地方に事業を任せると問題が起こるという考えで、補助金を出して、中央がコントロールしているわけだが、それをやめて、国がルールをつくって、その範囲でやらせるということにすればいい。
■税制改革について
法人課税については、日本は先進国で一番高い部類で、税収の中で、法人関係税が2割を越えているのは日本だけだ。平成10年度の税制改正では、実効税率を49.98%から46.36%に引き下げたが、これを3年以内に国際水準並みの40%程度に引き下げるということになっている。
その方法として、地方の法人事業税における外形標準課税の導入という話が出てきた。しかし、これはやり方が大変難しい。すぐに、赤字法人に課税するのかという議論になり、中小企業を中心に反対が起こる。そこで、一度に外形標準だけというのは難しいと思うので、段階的にやるという方法が1つ、所得と外形標準を組み合わせるということが1つ(昭和42年に政府税調が所得と外形標準を半々にするという答申を出している)、それから、やはり中小企業に対する配慮が必要だ。いろいろシュミレーションをやり、検討していく中で、国民的合意を得ていかなければならない。
所得課税については、課税最低限がかなり上がってしまっているが、これを下げるとなるとまた騒動になる。最高税率については、昔は85%くらいだったものが今は65%である。しかし、これは世界的に見れば一番高い。そこで、最高税率を下げる、課税最低限を上げるという方向だが、これは金持ち優遇という議論になり、なかなか実現は難しい。
法人課税は日本が一番高く、欧米は低い。しかし、国民負担率を見ると、日本と同じくらいなのは米国くらいで、欧州各国はものすごく高い。ということは、やはり直間比率の是正をどうしても考えていかなければならない。消費税は、国民にアレルギーが強く、今の5%を上げるのは大変難しいが、ゆくゆくは消費税率を2ケタまで上げていかなくてはならない。そういう中で、法人課税、所得課税のバランスを考えていく必要がある。
税というのは、公共事業などの“出”と大きな関係がある。そこで、公共事業や社会保障のあり方などとセットで考え、国民に将来こうなるという姿を示して、その負担がどれだけかを説明し、納得してもらわないとならない。
■地方分権について
現在、国は議員内閣制だが、地方は大統領制だ。首長と議会の間にはチェック・アンド・バランスが働き、車の両輪の関係だといわれているが、実際には、首長の方が圧倒的に強い。首長は情報も権限も財源も独占し、しかも、多選が許されているのでどんどん強くなる。だから、大統領制の国は通常、多選を禁止している。
地方分権をきちんとやるには、地方議会をクリーンにし、活性化させることが必要だ。また、首長の多選も禁止するなどのルールが必要で、そうしないと地方分権をしても、汚職の地方分散ということになりかねない。
さらに、中央の行革とともに、地方の行革を進める必要がある。地方分権をして、地方が肥大化したのではトータルで見て、まったく意味が無い。
■円の国際化について
現在、日本の在外資産は328兆円、個人金融資産は1,200兆円、外貨準備高2,100億ドル、年金の積み立ても170兆円くらいある。このようにまじめに働いて、良いものをつくっている日本がこれだけ調子が悪いというのも普通に考えればおかしな話だ。私は、円の国際化を本気で考える時期だと思う。そのためには、短期市場を育成しろとか、税金をやめろとか、いろいろ議論はあるが、私はデノミも検討したら良いと思う。日銀総裁は、企業にコストがかかるし、将来は是非そうしなければならないが、今は難しい、という話であった。しかし、デノミをやるなら、デフレのときが良いのであり、今から準備しても2〜3年かかる。こういうことをしながら、円の経済圏をアジアに作り、ドル経済圏とユーロ経済圏の3極にしないと、なかなか今の状況を脱却できない。