企業人政治フォーラム速報 No.45

1998年11月16日発行

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企業人から見た政治の実際 −私の国政報告−
/加納時男参議院議員

フォーラムでは、去る11月6日、講演会を開催し、7月の参議院議員選挙で自民党比例区から初当選した加納時男参議院議員(前経団連地球環境部会長、前東京電力副社長)より、企業人から見た政治の実態やこれから目指す政治などについて話を聞いた。

■3つの橋を架けたい

私は政治家になって、これからの目標として3つの橋を架けたいと思っている。

1つ目は、経済界と政治の間の橋だ。日本が世界にこれだけ誇れる国になったのも、その原動力は経済であったと思うが、残念なことに今まで経済界と政治の間には距離があったというのが現実だった。これまで自民党の他の候補の選挙応援も多くやってきたが、やはり身内の候補を出すということがどんなに心強いかを、この世界に入って痛感した。国会には二世三世議員や地方議会出身議員が多いのには驚いた。彼らを否定するわけではないが、そういったタイプの人しかいないのはひ弱だ。やはり経済界からもっと政治の場に出るべきで、そうすれば、もっと国が良くなると思うし、企業も良くなる。私が経済界と政治の架け橋の試験的な役割を果たせれば幸いである。

2つ目は、発展途上国と先進国の架け橋だ。現在、何かを決めるにあたって先進国ベースで議論すればいいという傾向があるが、今後は食糧、エネルギー、環境などあらゆる問題で、途上国を抜きにした議論は成り立たない。私が経団連の仕事で国連などの国際会議に出た時に感じたのは、先進国と途上国間相互の抜き難い不信感だ。今後、地球レベルのことを考えると、途上国の成長と地球の環境保全を両立させることが絶対に必要である。これを達成するための外交交渉はまさに国の仕事であり、政治の仕事だ。私は、地球環境議員連盟にも誘われて早速入ったが、こうした活動を通じて、先進国と途上国の間に経済の橋、技術の橋に加えて、信頼の橋を架けたい。

3つ目は、未来への架け橋だ。現在、空前の不況の中で、金融システムの再構築や景気対策が当面の課題であり、それはそれでしっかりやらなければならないが、政治家は中長期の課題も同時にしっかりととらえてやっていかなくてはいけない。例えば、地球温暖化防止対策にしても、目先の数値だけでなく、中長期的な視点が必要だ。2100年までには、日本のすべての住宅、自動車、機械設備が更新されるわけで、その更新の際には最新の技術を使った高効率で省エネ型のものに取り替えていく。そのために、大胆な減税や補助金の交付をするといった政策が必要だ。そうすれば、将来、日本の住宅や自動車は世界一環境にやさしいものになり、その技術を途上国に伝播させていくことで地球レベルの温暖化ガスの削減が達成できる。

■国会議員は意外と勉強家

実際に国会に出て特に驚いたことが2つある。1つは、国会議員は意外とみんな勉強しているということだ。自民党の政務調査会の勉強会は朝8時から始まるが、8時5分前には議員らがみんな集まり、ごはんに生卵をかけて5分で食事をし、8時ちょうどには勉強会が始まる。もちろん、まったく出席しない人や出席してもすぐに帰ってしまう人などさまざまだが、結構勉強している人が多い。

もう1つは、情報量が非常に多いということだ。従来も経団連をはじめ、いろいろと情報はもらっていたが、国会議員には国政調査権もあり、かなりつっこんだ情報でも官庁は持ってきてくれる。また、政調会などでよく発言していると、それを官庁の人は見ていて、あの議員はうるさいからということで情報を向こうから持ってきてくれる。そうすると情報はスパイラルに増えていく。

■10月8日 金融特別委員会 参考人質疑

私は、参議院の経済・産業委員会と金融問題及び経済活性化に関する特別委員会などに所属しており、この臨時国会で計4回の質問にたつチャンスに恵まれた。

まず、最大の懸案であった金融問題では、10月8日に、金融特別委員会で参考人質疑にたった。この時は、全銀協会長の岸暁さん、東京大学教授の神田秀樹さん、それから経団連21世紀政策研究所の田中直毅さんが参考人であった。

この時の質問の1つ目の論点は、公的資金投入を含めた特別な金融スキームを作る際の原則についてだ。自己責任、透明性、セキュリティーの3つの原則は、与野党を含めてみんなが合意していると思った。しかし、私は、それに加えて実効性の原則が必要だと考えた。つまり、公的資金を投入する際は、大胆、大幅かつ迅速に行わなければならず、それを忘れていたところに今回の金融問題の議論の混乱があったのではないかと思い、そのことを質問した。これに対しては、岸参考人は全面的に賛成だと述べ、神田参考人、田中参考人からも大変貴重なコメントをいただいた。これは大きな成果だった。さらに、この時は、3月に行った公的資金の注入が小出しで、横並びだったことを指摘し、今回は早期に大胆な金額を用意するので、銀行側も早期に大胆に応じてもらいたいと申し上げ、岸参考人から前向きな回答をいただいた。さらに、これからの検討課題として、市場型間接金融について質問した。従来の間接金融は銀行中心で、銀行だけがリスクを負う仕組みだが、今後は金融サービス業が企業に融資したり、CPを発行し、それを証券市場で流通させるといった、よりダイナミックでリスクが分散できる市場型間接金融が必要なのではないかという問題意識を私は持っていた。これについても神田、田中両参考人から非常に力強いご示唆をいただいた。

■9月29日 経済・産業委員会 中小企業信用保険法改正法案に関する質疑

金融関連では、9月29日の経済・産業委員会で、中小企業への貸し渋り対策を取り上げた。そして、中小企業金融公庫をはじめとする政府系金融機関の貸出し枠の拡大、信用保証協会の迅速な審査・貸出のための実務能力の向上、さらに、無担保保険のうちの第3者保証を必要としない限界額の引き上げ(1750万円→2500万円)などを実現した。また、中小企業を少し越えた中堅企業(これは日本開発銀行などの領域になる)対策についても、開銀融資の非設備資金への融資条件の緩和や、投資回収期限の延長(3年→5年)などの対策を行った。
中小企業、中堅企業対策は、ここ3ヵ月非常に力を入れてやっており、状況は今後どんどんよくなると思う。

■9月17日 経済・産業委員会 一般質疑

ここでは、与謝野通産大臣とエネルギー政策とは何かについて議論した。とかく、エネルギー問題というと料金を下げろということだけを言う人もいるが、それしか言わないのはお粗末だ。私は、エネルギーの高コストの原因として、政府の過剰な規制、さらに、エネルギーの安全保障、環境適合性の3つを指摘した。これに対し、与謝野大臣はエネルギー政策の3つの原則について、「1つ目は、企業の長期的な経営効率化等によるコストダウンを国はエンカレッジすること、2つ目は、エネルギーの安全保障、3つ目は環境適合性、この3つはエネルギーの重要な柱である。中でも環境適合性を考えれば、非化石燃料、特に原子力発電の推進が大変重要だと考えている。加えて、核燃料サイクルの推進がわが国にとっては、ことのほか肝要であり、原子力発電と核燃料サイクルの推進を、わが省としては全面的に重点を置いて推進したい」と答弁した。大臣は官僚のメモを脇に置き、自分の言葉で答えたが、ここまで大臣がはっきりと宣言したのは始めてではないか。さらに、この時は、経団連からもご教授いただいた洋上立地についても質問し、与謝野大臣から、技術面、安全面を確認した上で、1つの重要なオプションとして研究していきたいという前向きな答弁を得た。洋上立地が実現すれば、首都圏に近いところに原子力発電所もできるし、さらに、産業廃棄物処分場や太陽光、風力などの自然エネルギーランドもできる。非常に夢のある構想だ。これについては、党内で洋上空間利用法という基本法を議員立法で提案しており、今後、是非実現していきたい。

■経済界からもっと政治の場に出てほしい

最後に、みなさまの力で元気一杯やらせてもらっている。しかし、経済人が一人ではやはり力が足りない。是非、次回の衆議院選挙、参議院選挙に経済界から出て一緒にやっていただきたい。

[質疑応答]

経団連側質問:説明するまでもなく現在大変な消費不況だ。これについては、なかなか良い対策がないのが実状だ。加納先生に何か良いアイデアはないか。

加納議員:民間の消費行動は多分に気分で決まる。気持ちを消費に向けるためには、不安、不信といった2つの阻害要因を取り除くことが必要だ。堺屋経済企画庁長官とも、日本はダメな国ではなく、すばらしい国なんだということを強力にキャンペーンをやったらどうかと議論した。
ともかく、気分を明るくして何でもやってみることが必要だ。商品券構想も理屈としては反対だが、そういう意味で、やってみたらどうかという立場である。企業も悪い悪いと言わずに、どん底から先が見えた時点で、良くなった良くなったということを大きな声で言う必要がある。答えになっていないが、気分が大事である。明るい気分が未来を開く、明るい気分が日本を救う、明るい気分が会社を救うということである。


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