企業人政治フォーラム速報 No.42

1998年 8月 6日発行

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日本経済当面の課題
/大原一三衆議院議員
(7月22日政経懇談会)

去る7月22日の政経懇談会で、大原一三衆議院議員(自民党行政改革推進本部組織・公務員制度委員長、金融問題調査会円の国際化問題小委員長)は、日本経済の当面の課題について語った。

[大原議員]

■不良債権処理問題
今般の不況は金融不況であり、不良債権の処理が何より重要だ。私は、先の国会で議員立法で土地の再評価を提案し実現したが、これにより、都銀11行で3兆円資本がアップした。
先般、自民党は金融再生トータルプランを発表した。現在、金融問題については、大蔵省、金融監督庁、預金保険機構の3つの組織で対応しているが、権限が分散してしまっている。私は、臨時立法で、平成復興金融公庫を作り、これを参謀本部としてすべての権限を集中し、不良債権処理と金融機関の再編をすすめてはどうかと提案した。現在のプランでは、破綻銀行は、整理回収銀行に営業譲渡するか、一部の不良債権を整理回収銀行に買い取ってもらって、再建を目指す(ブリッジバンク)ことになるが、日本の金融機関の再編という観点からは、中途半端になる恐れがある。

■行政改革
行政改革については、マスコミは単なる数合わせだという批判をしているが、私は必ずしもそうではないと思う。例えば、今度できる一番大きい省は国土交通省だが、現在、空港予算は約1,500億円なのに対し、道路予算は約15兆円と桁が違う。現在、首都圏で3千メートル級の滑走路が1本しかないのはアジアでは日本だけだ。今度、国土交通省になれば、運輸省とか建設省という枠がなくなり、道路、空港、港湾、河川などの行政が同じ役所の中で行なわれることになり、今までより効果的な予算配分が可能になる。
今回の行革の隠し玉は、郵政事業資金の自主運用だ。今年4月からのビッグバンは民間部門だけのいわば2分の1ビッグバンであり、財投資金の600兆円はまだ大蔵省が握っている。しかし、2001年から、新規預け入れ分を自主運用することにした。これにより、2001年から約15年がかりで600兆円の資金が民間に開放される第2の金融開国が始まる。今年4月からの第1次ビッグバンで、外国資本がたくさん入ってきたが、2001年からはさらに競争が激しくなり、金利戦争が始まると思う。日本の1,200兆円の個人資産がこれを主導するようになると、欧米の金利は下がり、日本の金利は上がらざるを得ない。そうすると、2001年から再び金融再編が起こる可能性がある。

■円の国際化
アジアの金融危機について考えると、いわゆるアジア各国通貨のドルリンクの矛盾が露呈したのではないかと思う。約1,000兆円と言われる米国の投機資金が引き上げて、インドネシアなどは貯蓄が少ないために空っぽになってしまった。米国の資金が引き上げていった後、米国は、後は日本が面倒を見ろと言っている。日本の金融機関が東南アジア(韓国、台湾、香港、フィリピン、インドネシア)の国々に貸しているお金は約32兆円にのぼり、それに加え、円借款等の公的資金の融資は約19兆円である。これを不良債権化しないように邦銀が対応してきた結果、しわ寄せをくっている。これがいわゆるバブル崩壊後の金融不況をさらに深刻化させているという実態がある。
今後、日本がこれらの国々に対して一体どれくらい責任を負うべきかということで、円の国際化の問題が出てくる。経団連もこの問題について、すばらしい提言をしているし、何年も前から大蔵省の国際金融局長経験者などが主張しているが実現されていない。この問題は、大蔵省主税局の前に言って、「非居住者に対する課税はするな」と言わなければ駄目で、今回は、私が自民党の中の責任者(円の国際化問題小委員長)となり、政治の面からきちんと取り組む仕組みを作った。
円の国際化には、現在ほとんどが日銀引き受けになっているFB(政府短期証券)の市場化、償還差益に対する源泉徴収課税の非居住者についての撤廃(ここではFB、TB(短期国債)について言っているが、長期国債についても非課税とすべき)などが必要だ。さらに、レポ(現金担保付債権貸借取引)は印紙税のエスケープだが、印紙税は日本以外に先進国では例がない。今後、電子決済の時代になれば、大企業は印紙税を納めず、電子決済が導入できない中小企業は相変わらず印紙税を納めなければならないということになり、何のための税なのかということになる。ただ、印紙税は1兆円の歳入があるので、簡単にはなくせないが、これも見直しが必要だ。
今のように円が上がったり下がったりする状況では、なかなか円を買えと言っても買う人はいないと思うが、土俵だけは作っておき、同時に現在の金融関係のクローズドシステムをオープンなものにしなければならない。来年度改正で、非居住者に対する利子の非課税や、FBの事実上の参入規制の撤廃は実現したい。

■規制緩和
規制緩和については、エネルギーの高コスト構造の是正が必要だ。日本のエネルギーコストは、石油が米国の3倍、ガスはドイツの3倍、電力は平均で2倍だ。エネルギーコストは土地と同様に国際競争力上、日本経済の隘路になっていると思う。それなら、やはり規制緩和しなければならない。
規制緩和について何があるかというと、いわゆる飯田委員会(行政改革委員会)でも提案された電力、ガスについての自然独占の廃止ということだ。これは公正取引委員会でも提案されているが、これを今後どのように考えていくかが問題だ。

■食糧問題
食糧問題については、21世紀の中頃には世界の人口が現在の58億人から100億人になると言われており、食糧の6割を輸入に頼っているわが国は食糧の輸入が不可能になる恐れがある。地球上に農地はほとんど残っておらず、食糧増産はあまり望めない。
こうした状況の中で、日本は何をすべきかというと、やはり食糧自給率を高めていくべきだ。私は目標を7割と言っているが、この20年間でイギリスが45%から78%へ、フランスが90%から140%へ、ドイツが70%から110%へ、それぞれ食糧自給率をコストをかけて上げており、日本も食糧安全保障の観点からも自給率を上げていくべきだ。
日本の農業の担い手は60歳以上が55%を占めている。20年たったら80歳以上になっており、農業は続けられない。今後、農地をいかに集約化し、効率化していくかが問題だ。現在、農地の集約化のための予算は1,500億円くらいだが、この予算を思い切って増額して、1兆円くらいにすべきだ。
経団連でも提案している農業の株式会社化については、農家の中でも、若い人は理解してくれる。やはり、一般に農家の人が心配するのは、株式会社は失敗すれば農地が転売されてしまうのではないかということだ。この不安を払拭するために、株式会社組織にしても、農地は転用させないというようなことを法的に考えていけばいいと思う。

[質疑応答]

経団連側意見:
円の国際化の問題は、10年も前から言われていたが、実現しなかった。今回は、自民党が中心になって、政治でやるということで期待していいということか。

大原議員:
そうだ。この問題は、党の税制調査会の幹部にも委員会に出席してもらってやっている。大蔵省も非常に理解を示しており、今回は正直言ってできると思う。

経団連側意見:
1999年1月に欧州にはユーロが誕生する。世界の2大通貨は、ドルとユーロということになる。その際には、アジアの通貨システムとして、AMS(Asian Monetary System)というようなものを日本がリーダーシップをとって進める必要があるのではないか。

大原議員:
マレーシアのマハティール首相をはじめ、アジアの方はそういったことに気がつきはじめているのではないか。ユーロはこれから相当攻勢をかけてくる(ドイツあたりでは既にドル決済を極力やめている)だろう。そうすると、円はまったくのローカルカレンシーになってしまう。だから、できるだけ円の国際化を進めていくことが必要だ。

経団連側意見:
先般、自民党の金融再生トータルプランが決まったが、参議院選挙の結果もあり、野党にも賛成してもらわなければ法案は参議院を通らない。もたもたしているとまたマーケットの標的にされるところが出てくる恐れもあるので、できるだけ早く意見をまとめて、法案を通してほしい。

大原議員:
野党とも、考えが近いものにつていは、個別に協議し、その意見を取り込んでいく。自民党の考え方だけを押し付けても通らない。これからいろいろな議論をしていく中で、野党の発言も責任野党といった立場になっていくだろう。今後の国会運営は、個別の法案ごとに、よく相手を選んで相談し、事前に法案を修正して国会に提出する、あるいは国会で修正するという対応が必要だ。


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