(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

英国における公共哲学

今井 昭仁 (いまい あきひと)
2018年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
神戸大学大学院からイギリス/London School of Economics and Political Scienceに留学

大学図書館
Blackfriars Bridgeからの眺め

英国London School of Economics and Political Scienceに留学し、哲学・公共政策学の修士プログラム(MSc in Philosophy and Public Policy)で学ぶ機会に恵まれた。イギリスの修士課程は基本的に1年制で短いが、その分密度は濃い。こうした経験談は留学前に幾度となく見聞きしていたが、実際にそれを体感することとなった。倍速のように進む授業、毎週課される膨大な量の課題図書、締め切りの迫る課題。頻繁に開かれる講演やセミナー、常に開いている図書館、オフィスアワーなど、学習や研究のために利用できるリソースも無数にある。限られた時間のなかで、これらをうまく利用しながら自身の研究を進めることが求められる。

こうした息をつく暇もないような日々のなかで、Blackfriars Bridgeから見た景色は今も目に焼き付いている。昇る太陽を横目に大学に向かったことも、夕焼けや夜景を眺めながら帰宅したことも橋上での素晴らしい記憶である。

留学期間中の最大の社会的関心はイギリスのEU離脱、いわゆるBrexitに注がれていた(2020年1月31日、正式にEUから離脱)。これは滞在中、身近に感じられることでもあった。授業やセミナーにおいて、Brexitはおそらく最も頻繁に使われた事例である。大学の外でも、街角ではデモが行われ、カフェやパブでは政治談議が繰り広げられていた。このような日常こそ公共哲学の源泉であるかもしれないと感じたことを覚えている。理論を学ぶだけでなく、こうした日々を経験できたことは幸運であったと思う。

留学生活から得るものは無数にあった一方で、語学や研究に関する能力など満足するには程遠い、というのが率直な気持ちである。語学の面では未だに理解できないことも多くあり、研究の面でも勉強するほどに知識の不足を感じる。これからも、日々成長を遂げられるよう活動したいと思う。

帰国後は、神戸大学大学院に籍を戻した。現在は、博士号の取得を目指し、日々研究活動に努めている。学生として研究に没頭する時間は貴重だが、今後は教育・研究活動を通して知識や経験を社会に還元しなければならないとも考えている。また、この度支援して頂いたことから、今後は留学・研究の魅力を発信することで恩を送る役割を果たしたいと思う。経団連国際教育交流財団・東京倶楽部から賜ったご支援について、心より感謝申し上げたい。

(2020年3月掲載)

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