企業人政治フォーラム速報 No.48

1998年12月11日発行


税制改革の課題
/津島雄二自民党税制調査会小委員長
(12月7日政経懇談会)

[津島議員]

■税制改革の5つの難問

自民党の税制調査会では、税制改正大綱を12月15日までに取りまとめ、16日に決定することになっており、この1週間が正念場だが、これから申し上げる5つの難問を乗り越えなければならない。
1つ目の難問は、日本の租税負担の水準は、他の先進国と比べても数字の上では決して高くはないのだが、一般的な国民の受け止め方としては大変な重税感があるという点だ。この重税感の原因として、社会保障の負担が急増している、もしくは急増するであろうという重たい感じがあるのは事実だ。
2つ目は、1つ目の問題とも関連するが、日本の社会保障制度が将来を見通すとかなりの困難を内包しているということだ。これはどこかで抜本的な見直しをしなければならない。
3つ目は、未曾有の財政危機だ。98年度予算の公債依存率は、第3次補正までで、38.6%となり、来年度はこのままいくと40%はおろか、45%程度になると心配する向きもある。これもどこかで乗り越えなければならない。我々は、これを乗り越える手だては景気回復だと信じているが、しかし景気のためには何でもありというわけにはいかず、ある程度の抑制は必要だ。
4つ目は、いろいろな景気回復のための特別措置や減税の効果はどれくらいか、ということだ。これらはもちろんやった方がいいが、その効果は厳密に議論しなければならない。
5つ目は、政治的な困難だ。参議院で自民党は過半数を持っておらず、この困難を如実に示したのが、金融再生関連法案の審議だった。今回、いわゆる自自連立が実現する予定だが、自由党を入れても参議院では過半数に届かない。
このような5つの難問を前に、後1週間でまとめていかなくてはならない。現在、重要な問題はすべてペンディングにしてある。財政的には大変厳しいが、大事な問題はトップ判断を含め、政治が主体的に結論を出していかなければならない。

■所得税、法人税の改正について

所得税、法人税の減税については、国と地方の分担の骨組みは決まった。個人所得課税については、所得税の最高税率を現行の50%を37%に、住民税の最高税率を15%から13%に下げる。これにより、国は2.9兆円、地方が1.1兆円の減税になる。法人税については、国の法人税を現行の34.5%を30.0%に、地方の法人事業税を11%から9.6%に下げる。これにより、実効税率は、46.36%から40.87%に下がり、減税規模は2兆円超となる。
このような大枠は決まったが、その細目については問題が残っている。まず、個人所得課税については、それぞれの所得階層に対して、どういう負担を求めるかという問題がある。また、特別減税で課税最低限が100万円も上がってしまっている(361万円→491万円)が、これは今年逃げてもいつかは解決しなければいけない問題だ。
法人税については、いわゆる中小法人や組合、農協などに対する軽減税率をどうするかという問題が残っており、事務方はこれはそのままにしてほしいと言っているが、景気の状況を考えると割り切っていけるかどうか難しい。

■政策減税について

基本税制の問題に加え、政策減税の問題がある。なかでも、住宅関係と投資促進関係は総理が所信表明演説の中でも触れており、相当思い切ったことをやらなければならないと考えている。
住宅関係については、住宅ローン利子の所得控除制度の創設と現行の住宅取得促進税制の拡充をし、これを選択式にしてもらいたいという要望がある。これは十分に検討に値する考え方だと思う。ただ、野党や行政サイドには、バブルの時に高いローンを抱え苦しんでいる人をどうするのか、あるいは、仮に時限的に住宅ローン利子の控除を認めると、その間に住宅を取得した人たちだけが10年後も20年後も控除されるというのは公平でないという議論もある。
投資減税については、今の中小企業を中心とする投資減税を拡充してほしい、あるいはもっと一般の企業にも適用できるようにしてほしいという意見などがある。
その他にも、自動車取得税の一定期間の軽減や廃止、さらには教育費の控除をすべきだという意見もある。これらも難しい問題をはらんでおり、いずれも景気回復のためには何が必要かという観点から結論を出していかなければならない。

■企業のリストラを支援する税制上の仕組み

これら負担の問題に加え、企業のリストラを支援するような税法上の仕組みも完備していかなければならない。例えば、持株解消のために何が必要か、あるいは、連結決算をベースとした納税制度をどのようにしていくか、といったことだ。これらもできるだけ前向きに取り組んでいきたい。
私は、負担の問題を議論していくときには、社会保障と税をつなげて考え、トータルで国民の負担と給付を考えていく風潮を定着させたいと考えている。そういう中で、社会保障の問題が国民に大きな負担感を与えていると同時に、その担い手でもある経済界にも大きな負担になっているということを真剣にみつめていかなければならない。
そこで、党内に私的年金等に関する小委員会を作って、確定拠出型年金の検討をしている。これは議論すればするほど年金制度全体の見直しにつながりかねない問題だ。従って、最初から米国のようなポータブルの個人の確定拠出型にするのは難しいが、企業が確定給付型から確定拠出型へ転換するための受皿は作っておきたい。

[経団連側からの要望]

これに対し、経団連側からは、「税制改正については、制度減税と政策減税をきちんと区別して考え、制度減税は21世紀に向けた競争力、ゆとりと豊かさの実現という視点が必要だ」、「年金については、基礎年金と報酬比例部分は分けて考え、基礎年金は社会保障として税で賄うとともに将来は充実させ、報酬比例部分は、老後保障を自助努力という観点から見直していくべきだ」、「確定拠出型年金の受給形態は、一時金と年金を選択できるようにしてほしい」、「特別法人税の廃止問題は、景気対策として停止ということで処理できないか」などの要望を行った。


米国の政治資金規制について

さる11月25日、国際交流センターの招きで来日したソーンバーグ・米カンザス州総務長官(共和党)、セルディン・民主党全国委員会西部政治ディレクターほか米国各州の地方議員一行9名が経団連を訪れ、和田龍幸経団連専務理事(企業人政治フォーラム運営幹事)らと意見交換した。以下は、その際に米国側から受けた、米国の政治資金規制の現状に関する説明の概要である。

■政党への企業寄附

企業は、連邦選挙(大統領選挙、上下院選挙)の候補者に対しては、直接寄附することはできないものの、政党に対しては、無制限に寄附を行なえる。政党の全国委員会はこうして集めた資金を、自らの判断で候補者に代わって使っている。
政党は連邦勘定(ハードマネー)と非連邦勘定(ソフトマネー)の2つの会計を持っており、企業寄附は非連邦勘定に組み入れられることになる。これを実際に州レベルで支出する場合は、各州毎の規制に応じて、連邦勘定の資金と非連邦勘定の資金を一定の比率で組み合わせて使うことになる。

■イシュー・アド

政党は、集めた企業寄附を政策広告(イシュー・アド)に投じている。イシュー・アドとは、特定の候補者への投票依頼の文言を含まない広告活動のことだが、特定の候補者の政策を支持したり、ネガティブ・キャンペーンに使うことで、実際には候補者の選挙活動と化している。こうしたイシュー・アドに対しては、政党は無制限に資金を支出することができる。

■州レベルの政治資金規制

連邦レベルでは、企業の候補者への寄附は禁じられているが、州レベルの選挙では、州により寄附を行なえるところもある。例えば、カリフォルニア州では、企業寄附は無制限に認められており、外資系の企業も州内に支店がありさえすれば寄附を行なえる。一方、ミネソタ州では企業寄附は禁じられている。
また、連邦レベルでは、選挙活動の支出制限はないが、州レベルでは支出制限を課しているところもある。例えば、ネブラスカ州では候補者1人あたり7万5千ドル、ミネソタ州では同じく2万5千ドルなどとなっている。支出制限を行なう背景には、一般の市民が政治に参加できるようにしなければならないという思想がある。

■複雑化した政治資金規制

以上見たように、米国の政治資金規制の下において、企業は連邦選挙候補者には直接寄附できないが、政党の全国委員会には寄附することができ、そうした資金を使って政党が候補者をサポートしている。この点が巨大なループホールとなっており、現在、制度改革のための努力が行なわれている。
米国の政治資金規制は非常に複雑化しており、政党の担当者が、チラシの配布など何らかの活動を行なう場合、必ず事前に弁護士に合法か非合法か確認をとらねばならないのが現状である。民主党では経費全体の15%を、こうした弁護士などいわゆるコンプライアンスのために使っている。

■政治資金の公開制度

米国の政治資金規制を真似するのはあまり賢明ではない。ただし、政治資金の公開体制は、米国の制度の非常に優れた点である。FEC(連邦選挙委員会)が各政党・候補者の収入・支出両面にわたり詳細に公開しており、一般市民やマスコミをはじめ誰もがインターネットなどを通じてアクセスすることができるようになっている。


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