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企業人政治フォーラム速報 No.88

2001年10月 2日発行

谷垣禎一 衆議院議員

日本経済再生の課題
(9月26日政経懇談会)

 9月26日の政経懇談会では、衆議院議員の谷垣禎一氏を招き、「日本経済再生の課題」について話を聞いた。

【米国同時多発テロ事件直後に考えたこと】

 アメリカでテロ事件が発生し、それまで描いていたこれからの進展や構図がどう変化していくのか、まだ十分頭の中の整理が出来ていない。しかし、まず最初に感じたことは、アメリカ一極支配を形成した後の21世紀の戦争は、今までのような主権国家同士の争いという形は必ずしも取らず、このようにテロのような形となって現れてくるのではないか。これが21世紀の戦争かもしれない。そうすると、日本はそれにどう対応していくのかを、湾岸危機のときに学習したが、もう一度整理をしなければならない。
 もう一つ感じたことは、経済のことである。ここしばらくの世界経済を見ると、アメリカが実力以上に消費し、その金のファイナンスに日本が協力している。言葉は変かも知れないが、こういう形で曲がりなりにも世界経済の秩序、システムが出来上がっている。この秩序をドルが基軸通貨であることと、ニューヨークのマーケットが支えている。ワールド・トレード・センターが今回のことでもろくも崩壊してしまったことで、世界経済の仕組みが壊れてしまうのかどうか、先行き不安が生じているが、やはり、こういうときこそ日米欧の強固な協力関係が必要である。

【小泉内閣の三つの問題点】

 このようなテロ事件が起きる前から、小泉内閣の問題点は三つあると考えていた。
 一つは足元の問題である、小泉総理の唱える構造改革に対して、メディアなどは自民党の抵抗勢力が足を引っ張るといっている。小泉総理がどういう風に自分の足元を固めて自分の考えていることを実現していくのか、その手法が十分熟しているかどうかという問題である。
 二番目は経済の問題である。色々な構造改革を進めなければならないが、アメリカの景気が予想以上に悪くなっている。しかも、私の短い経験の中では日米欧ともに調子が良くないというのは初めての経験である。この景気悪化が予想以上に早く進展すると構造改革は苦しくなる。30兆円という国債発行枠を設けているが、手足を縛られる可能性がある。
 三番目は外交の問題である。小泉総理は今まであまり外交の経験がない。普通は弱点を補う人事をやるが、今の内閣ではここが上手く回っていないのではないか。外交ですぐに命取りになることはないと思っていたが、今回のテロ事件で外交関係をどうしていくのかに大きな問題が起こっている。

【新しい政策決定プロセスが必要】

 1月に始まった省庁再編で、内閣府の力を高め、内閣総理大臣主導で物事を行なっていこうという大きな方向では構造改革の精神にあっている。しかしそれを支える体制は固まっていないのではないか。今、マクロ経済を見ながら政策を発動する司令塔はどこにあるのか。かつては大蔵省がそういう役割であったが、色々な不祥事や役所の解体で、そういう機能は昔に比べて明らかに果たしにくくなっている。また、片方には党があり、党の中に部会があり、二頭立ての馬車で進んできた。しかし、長い間に弊害が起きてきて、自民党の部会が省庁の縦割りをそのまま政治の部門で引き受けたようなところがあり、大所高所からの判断が出来ない。また、日本の金融機関もシンクタンク的機能を果たしていたが、金融危機以降その機能も随分低くなってきた。もう一度政治の中に情報を集めて政治家が自己練磨をし、トータルの判断をする政党のシンクタンク機能を考えなければならない時期になっている。また、国会運営の手法もリファインしていかなければならない。

【構造改革が必要である三つの理由】

 経済問題に関連して、「構造改革とは何か。」という議論がある。構造改革がなぜ必要なのか、以下の三つの抜本的問題についてはっきり説明しきれていないことが問題である。
 第一は、人口の減少である。これだけ人口が減少することを日本の歴史の中で経験したことがない。年金財政への影響を始め、終身雇用や年功序列賃金制度の維持にも影響を与える。外国人労働者受入れの賛否を含め、人口減にどう対応するのか。
 二番目は地価の下落である。基本的には土地が一番大事な資産であるということで、金融システムも作られていたし、色々な税もそういうことが前提で作られている。土地は下げ止まったか、下げ止まらせるのか、ということも、もう一度根本的に議論しなければならないのではないか。
 三番目は中国への対応である。安い賃金で優秀な製品を生産するようになり、アジアの生産工場としての地位を確立した。人民元の切り上げ問題や、WTOをどうするのか、関連付けて考えなければならない。しかし、あれだけコストが安いことを考えると、人民元の切り上げだけでは解決しない。日本経済が効率の良いところに資源も金も配分すべきではないか。
 今必要なことは、この三つの問題に答えを出し、国民に向かって、「21世紀の我々の生活はこういう生活になる。」と、十分説明することであろう。

【法案提出までの活動が重要】

 今回のテロでアメリカがどういう行動を採るか、ブッシュ大統領の気持ちで考えてみると悩みのある局面である。日本人を含め、あれだけ多くの非戦闘員がテロで亡くなったことを許すわけには行かない。日本もテロを根絶する行動を共同していくということを強くアピールする必要がある。そのために、この国会で法律を通して、憲法の枠内で支援体制をきちっと組むことが重要である。私が宮澤大蔵大臣のお供で大蔵政務次官になったときは金融国会であったが、国会は開いても野党の抵抗でなかなか法案が通らず、その脇で長銀がどんどんおかしくなっていった。今、法案提出前にやっておかなければならないことは、臨時国会が開かれてから与野党対決でどうしようもならない、ということのないように、基本的な線を取り付けておいて、国会開催後スムーズに法案が通る形を作ることである。特殊法人改革問題で、各省が小泉政権に冷ややかなスタンスを採っていることもあるが、色んな役所が省庁の縦割りを乗り越えて、テロ対策の法律を作らなければならない。

【工程表の細部を詰める】

 先日の工程表の中で、不良債権処理に関して、従来の金融庁のスタンスから一歩進んだものが出てきた。市場の評価と金融庁の検査の結果がリンクしないと上手くいかないということで、「特別検査を取り入れ市場の評価が急激に変化したものについては検査を行なう」という案が取り入れられた。是非これを上手く活用して、疑心暗鬼を取り除いていただきたい。これから細部を党の中で詰めることになるが、経済界からも何かご意見があれば、伺わせていただきたい。


[谷垣禎一衆議院議員プロフィール]
たにがき・さだかず 1945年東京都生まれ。元文部大臣であった父の急逝に伴い弁護士生活をなげうち83年に政界へ。科学技術庁長官、大蔵政務次官を経て、小渕第二次改造内閣では金融再生委員長を務めた。

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