(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

アメリカ留学から得たもの

佐藤 祐子 (さとう ゆうこ)
2016年度奨学生
神戸大学大学院からアメリカ/ミズーリ大学政治学部に留学

政治学部における優秀者表彰式(中央・筆者)
ミズーリ大学キャンパス

私は2016年8月より、経団連国際教育交流財団の支援を受けミズーリ大学政治学部の博士課程に進学し、「新興民主主義国における抗議行動と政権の安定性」をテーマに研究活動を行っている。博士論文においては、特にラテンアメリカにおける抗議行動が政治的リーダーのサバイバル戦略に与える影響を分析する予定である。現在執筆中の論文の一つでは、ラテンアメリカにおける大統領の早期退陣について、その要因を抗議行動と議会における野党の影響力の相互作用より分析している。博士論文では理論的枠組みを拡げ、代表制制度内(野党議員)・外(民意・抗議行動)における拒否権プレーヤー(Veto Player)が影響力を持ち得る条件を分析する予定である。

アメリカにおける留学生活を通し、様々な貴重な経験を得ることができた。博士課程前半の2年半はコースワークを受け、比較政治学における網羅的な理論と計量分析を用いた分析手法を集中的に学ぶ機会を得た。また、休暇期間中には国際学会で研究報告を行い、研究分野における第一人者からアドバイスをもらうことができた。特にアメリカの政治学会は世界の中でも最も規模が大きく、年次学会には世界中から様々な研究分野の第一線で活躍する研究者が集まる。最先端で行われている研究に触れ、またネットワークを広げる機会が身近にある環境は非常に刺激的である。

アメリカの生活において最も刺激を受けたのは、その活発な研究環境である。ミズーリ大学学内においても定期的に個人の研究成果を発表する機会があり、お互いにコメントをし合いながら研究を進めていくことが可能である。また、様々な形で学内・外における共同研究が行われている。私自身、現在教授・学生を含む四人の共著者とプロジェクトを進めており、それぞれ共著論文の出版を目指している。また、シカゴで行われるMid-West Political Science Associationの年次大会において他大学の学生と共同企画した「抗議行動の決定要因」というパネルでの発表を予定している。このような恵まれた研究環境の中で、自身の研究テーマをブラッシュアップすると共に、お互いに刺激し合いながら研究を進める研究仲間に出会えたことは、留学生活で得たかけがえのない経験である。

また、私の滞在期間である2016年以降のアメリカは、トランプ政権が誕生し社会が様々な面で動揺した期間であった。アメリカという最も「民主的」といわれる国におけるポピュリスト政権の誕生は、民主主義は今後どこへ向かうのか?といった政治学の中でも最も大きな問いを改めて考えさせられるきっかけとなった。

今後は、2年かけて博士論文執筆し、博士学位の取得を目指す予定である。博士課程を修了した後には、留学期間中に培った知識とネットワークを活かし、さらに研究活動に邁進していきたいと考えている。多くの貴重な経験を得た留学の実現にご支援くださった経団連国際教育交流財団の皆様に、心より感謝申し上げたい。

(2019年1月掲載)

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