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企業人政治フォーラム速報 No.86

PDFファイル版はこちら 2001年 9月11日発行

村上誠一郎 衆議院議員

千載一遇の日本再建のシナリオ
(9月4日政経懇談会)

 9月4日の政経懇談会では、財務副大臣である村上誠一郎氏を招き、「千載一遇の日本再建のシナリオ」と題して話を聞いた。

【再び政・官・財がお互いに知恵と力を出し合う関係を】

 日本は良い意味でも悪い意味でも、政・官・財の3つの柱がお互いに知恵と力を出し合って、切磋琢磨して今日の繁栄をもたらした。ところが、その3 つの柱は、政治は自民党の分裂と小選挙区制の導入によって不安定になり、経済はバブル崩壊、行政は度重なる不祥事による信用と権威の失墜を招いた。
 また、時としてマスコミの間違った世論誘導もあってか、正論が正論として通らなくなっている。その上、議論を封じ頭ごなしに命令するのが政治主導と勘違いする人も増えてきている。政治・経済・行政がお互いの知恵と力を出し合って切磋琢磨する状況をもう一度取り戻さなければ、日本の再生は難しい。

【政治家も国民も国家財政の現状理解を】

 今から20年前、1981年の国と地方の長期債務残高は約134兆円で、国民一人当り100万円であった。1994年でも384兆円、300万円であったが、その後の7年間で倍近い666兆円、一人当り524万円まで悪化した。
 今回小泉総理は新規国債発行額を30兆円以下に抑えるといっているが、来年度予算編成では国債所要額は33.3兆円と見込まれ、そこから3.3兆円削ることが必要である。
 また、財政再建はそれで終わりではない。プライマリーバランス均衡のためには15兆円、赤字国債の残額を減らしていくには33兆円の赤字削減が必要である。もしもこのままのペースで本格的な財政再建に取り組まなければ、債務残高が対GDP比でピークアウトする時には借金が1,100兆円にも達する。遅れるほどそのつけは幾何級数的に増えていく。

【財政再建のポイントは地方自治と社会保障と公共事業】

 このように財政が悪化したのは何故か。
 今まで金融、廃棄物処理や景気対策を始めあらゆるツケを財政に回してきた。また、財政を通して所得再分配を行なうことに傾注しすぎ、中国以上の共産主義国家になってしまった。これだけ悪化した財政状況では、新たに財政刺激策を採っても国民の将来不安から景気回復に結びつかない(非ケインズ効果)。健全な財政に戻して、国民の将来不安を取り除く道筋を一日も早くつけなければならない。
 財政再建のポイントは (1)地方自治、(2)社会保障と(3)公共事業である。
 地方自治について、米国のインディアナポリスの事例を紹介したい。インディアナポリスの市長は、財政の立て直しに当り、前任者のしていた事業の70%をカットし、大部分の仕事を民間に委託した。即ち、行政スリム化4原則として、

  1. 行政は民間企業が提供し得ないサービスのみを提供、
  2. 行政は推進者であるべきで管理者であるべきではない、
  3. 市場原理の範囲を最大化 〜金の使い道は民間に委ねる〜、
  4. サービスを受ける市民や労働者の視点 〜1ドルの税金に最低1ドルのサービスを〜
を打出し、行政の役割を徹底的に検討して、官の仕事を30%に殺ぎ落とし、民の活力を導入した。日本も、これまでは人口が増え、経済規模が拡大し、税収が増え、行政は各省競って仕事量を増やしてきたが、これからは、人口減、経済規模縮小、税収減と、モードを変えなければならない。
 社会保障については、今まで余りにもメリハリなく拡充してきた。これからは独居老人や寝たきり老人への保償などはきっちりやって行くのは当然だが、ミニマムを越えるよりよい介護・福祉サービスの提供は、大胆な規制緩和を行い、民間サービスの力を活用していくべきである。個人金融資産1,400兆円の3分の2は60歳以上の方が保有しており、こうした方策によってこそ、1,400兆円の有効活用にもつながっていくし、持続可能な社会保障制度が構築できる。
 公共事業も、事業の見直しが必要であろう。
 財政構造改革も経済構造改革も基本は将来性のある分野に人と資本を移行していくことだ。若い人たちへの教育や福祉を厚くして、次の世代を育てていくことが重要である。

【トータル的な骨太の議論を】

 私は小泉総理の構造改革とは (1)不良債権の処理、(2)財政構造改革、と(3)経済構造改革の3つの柱であると考えている。これら3つを同時併行的にやらねばならないが、どういう手順で、どういう量で、どういう切り口で行なうかを、政・官・民のあらゆる英知を結集して景気、株価、為替等も睨みながら慎重かつ着実に進めていかなければならない。ところが、こうした総合的な戦略を考える部門が、党にも政府にも国会にも財界にもどこにもない。財政・金融や日銀の金融政策をどう考えていくのかについて、経済財政諮問会議で総合的に議論すべきである。今回の小泉総理が日本再建の千載一遇のチャンスである。万が一今回挫折すると次のチャンスはなかなか来ない。

【政治にも新陳代謝が必要】

 小選挙区制度下では、選ばれている人が亡くなるか引退するまで事実上、人を代えられない。イギリスの保守党は労働党に2連敗しているが、サッチャー・メージャー政権の十数年間保守党の議員はどんどん年をとり、逆に労働党のブレアの方は若い優秀な人材を集めた結果である。日本でも、意識して優れた人材を登録してプールしておき、空白区に立候補させて当選させ、将来の党幹部の人材を育てていく必要がある。こうした人材確保の制度は、総合戦略会議の創設やシンクタンクの設立と並んで是非自民党が取り組まなければならない課題であると考えている。

【今以上の国家と郷土を次の世代へ】

 我々の世代で財、環境、資源を使い果たしてはならない。人口爆発・貧富格差、民族・地域・宗教間紛争という問題を抱える世界にあって、米・中・欧のトライアングルの中で我が国のあり方をどう考えるのかというのが政治家の取り組むべき本来の課題である。
 今後日本が立ち直っていくためには、第一に構造改革と不良債権処理により、企業の競争力を取り戻すとともに資産デフレと信用収縮を止める。第二に悪化した財政を立て直すために、地方自治、社会保障、公共事業のあり方を見直す。第三に高齢化・少子化時代の到来を睨み、女性やシルバーエイジパワーの活用等を検討。第四に国家の安全保障・治安・防災・金融問題等の危機管理体制を確立する。第五に国力とは「人口×能力+資源」と考えるが、能力に当る部分の教育の建て直しを行なうことが必要である。こうした課題に対して、明治維新、太平洋戦争終戦後と同様、国民全員で汗を流して日本を再生していきたい。


[村上誠一郎衆議院議員プロフィール]
むらかみ・せいいちろう 1952年愛媛県生まれ。村上信二郎代議士を父に、村上孝太郎参議院議員を伯父に持つ村上水軍の末裔。1986年初当選。以降大蔵政務次官、大蔵委員長を務め、現在財務副大臣として小泉内閣を支えている。

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