(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

イギリスの実験室から

大田垣 祐衣 (おおたがき ゆい)
2017年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
大阪大学大学院からイギリス/キングスカレッジロンドンに留学

クロアチアの学会会場で撮影した写真
採石場の砂場での屋外実験

私は2017年9月からイギリスのロンドン大学キングスカレッジの博士後期課程に進学し、核四極共鳴を用いた地雷探知機の開発をテーマに研究を行っている。従来の地雷探知機は金属探知が主流だが、この方法では地雷と銃弾の破片等その他の金属を区別することができない等の問題がある。核四極共鳴は、地雷の容器ではなく使用される爆薬を検知するので、誤探知率の低減や時間の短縮が期待できる。留学する前にも同様の研究を行っていたが、キングスカレッジロンドンでは実験環境がより充実していたため、留学を決意した。

留学する前は電子回路などを主に扱っていた私にとって、信号処理やシミュレーションを専門に扱う研究者と関わることになり、新しく学ぶことが多く苦労することもあるが、より広い視野で課題に取り組めるようになった。また、現在所属している研究室では、地雷除去に取り組む団体との共同プロジェクトを進めており、実際の地雷探知機に求められる条件や試作機のフィードバックなどを得ることができた。さらに、以前はセンサーの性能にばかり目が行っていたが、学内のアフリカリーダーシップセンターやロンドンビジネススクールとも協力関係にあるため、地雷除去が周辺のコミュニティに及ぼす社会経済的影響についても知ることができている。例えば、地雷除去作業自体が現地に及ぼす経済的効果がある。地雷除去団体が滞在することによって宿泊費等が発生するし、除去には人手が必要になるためその地域の人々の雇用が増える。したがって、利益を求める現地の人に地雷があるかを尋ねるだけではなく、本当に地雷が埋設されている地帯であるかどうかを見極めることも重要であると他分野の方々から聞き、今までに考えたことのなかった意見に大変驚いた。また、ボスニアヘルツェゴビナ紛争で埋められた地雷がまだ残留しているクロアチアで開催された地雷の国際学会(International Symposium MINE ACTION)で研究報告を行った際には、大学と企業だけでなく政府や軍関係者も参加しており、今実用化されている探知機・防護服の製品紹介や、新しい技術の発表が行われ、参加者それぞれの熱い想いに触れてさらなる意欲を掻き立てられた。このように、より多くの現場の状況に関する知識を踏まえながら、多様な観点から研究に取り組むことができ、他では得難い貴重な経験になっている。研究以外にも、指導教官が担当している実験型講義の補助をしている。ティーチングアシスタントをすることによって、大変良い語学の練習の場と、様々な国籍の学生の授業への姿勢や思考の違いも知ることができる機会を与えられている。

今後は、学内外の研究会等に参加しながら、博士論文を執筆し、博士学位の取得を目指す。博士課程修了後は、これまで培ってきた核四極共鳴によるセンシングの知識・技術を使い、地雷探知や誤投薬による医療ミスの改善などの生活の安全に少しでも役立つ研究に携わりたいと考えている。最後に改めて、このような素晴らしい留学の機会を与えて下さり、大きなご支援をいただいた経団連国際教育交流財団と東京倶楽部の皆様に深く感謝申し上げたい。

(2020年3月掲載)

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