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企業人政治フォーラム速報 No.77

PDFファイル版はこちら 2001年 1月31日発行

最近、政界について思うこと
─ 塩川正十郎衆議院議員
(1月19日政経懇談会)

1月19日の政経懇談会では、自民党の塩川正十郎衆議院議員総会長を招き、「最近、政界について思うこと」と題して、今後の政治のあり方等について話を聞いた。

【変わりつつある有権者の意識】

最近、私は有権者の意識が変わりつつあるように感じている。どのように変わりつつあるのかというと、二つの方向性があるように思う。一つは、政治や選挙というものをもっと真面目に考えようという意識である。主婦層の中にも、政治を自分たちの問題として考えるべきだという動きが起こってきた。もう一つは、選挙で現状を大きく変えることはできないのだから、自分の仕事や業界に関係のある候補者だけを応援すればよいという考え方である。実際、このような判断に基づいて候補者を選別する傾向も見られる。
前回の総選挙では、選挙期間中に他の候補者の応援に出かけた際に、それぞれの候補者が口を揃えて、有権者が真面目に話を聞いてくれる傾向が出てきたと言っていた。一方で、税や土地改良に関する負担金の問題等、個別具体的な問題に絡めて候補者を選別する傾向も非常に強くなってきている。民主党から弁護士、税理士や公認会計士等の候補者が大量に当選を果たしたのは、このような要因が相当大きく作用しているように思う。

【「国民」から、「市民」、「生活者」へ】

このような現状を逆の観点から見てみると、最近の政治家は「国家」や「国民」といった視点から物事を考えることが少なくなってしまったということでもある。我々の世代の政治家は、多少なりとも、「国家」、「国民」といった観点から議論を進めたものであったが、今では「国家」などと大仰なことを言うと聴衆が笑い出しかねない。私が初めて衆議院議員に当選した当時は、官僚の価値観の中心にも「国家」という概念があった。ところが細川内閣以降、「国民」という言葉に代わって、「市民」という言葉が使われるようになった。さらに最近では、それが「生活者」という言葉になりつつある。
一方で真剣に政治について考えようという動きが出てきてはいるものの、一面では、政治を自らの生活や事業の「手段」として利用しよういう傾向が非常に強くなってきている。もっともアメリカの政治家からすると、「生活者」というのは面白い観点であるようで、アメリカではもっぱら「納税者」という観点が中心だそうだ。つまり、アメリカの政治は、「納税者のための政治」であるということになる。このようなことを耳にすると、民主主義という政治形態そのものに大きな変化が起きているのではないかと感じる。

【予備選挙制度の導入を】

私は以前から、参議院議員選挙に際して、予備選挙制度の導入を提案してきた。現状では現職優先ということで、現役の議員が自動的に公認候補者になるものと決めつけてしまっている。しかし、これではお仕着せの候補者になってしまい、隅々にわたるまで支持が浸透しない。
新人の場合には、各都道府県議会の議員や代議士の二世が最も有力である。特に各都道府県議会の議員の場合には、ある程度、既存の組織を動かすことも可能なので、選挙運動のコストが安く上がるというメリットもある。だから、どうしても各都道府県議会の議員や代議士の二世というような候補者を選ぶ傾向が強くなってしまうが、これでは何ら新鮮味がない。
自民党が選挙で苦しむ原因はこのようなところにあると思う。全国には自民党の党員が約300万人いるが、これらの党員を対象に、参議院選挙の1年ほど前を目処に、予備選挙を実施して、公認候補者を決定すればよい。参議院選挙に立候補することを予定している候補者は、この予備選挙に出なくてはならないというわけである。参議院では、このような制度は十分に実現可能であると思う。私は是非とも予備選挙制度を導入すべきであると考える。候補者の選考方法を変えないかぎり、自民党はいつまでも苦しみ続けなくてはならないだろう。

【最重要政策課題は行政改革】

昨今、政治課題として、景気回復や財政構造改革等さまざまな問題が挙げられているが、そのような中で、私は他の問題に先行して行政改革に取り組むべきであると思っている。
先日も自民党の行政改革推進本部の会合において、担当大臣である橋本氏が基本方針を示したが、その中で橋本大臣は、まず国民の公務員に対する信頼を回復させることが最優先であると述べておられた。これには私もまったく賛成である。実際に、公務員に対する信頼感は非常に揺らいできている。もはや中央省庁では、課長クラスになると省益のことしか考えておらず、「国家」や「国民」といった立場から議論がなされることはない。しかし、今後は、もっと大きな立場に立って物事を考えることができる公務員を養成し、公務員の能力を活用する方策を検討していくことが重要である。そういった意味においても、公務員制度のあり方をはじめ、最重要の政治課題として、行政改革に取り組んでいきたい。

【21世紀の政治課題】

私は21世紀の政治に課せられた目標や理念といったものを考えていくうちに、さまざまな分野における格差の拡大を抑制していくことこそが21世紀の政治が取り組むべき課題であると思うようになった。自由主義社会においては、さまざまな分野において格差が出てくることは止むを得ない。ただ、格差をそのまま放置し、それが拡大していくようなことになると、社会不安に結びつく懸念がある。
国内では、まず経済政策を通じて、大企業と中小企業との格差を是正していく必要がある。それぞれの格差をすべて平等化しなくてはならないというわけではない。たとえば、零細企業等については、今後はいかに「整理」していくかが課題となってくるだろう。無理に企業を生かそうとして、金融面での支援を与えても何の役にも立たない。むしろ、廃業しようという企業があるのならば、そのような企業に対しては、廃業後をどうするのかということを検討すべきである。
格差の中でそれ以上に著しいのは、若年層と高齢者層との格差である。これに対しては、私は「70歳定年制」を提案している。これは、60歳以降については、特定の職務のみに従事し、賃金も抑制するという仕組みである。この仕組みを導入すると、年金や医療保険に対する負担も軽くなり、政府としても助かるはずである。現在の制度の下では、50〜60代の層が、将来に対する不安を最も強く抱いている。「70歳定年制」はこのような社会不安への対策にもなるはずである。
いずれにせよ、このようなさまざまな格差の是正が、21世紀のもっとも重要な政治課題であると認識している。


[塩川正十郎衆議院議員プロフィール]
しおかわ・まさじゅうろう 1921年大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。布施・河内・枚方の3市合併による東大阪市誕生に際しては、助役として計画の推進・実行に尽力。1967年衆議院議員初当選。当選11回。運輸・文部・自治各大臣、内閣官房長官、自民党総務会長などを務めた。現在、自由民主党衆議院議員総会長。

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