企業人政治フォーラム速報 No.7

1996年11月28日発行

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終わった選挙を検証すれば、明日の日本の選挙が見えてくる
─シンポジウムから

初めての小選挙区比例代表並立制のもとで行われた10月20日の総選挙。新選挙制度がめざしたカネのかからない選挙、政策本位・政党本位の選挙は、果たして実現できたのか。新選挙制度は、民意を反映したものとして今後機能していくことができるのか。11月22日、常磐大学の岩井奉信教授、ジャーナリストの櫻井よしこ氏、共同通信社政治部長の国分俊英氏をパネリストに招いて『総選挙を検証する』と題したシンポジウムを開いた。

■今回の選挙は、「二歩前進、一歩後退」と岩井教授岩井教授
冒頭、岩井教授から基調講演が行われた。テーマは、『総選挙で何が変わったのか、何を変えればいいのか』。その骨子は以下の通り。

以上を述べたのち、岩井教授は新選挙制度の評価を「二歩前進、一歩後退」と総括した。

■「カネがかからない選挙」に近づいた
国分氏は、「少なくとも解散から投票までについてはカネがかからなくなった」と述べた。ひと昔前と大きく違うのは、派閥中心ではなくなったこと。選挙前にカネがかかるという意見もあるが、これには地域差がある様子。さらに、組織票の問題について、「核の組織が堅くても広がりがないとダメ。色の強い組織では難しい小選挙区制で、組織票の効用と限界が明らかになった」と分析した。
また、岩井氏は、「お金の問題で重要なのは、“入り”よりも“出”。選挙で勝つために飲み食いをさせるということではなく、政策づくりやその研究のためにカネは使われるべき。政党助成金が政治資金のメインになるのだから、その使われ方を厳しく監視するべきだ」と主張した。

■投票率アップとメディア報道の相関関係
櫻井氏は、米大統領選との比較で、「日本の政策論議は弱い」とする。「選挙期間の差もあるが、情報提供も不十分。国民は本当に納得して選んでいるのか」と疑問を投げかけた。メディア報道の仕方については、「政治を面白く伝えていける、そしてイキイキとした情報を提供していける仕組みづくりが必要」と主張した。
また、今回の選挙で「本当に一人しか受からないんだ」と実感した人々が「候補者を生かすも殺すも自分次第」と認識することで投票率も上がるのではないかと提言した。
また、選挙報道についてマスコミの立場から「今回テレビはかなり自粛した」(国分氏)、「マスコミ報道が国益を損なうとの配慮は不要」(桜井氏)、という意見が出された。

■シンポジウムでは、会場の企業人からも多くの意見が出された。「区議会なみの選挙区で戦略的政治家が育つのか」「比例区当選者の党の鞍替えはいかがか」などの発言から、新選挙制度と今後の日本の政治改革に対する関心の高さが窺えた。

選挙結果は『天の配剤』。政策運営には謙虚に臨む
―自民党森総務会長かたる

総選挙後あらたに自民党の総務会長となった森喜郎衆院議員は13日、政経懇談会において、自民党不遇の時代から与党復帰にかけて幹事長を務めた経験にもとづき、選挙制度改革や連立政権誕生の状況などを披露するとともに、今後の政局への抱負を述べた。
とくに今回の総選挙結果については「自民党が党勢を拡大しつつも単独過半数に至らなかったことは『天の配剤』であり、政策運営には謙虚に臨まなくてはならない」とした。

■新選挙制度は一歩前進
また、小選挙区比例代表制に対する批判については「政治改革が叫ばれたころは『小選挙区』という声が大勢を占め、疑義を差し狭む人間は『守旧派』とレッテルを貼られた。マスコミや財界で『今度の選挙制度は問題』と批判している人達には当時の言動を反省してもらいたい」と批判した。その上で、今回の新制度を「韓信の股くぐり」に譬え候補者が選挙民に哀願・哀訴する選挙になりがちなこと、さらに評判の悪い重複立候補はベテラン議員との妥協の側面もあったことなどを述べた。
また、従来の自社さ連立政権を「単独過半数政党を欠いた状況では民意に沿ったもの」としたうえで「連立により、自社両党が健全な価値観を共有することができるようになり、単独政権下では考えられなかった成果をあげた」と、2年間の連立を前向きに総括した。

民主党の菅直人代表、立法府が政府の上に立つ日本のあり方を説く

当フォーラム会合において菅代表は27日、「行政・内閣の責任を分担するという意味では民主党は与党ではないが、立法府では政府に協力・提案を行う」と述べ、その基本政策を説明した。与党との関係は、硝子越しにアナウンサーに指示を出すラジオ局のディレクターになぞらえられるという。
菅代表はまず、(1)「小さな中央政府で充実した地域福祉」そのための規制緩和、(2)アジアの信頼を得るための歴史認識の明確化、(3)薬務行政・国立病院の見直しなど厚相の経験からの永久行革運動の必要性を述べた。

■行政を変えるには体制づくりが必要だ
その上で行革戦略論・体制作りとして、

  1. 行政監視院(日本版GAO)を設置し国会が行政を監視(臨時国会に法案提出)、
  2. 副大臣・大臣補佐官制導入(英国並みに国会答弁・野党根回しは与党チームが行う)、
  3. 情報公開法の導入(行政による天下りシステムの解明等)、
  4. 予算編成を省庁別から機能別に改変(大枠は政治主導。例えば治山治水の観点から山林整備と河川改修を一元予算化)
などをあげた。
議員提案、政策協議を通じて、硝子越しの政策協力をおこなうとのことだ。

新人議員との懇談・意思疎通の機会増進を計画中

今回の総選挙の一つの特徴は、当選議員の2割以上、115名が新人であった点だ。各選挙区で激戦を戦ってきたこうした議員は従来、経済界・企業人との接触が薄かった場合が多い。、こんご様々な接点を増やしていくことが、政治家と企業人の意思疎通の緊密化という点からも極めて重要であると考えられる。
そこで企業人政治フォーラムでは、今後随時新人議員と懇談の機会を持つとともに、各議員の政治信条や、重要政策問題への考え方を集約し『企業人政治フォーラム速報』などで会員の皆さんに情報として提供することにしている。「こんなことを新人議員に尋ねてみたい」「2回生・3回生議員等の考え方も知ってみたい」といったご希望があれば、是非とも事務局までご連絡いただきたい。今後の運営の参考にさせていただく。


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