(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

ロンドンでの留学生活を終えて

倉科 真季 (くらしな まき)
2014年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
慶應義塾大学大学院からロンドン大学キングス・カレッジに留学

ヘンリー8世時代の王宮として知られる
ハンプトン・コート宮殿の大広間にて

私は2014年9月から一年間、イギリスのロンドン大学キングス・カレッジの修士課程に留学し、文学修士号を取得した。私の主な研究対象である16世紀後半から17世紀にかけての英文学は、エリザベス1世を中心とする宮廷の文化、シェイクスピアに代表される大衆演劇の文化、そして当時広く普及しつつあった出版の文化などが相互に関わり合うことによって生成されたバラエティに富む極めてユニークなものであるが、まさしくその土壌となったロンドンの地で、当時の資料や文化の名残に直接触れながら過ごす経験は、私の研究生活においてかけがえのないものとなった。

大学で私が所属した初期近代英文学の修士課程のコースは、イギリス最大級の蔵書を誇る大英図書館と提携した特別なプログラムを有しており、日本ではまず直に手に取ることのできない数百年前の貴重な初期刊本や作家たちの手稿本を例に取りながら、エリザベス朝やジェームズ朝における文学作品が、当時どのような形で受容されていたのかを学ぶことができた。イギリスでは一年間で修士号を取得するのが一般的であるが、その分研究に必要な基礎知識の習得から、それを応用して実際の文学作品を分析する演習までを一年という短いコースワークの中で集中して行うため、毎週の予習課題やセミナーでのディスカッション、学期末のレポートなど、特に英語の母語話者ではない私にとってはどれも大変なことばかりで、研究に没頭する日々が続いた。しかし、困ったことがあると何でも相談に乗ってくれ、熱心に指導して下さる先生方や、同じ興味関心を共有できる仲間たちに助けられ、最終的には満足のいく評価と研究成果を得て、全課程を修了することができた。今回の留学を通して、自分の研究が本場でも通用するのだという自信をつけられたのと同時に、第一線で活躍する研究者たちと数多く出会えたことが、本当に大きな収穫であったと感じている。

加えて、イギリス滞在中は大学の外でも研究に直結する様々な刺激を受けることができた。その最たるものが演劇で、ロンドンでは毎日必ずどこかの劇場でシェイクスピアが上演されていると言っても過言ではないくらい、盛んに興行が行われており、私もその多くに足を運んだ。日本では敷居の高いイメージのあるシェイクスピアも、イギリスでは、大衆劇場で上演されていたエリザベス朝当時と同様、現在も重要な娯楽の一つとして親しまれている様子が個人的にはとても印象的で、普段テキストを通して学ぶのとは違った「生きている」芝居を目の当たりにすることで、私が研究対象としている当時の文化を見つめ直す良いきっかけとなった。

今回の留学を通して得た経験や知識を活かして、今後は博士号取得を目指し、ゆくゆくは英語や英文学を教える立場となって、日本でもシェイクスピアや同時代の作家の作品をより身近に感じてもらえるよう励んでいきたい考えである。最後に、この留学にあたって大きなご支援をいただいた東京倶楽部と経団連国際教育交流財団の皆様に深く感謝申し上げたい。

(2016年2月掲載)

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