(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

2年間の舞台芸術に関する研究成果

田中 麻里奈 (たなか まりな)
2011年度奨学生
東京藝術大学大学院からイタリア/ボローニャ大学に留学

担当教授と論文を片手に卒業試験の後

私にとって、2年間のイタリア、ボローニャ大学大学院舞台芸術学科への留学は、人生のターニングポイントともいえる大きな転機になった。舞台芸術の勉強、そしてイタリアでの生活そのものから、日本には存在しない習慣、価値観、人生観を経験する機会となった。

具体的には、コンテンポラリーパフォーマンスにおける音のドラマトゥルギーに関して研究し、最終的には論文をイタリア語で執筆、卒業してきた。平たくいうと、舞台における音の演出について、どのような音空間を形成するかということをテーマに、私自身が東京藝術大学大学院で制作を主な活動として行っていることから、作り手の視点に立って研究を行った。その中で、イタリアのパイオニア的存在の音のドラマトゥルグ、ローマ歌劇場のアートディレクター、作曲家にインタビューを行うことができた。前衛的な演劇は、従来からの演劇スタイルだけでなく、インスタレーションなどのコンテンポラリーアートといった、まさに東京藝術大学大学院で勉強して来た要素も融合している。最終的には執筆した論文が、コンテンポラリーアートの視点からも考察されているということ、そして、作り手の視点からの研究であることにより、音のドラマトゥルギーという新しい研究分野を深めたとして、最高の評価を受けて卒業することができた。また、大学院でのワークショップを通して出会った演出家の舞台で音楽を担当したり、外部では作品展示をするなど、制作活動も同時に行った。

渡伊以前、作品制作の過程で必要性を感じていた、哲学的思想というものが、イタリアではとても重用視されていた。人間が人間として生きて行く上で、必ず向き合って行かなくてはならない感情、その悲劇性や喜劇性といった部分を芸術が受け止めていく、その様子を肌で感じることができた。芸術家は、芸術を通して、価値観や人生観を考えるための場をつくることがあったり、また、日常に遊びをもたらしたり、見逃してしまうような一瞬に気づく機会を与えたり、感動を与える、そういう人たちであるとして、いついかなる場面でも歓迎される。イタリアではそういった意味での豊かさを経験した。

一人の日本人が、アジアという情報的にまだまだ遠い国であるがゆえに蔓延する偏見などを乗り越え、海外で認められながら、生活、研究するのは、難しい部分がないとは言えないが、私の場合は、作品や研究内容をとおして、多くのイタリア演劇界の著名人と接することができ、多くの激励、協力を得ることができた。これは一重に、経団連国際教育交流財団によって、制作や研究に集中する環境が与えられたことによると感じている。現在は、東京藝術大学大学院の卒業制作が仕上がった所だ。今後の進路は、まだ未定であるが、自分の制作を進めて行く方向である。また、機会があれば、イタリア、日本を通して学んで来たことを伝えていきたい。貴財団には、留学生活を支えて頂き、心から感謝を申し上げたい。

(2014年1月掲載)

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