[ 経団連 | 企業人政治フォーラム | 速報目次 ]

企業人政治フォーラム速報 No.63

PDFファイル版はこちら 1999年12月 2日発行

「21世紀に向けた日本の国づくり」
/桜井新衆議院議員
(11月19日政経懇談会)

11月19日に開催された政経懇談会では、自民党政務調査会会長代理の桜井新衆議院議員を招き、人づくりを軸とした、21世紀に向けた日本の国づくりについての考えを聞くとともに、懇談した。

【現在の日本の問題点】

昨年の参議院選挙後に、橋本内閣に代って小渕内閣が誕生し、景気対策を最優先課題としてスタートした。「なりふり構わず」という批判を受けつつも、積極的に財政出動を実施し、まさに、ありとあらゆることをやり尽くしたと言っても過言ではない。その甲斐あって、株価も1万7、8千円まで上昇した。その他の実態経済指標については、今一歩とも言われているが、まずまず良いところまで来ているのではないだろうか。我々、政治家からすると、よくぞここまで来たものだと思っている。しかし、ここで18兆円の補正予算を組むにもかかわらず、評論家等からは、何か今一歩「足りない」という感じがすると言われている。そこで、何がいったいそうさせているのかということを、私なりに考えてみた。
いくら金を使って、財政出動をやっても、少子高齢化の圧力があるということであろうか。介護保険についても、自自公3党による政策協定に基づいて、精一杯のことをやっているが、それでもなお、介護保険のみならず、年金、医療保険等、福祉関係全般に対して、「本当に大丈夫なのか」という疑念を持たれている。
また、金融緩和や公共投資をはじめとする大型財政支出によって、ずいぶん景気回復には力を入れてきたが、そのすぐ後には、「国家財政は大丈夫か」といった疑念も出てくる。景気対策については、財政出動や減税もさることながら、規制緩和や構造改革を確実に実施すれば景気が上向くのではないかといった、どちらかと言えば「内向き」な政策が先行してきた。そのため、持てる力を十分に発揮できず、何か「もやもやしたもの」が残り、少なくとも、国民が安心するような「すっきりした」形にならないのではないだろうか。国民にとって何か大事なことを忘れているのではないかという視点から、我々は、もう一度、経済というものを見直す必要があるのではないかと思っている。
国民が約1200兆円にのぼる金融資産を持っているのも事実であるが、これだけでは景気というものは上向かない。結局は、国民が働き、その働いたものの蓄積が経済というものに結びつくわけだから、ただ単に、お金を積んでいるだけでは景気は回復しないのだ。また、行政が企業側にどれだけ強いサポートをしても、最終的にエンドユーザーがつかないかぎり、景気というものは活性化しないのではないだろうか。

【現在の日本にとって重要なもの】

終戦以来、半世紀の日本の来し方を振り返ってみると、国民に積極的な住宅投資を促したり、モータリゼーションを進めていくために、一気に道路整備に注力するといった取組みを進めてきた。これらが経済活動に対しても、相当強いインパクトを与えたと思う。政府がサポートをして、国民が投資意欲を燃やすことができるような何か大きなものを考えなくてはならない。
明治期に医師出身の後藤新平という政治家がいたが、この方は、「カネ、モノも大切であるが、人をつくることが一番大切である。」という話をされていたそうである。現在の青少年をめぐるさまざまな事件を見ていると、法律や制度も大切であるけれども、それ以前の問題ではないかとしみじみ思う。戦後50年が経過して、今一番大切なことは、人づくりというものを国家目標に置いて、そのために、生活環境をいかに整備していくかということを真剣に考えてみることではないだろうか。
介護や年金や医療といった問題を考えると、現在のような「逆ピラミッド型」の人口構成では、将来、行き詰ってしまうに違いない。少なくとも、人口構成が「ハシゴ型」になるようにしなくてはならない。したがって、現在は、少子化対策に最大限の力を注ぐべきであろう。現在は、各省ごとに対応する部署があるだけだが、そのようなバラバラなものではだめである。現状では、課税最低限所得以下の若い世代の人達が多いが、彼らに子供を産み育ててもらわなくてはならないのだから、「子育て減税」などというものではなく、もっと大胆に、北欧方式の給付型でやるべきである。
また、生まれた子供達が、「今」の子供達のようなモラルしか持ち合わせていないとすればどうしようもない。「今」の子供達には、「公」という意識がほとんどない。日本では最も大切なものであるはずの、「人に対する思いやり」や「助け合い」といったことをしっかりと身に付けさせて、人と協調していくようにさせなくてはならない。また、「自己責任」や「忍耐力」といったものも大切である。したがって、まず少子化対策に取組んで、若い世代に子供を産んでもらい、その子供にどのように「しつけ」をしていくのかということを真剣に考えなければならない。しかし、核家族化や女性の社会進出がここまで進んできてしまった中で、この「しつけ」というものをいったいどのようにするのかということは、社会としても非常に難しい問題である。

【ゆとりのある休暇制度の普及をめざして】

日本が世界一の経済を誇るのならば、敗戦当時のように365日「仕事漬け」でなければやっていけないというのでは、その地位に相応しくない。少なくとも、1年のうち10ヶ月間はしっかりと働き、残りの2ヶ月間くらいは休めるようにすべきである。日本の伝統文化に基づいた、季節感のある休暇を取得し、伝統的な生活習慣というものを取り戻さねばならない。たとえば、四季折々に、まとめて2、3週間ずつ休暇を取得するようにする。普段は核家族でも構わないが、休暇の際には、みんなで集まり、日本の家族生活というものを経験するようにするべきである。職場ごとでローテーションを組み、このような休暇を上手に取得すれば、雇用対策にもなる。経済企画庁や労働省にも、こういった制度の実現可能性について調べさせているのだが、十分にこなしていけるようである。失業対策にも非常に効果的であり、是非、このような制度も考えていかなくてはならない。
また、そういった休暇制度の導入は、人づくりの面においても有用であると思われる。日本人として、世界から尊敬を受けらるように、知的教育に入る前に、しっかりと忍耐力や、基本的なものの考え方や、しつけといったものを身につけさせることが重要ではないだろうか。田舎の生活習慣には、みんなが気が付かないところに、こういったノウハウが組み込まれている。したがって、できれば休暇の際には、少なくとも2、3週間は、欧米のように田舎に行って暮らし、朝晩には、奥さんや、お母さんや、おばあさんが作ってくれた食事をみんなで一緒に食べられるようなところで、子育てをするべきである。あるいは、年寄りを施設に預けなければならなかった人も、その時期だけは、家庭に迎えて、親孝行をするというのはどうであろう。そうすることで、子供や孫にもそのような姿を見せることができる。このように休暇を利用することによって、子供たちに対して、日本の歴史の伝承ができるのではないかと思う。休暇制度にかぎらず、国全体としてやる気になれば、かなりいろいろなアイデアが考えられる。そのようなアイデアの実行により、日本の長い歴史・文化が培ってきた、精神・伝統文化の復活をしっかり軌道に乗せていきたいと思っている。

[桜井 新 衆議院議員プロフィール]

さくらい・しん
1933年新潟県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1971年より新潟県議会議員を2期務め、1980年に衆議院議員初当選以来、当選6回。1994年には、村山内閣において環境庁長官に就任。現在は、自民党政務調査会の会長代理を務める。


企業人政治フォーラムのホームページへ