(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

留学生活で得られる能力の一般化

源 勇気 (みなもと ゆうき)
2010年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
東京工業大学大学院からケンブリッジ大学に留学

私の所属するSt John's Collegeでのクリスマス
ディナーにて同じケンブリッジ大学の友人と
(筆者は右から三人目)

私はケンブリッジ大学でPhD学位の為に乱流燃焼に関する研究をしている。ケンブリッジ大学は、乱流工学という学問が確立された当初から、この分野の発展に大きく貢献した研究機関のうちの一つである。このような、私の研究分野の歴史と長く深い関わりのある大学で研究できる事を幸せに思うとともに、学業に関して経済的な支援をしていただいた経団連国際教育交流財団にまず感謝をしたい。

ケンブリッジ大学では確かに乱流や乱流燃焼の分野への数々の貢献がある。しかし、航空・宇宙機や自動車のエンジン、近年の火力発電所で広く用いられているガスタービンエンジンなどに深く関わりのあるこの分野では、日本の研究機関の競争力も非常に大きい。これはもちろん、世界的にも有数の日本国内の自動車産業や重工、鉄鋼業に直接的又は間接的な影響を受けてのものだろう。

このような実力のある日本ではなく海外の大学に進学した理由の一つは、日本ではない場所で自分の競争力を知りたいと思ったからである。研究において、一部の“天才”と呼ばれる人を除いては、競争力と言っても様々な要素が考えられる。研究を遂行する能力、結果を他人に説明し納得させる能力、発信する能力、発信した結果をさらに発展させ、次のステップ又は他の分野へ貢献する能力、と個人の能力に関する要素(能力要素)は挙げればキリがない。これらの能力要素の有無は研究以外でも十分に見受けることができるし、鍛えることもできるだろう。一例を挙げると、日常生活で他人と意思疎通を図れなければ、学会などで自分の研究を“売る”ことなど出来やしない。もちろん大勢を巻き込んでのプロジェクトなど出来ないだろうし、分野内でのニーズも分からないだろう。さらに想像すると、研究における個人の能力要素は、日常生活だけでなく、企業が製品を売るという行為や、政治における能力要素に類似があるように思える。これを一旦認めると、個々人の多分野における能力は2次元の配列で表すことが出来る。すなわち、一方向に分野、もう一方向にそれぞれの分野における個人の能力要素、という風にである。さらに上述した通り、この能力要素は異分野間で何かしらの関係がありそうだ。

PhD学位の為の留学と言うと、PhDのプロジェクトや海外生活の経験以外のメリットがさほど感じられないかもしれないが、上述した異分野間で関係のある能力の2次元配列を意識すると、それらの経験は未だ経験しない異分野での能力に影響する。上記の例を用いると、PhDの研究生活において、より一般的な(異なる文化・言語の)世界で鍛えられたコミュニケーション能力は、それは政治においても、異分野の専門的な職業に就いたときにでも、もちろん自分の研究においても武器になる。他の能力要素についても同様の事が言えるだろう(これらが最近活発に言われているtransferable skillsなのだろう)。このような考えに基づくと、たかが一分野の狭いトピックのみを極める学位の為の研究生活と言えど、この経験は一般的に認識されている以上に貴重であり、修了後どのような土地で、どのような分野・職業に進むにしても役立つに違いない。

(2013年1月掲載)

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