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企業人政治フォーラム速報 No.81

PDFファイル版はこちら 2001年 6月27日発行

日本経済の変革への道筋
(6月19日政経懇談会)

 6月19日の政経懇談会では、自由民主党の塩崎恭久氏を招き、日本経済の変革への道筋について考えを聞いた。

【国家戦略の司令塔を】

 5月8日、香港で開かれた国際金融会議にパネリストとして参加したが、香港の財務庁長官が、「20年経てば中国は世界第2位の経済大国になるだろう。その窓口は香港になるだろう。」と言っていた。仮に20年後に、アメリカ、中国と言う順番になっていたとしたら、日本が3番目に踏みとどまっているだろうかと心配になってきた。改めて思いを深くしたのは、これまでの日本は国家としての司令塔がどこにあるのか、物事は誰が決めているのか、あまりにもバラバラになり過ぎていたということである。
 アメリカが将来、世界で、特にアジアで戦略的なパートナーとしてどの国を選ぶかを考えると、日本が今のままの路線を採っていくと、中国をパートナーとして選ぶかもしれない。これを克服するには、やはり国家の根幹となる広い意味での安全保障政策を確立しなければならない。今、集団安全保障問題が取りざたされているが、誰が責任を持ってやっているのか。国家として、これからの軍事的な世界への関わり方をどうするのかをまとめるところもどこにもない。自民党の中に国家戦略本部が設置されたことは大きな前進だが、国家としての戦略本部があることが大事である。アジアのリーダーであるためには、そこで安全保障問題の路線をしっかり決めて、尚且つ海外の理解を得なければいけない。経済政策についても、経済構造改革についても、司令塔がなければならない。

【改革を成し遂げるための3つのポイント】

 先週小泉総理と当選3回の衆議院議員が昼食を食べる会があり、意見を聞いてくれるということで、私も発言した。私からは「私たちは小泉改革を全面的にバックアップしていきたいが、総裁選挙の時に小泉さんが『大変なことが起きるかもしれないが、皆耐えてがんばってくれ』とおっしゃった。『大変なこと』は起きないのではないか。セイフティネットが必要だと大騒ぎしているが、仮につくっても無駄になるかもわからない。このままではたいした構造改革が起きないのではないかとの危惧を持っている。」と発言した。もうひとつ、小泉総理や竹中大臣に申し上げていることは、「改革には三つ大事なことがある。ひとつは改革の順序立てを間違わないこと。二番目はタイムフレームワーク、時間軸とその工程管理が大事であること。三番目は執行体制の確立をしなければ改革は着実に実行することは出来ないということ、である。」と申し上げている。

【改革の順序立て〜経済再生10年ビジョン(塩崎私案)〜】

 年明け早々に、経済再生10年ビジョン(塩崎私案)をつくった。「改革の順序立てとタイムフレームワーク、工程管理が必要だ。」と、当時の森内閣に訴えたかった。今の小泉内閣も順番を間違えると大変なことになる。この10年ビジョンでは、最初の2年で不良債権処理と産業構造改革を徹底的にやる。その時に大事なことは、国債発行は増やさない。この構造改革の時にはデフレ効果が発生するのは言うまでもない。それをオフセットするための財政出動は必要である。財政出動イコール国債発行とみんな考えがちだが、企業も困った時はまず、遊休資産を売却する。あるいは証券化して資金調達する。国も資産を一杯持っているわけであり、無駄なものはどんどん売り払えば良い。国有資産の売却と証券化が当然出来る。行政財産は売れないという声もあるが、普通財産に切り替えれば売れる。最初の2年で徹底的な構造改革をやって、その時にプライマリーバランスは悪化させない。次の3年でプライマリーバランスを回復して、それから本格的にやっていけば良い。

【整理回収機構(RCC)を使った二分類問題債権の再生メカニズム】

 不良債権処理はとてつもなく大きな問題である。不良債権のもたらす経済インパクトを名目GDPとの比較で見ると、91年のアメリカでは、このときのアメリカはシティバンクも倒れそうであった大変な時期であったが、2.9%であった。昭和大恐慌のときの日本が2.5%。去年の3月末時点で、金融庁が使っているリスク管理債権金額が41兆円で8.4%、金融庁がオーソライズしている(銀行の)自己査定金額が82兆円で16.6%である。今回オフバランス化するのは12.7兆円である。この12.7兆円はGDP比で丁度2.5%であり、昭和大恐慌の時の不良債権をオフバランス化するというのが今回の緊急経済対策で宣言している部分である。毎年、二分類が三分類になり、少しずつ大きくなるが、マーケットが問題視しているのは要注意先と見られているところについての手立てが全く示されていないことである。
 先日出された経済財政諮問会議の方針案の中では初めて要注意先債権について触れている。このこと自体は大きな前進であるが、銀行の努力を促すと明記しただけで、わが国の政策として世界を納得させかつ本当の構造改革につながるか。改革の三つ目のポイントは執行体制である。特に要注意先企業を元気にするために、整理回収機構(RCC)を使った二分類問題債権の再生メカニズムを提案したい。これはモデルケースを選んでやっていくべきだと思っているが、ある企業に貸している全銀行がその全部の債権をオフバランスし、RCCに移す。RCCに企業再生のプロを民間からたくさん入れて、再生を図っていくメカニズムである。また、RCCは証券化できる優良資産も含めて不良債権の宝庫であり、国有資産の売却同様、ちょっとした公的資金の呼び水でこれを売却すれば、景気対策にもなる。

【日本版SECの創設を】

 日本の資本主義を本当に良くして、日本の企業が資本、労働の収益性、生産性を高くするためには、良い資本市場が無ければならない。今、金融庁の中で資本市場に関わる部門はバラバラになっている。よく証券取引等監視委員会を強化すべきだというが、証券取引等監視委員会はルールを守っているかどうかだけを見ている。ルールは別の部門で作っている。いくら証券取引等監視委員会を強化してもダメで、やはり、バラバラになった部門を全部一括して、資本市場を育てる、ルールを作る、監督をする、取り締まる、そして、投資教育までも全部を一括して引き受ける機構が必要である。今の金融庁には、トータルな意味で証券市場についての責任者がいない。金融庁長官でもない。なぜなら証券取引等監視委員会は8条委員会であり、金融庁長官は委員会からの勧告を待つだけである。ベターコーポレートガバナンスを具現化する場としての資本市場を育てるためにも、日本版SECを創らなければならない。


[塩崎恭久衆議院議員プロフィール]
しおざき・やすひさ 1950年愛媛出身。東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行し、ハーバード大学大学院で行政学を学ぶ。1993年衆議院議員に初当選。95年には参議院選で当選、昨年の総選挙で再び衆議院で当選。政界きっての経済政策通の一人として知られる。

尚、経済再生10年ビジョンや、日本版SECの詳細については、塩崎議員のホームページでご確認ください。

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