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企業人政治フォーラム速報 No.80

PDFファイル版はこちら 2001年 6月 4日発行

今後の政局と経済再建
─ 堀内光雄衆議院議員
(5月28日政経懇談会)

 5月28日の政経懇談会では、自由民主党総務会長の堀内光雄氏を招き、今後の政局や経済再建に対する考えを聞いた。

【戦場に赴く覚悟で】

 自民党は、小泉内閣の誕生で元気が出て来た。小泉総理は、党改革、経済・財政の構造改革等を盛んに謳い上げている。この気迫と意欲は私が見てもすごいものである。私が総務会長への就任要請を受けたのは、4月24日、総裁に小泉氏が選ばれた夜である。翌日、総裁室で小泉総裁は三役に対して、「自分は戦場に赴く覚悟でこれからの政治に取り組んでいく。是非、一緒に戦って欲しい。」と言われた。この人の目を見て、これは命がけでやっているな、という感じを受け、私も命がけで取り組む覚悟で総務会長を引き受けた。今まで改革を謳った政治家はたくさんいるが、小泉総理ほど、命がけでやるという気迫を持って取り組んだ人は見たことが無い。この気迫や意欲は国会の答弁の中でも出てきており、今までと違い、前向きな答弁が表に出るようになってきた。このことが、就任当時より就任1ヵ月後の支持率の方が増え、驚異的な数字を出していることにつながっているのであろう。

【小泉総理は平和時の革命家】

 今の世相は、平穏かつ、無難な時代になっている。海外旅行者は先日の観光白書を見ると、昨年は1,782万人と過去最高であり、今年のゴールデンウィークの海外旅行者も過去最高であった。失業率は4.7%から4.9%を推移しており、非常に高いが、昭和恐慌のころの金融恐慌のように、失業者があふれるとか、あるいは就業者も劣悪な労働条件の中で仕事をしていたようなこともなく、安心した中で生活をしている。しかし、政治に対しては、汚職や不正疑惑に対する不満等があり、役人も機密費問題のような不愉快極まりないものが出てくる、果ては裁判官までが、言葉に出せないようなことをするということで、全ての面において将来に対する漠然とした不安が生じている。年金の問題もある。他方では、内容が正しいか間違いかは別にして一般の人は情報過多になっている。今は平和に暮らしているが、このままでは将来困るという不安が充満し、閉塞感に苛まされている。このような状況の中で、争いや混乱はお断りだが、平和のうちに自分たちの希望を実現してくれる、いわば平和革命の革命家を求めていたところに、小泉さんが出てきた。

【長期政権の可能性も】

 小泉総理の第一の関門は参議院選挙である。与党3党で過半数の62議席は確保できるのではないかと思うが、これをどれだけ上回るかによって小泉総理の信任度が高まり、党内における安定度が増し、発言力が増して来る。色々な問題に対して立ち向かっている限りは、世論が味方になって、今の90%近い支持率が維持できるかどうかは別にしても相当高い線で推移し、小泉内閣の行く手はそんなに心配ないであろう。概算要求の時に党内で抵抗が出てきたとしても、例えば道路財源の問題にしても、今でも既に使用の幅は広げて道路だけでなく駅前の整備等にも使用しているのであるから、第11次道路整備5ヵ年計画の終了する、平成14年度一杯は今までの幅を広げるという取り組みで行けばそれほど抵抗も無く、話もまとめていける。その後、12月の予算編成を無事通過すれば、長期政権の可能性が出てくることとなり、本当の世直しの建設が始まる。この機会を逃したら、もう自民党再生は不可能である。国民の期待に応えられるような政権の確立のために、我々も党の方からしっかり支えていく。

【景気を低迷させている生産分業構造への対応の遅れ】

 どのように安定成長軌道を作っていくか。不況の原因は景気循環もあるが、もう一つ、産業構造が従来の製品分業の形から生産分業の形に転換してきていることにある。この裏づけとして、製品輸入は85年には30%であったが、90年には50%になり、昨年は62%まで増えてきている。今まで国内で部品から製品まで生産し、付加価値が付いて出来上がっていたものが海外に移転することによって、GDPが増えなくなるのは当然のことである。同時に雇用も減ってきて、製造業の雇用は90年に1,505万人であったが、2000年には1,321万人となり10年間に184万人減っている。この生産分業への転換に対する対応の遅れが国内の景気を低迷させている。さらにバブル崩壊による企業のリストラが未だに尾を引いている。このような複合的な要因で今の長期不況が誘発されている。

【急がれる不良債権処理】

 不況は全産業に影響を及ぼしているが、特にわが国は、間接金融を中心とした金融システムをとっていることで、一番大きなしわ寄せが銀行に集約的に現れてきている。全産業に対する影響を考えても、銀行をしっかり立て直さないと、経済の活性化はできない。当然、累積する不良債権を早く処理しなければならない。しかし、金融機関の不良債権の処理だけで全ての問題が解決するわけではない。金融機関の方は、政府が不良債権処理のための税制面での後押し等により、直接償却を促す。しかし、銀行の不良債権の処理は産業界を活性化させるための基盤にはなるが、企業の過剰債務の解消にはつながらない。不良債権処理は銀行が債権を放棄しない限り、企業の倒産や整理清算を迫ることとなり、不況は更に深刻化してしまう。債権放棄は一部の企業に対する「徳政」になる恐れなどから、不公平感があることで、行き詰まっているが、思い切った策を考えていく必要がある。
 今度の不良債権の処理は特にバブルの負の遺産を引きずった企業にとっては、大量の失業者を出す恐れがある。過剰雇用、過剰資産、過剰債務、といわれるが、過剰雇用とは単に雇用者が多いだけでなく、年功序列賃金を始めとした高賃金が問題であり、これが競争力が無い状態をもたらしている。また、過剰設備については、陳腐化した設備や、資産デフレでバランスシートに計上された額の何分の一かになってしまった設備を抱え、内容的に非常に劣悪になっている。過剰債務は、借方の資産の額に見合わないような莫大な借入れ債務が残っている。全体を見てバランスシートが壊れている。本来、不良債権の処理は銀行と企業が自主努力でやっていくのが当たり前で、政府が関与する必要の無いことである。しかしこのような状況の中、銀行の不良債権処理を、政府が税制面で支援すると同時に、役付役員に厳格な責任を求めたり、減資、デッド・エクイティ・スワップの活用など、企業の債務処理にもある程度の指導力を発揮しなければならない。また、日本の労働、雇用慣行を考えると、労働者の横の移動がほとんどできないのが現状だ。失業した人が訓練を受けて新規雇用されるのは極めて困難であるから、同種の企業間で整理される企業を併合して、新規の失業者を出さない方法を考えていくべきだ。


[堀内光雄衆議院議員プロフィール]
ほりうち・みつお 1930年山梨県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。富士急行の社長を務めるかたわら、1976年衆議院議員に初当選。当選8回。通産大臣、労働大臣を歴任。現自由民主党総務会長。

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