(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

エジプト留学を終えて

佐藤 友紀 (さとう とものり)
2018年度奨学生
東京大学大学院からエジプト・アラブ共和国/カイロ・アメリカン大学
現代中東研究センターおよびアラブ連盟付属アラブ高等研究所に留学

カイロ研究連絡センターの前で。きちんとマスクを着用し距離を
とっての撮影(中央が筆者。その右はセンター長の深見先生)。

私は、2018年から2020年までの間、エジプトのカイロ・アメリカ大学現代中東研究センターおよびアラブ連盟付属アラブ高等研究所歴史学部に、ほぼ一年間ずつ留学した。現在は、博士論文の完成に向けて牛歩の歩みを進めている。私の研究テーマは、近代エジプトにおける政治と宗教である。近代の政治と宗教の研究といった場合、例えば、宗教教育や宗教団体に着目して、考察対象国の政教関係をめぐる制度が、融合型・同盟型・分離型の内のどれに当てはまるかを明らかにするというものがあるだろう。しかし、私の関心は、制度それ自体ではなく、そのような制度が構築されていった背景には政治や宗教のあり方をめぐるどのような認識があったのかという言説領域にある。そこから近代エジプトの政治と宗教の関係を捉え直していくことを目指している。

制度構築の背景にある言説を知るためには、新聞だけでなく、委員会議事録や議会議事録、官報、裁判判決集といった公的史料を収集し考察する必要がある。カイロ・アメリカ大学図書館には多くの貴重図書や新聞が所蔵されており大きく役立った。また、アラブ高等研究所の受け入れ教官の協力の下、エジプトで出版されたアラビア語の研究書をかなり集めることができた。もちろん、両大学・研究所におけるセミナーやゼミで出会ったエジプト人たちとの議論を通じて、彼らの考えを学ぶことができたのも貴重な経験である。

大学や研究所外でも色々と人脈を広げ活動することができた。例えば、カイロ・アルメニア主教秘書や、地方名望家層出身のエジプト人男性と知り合いになった。カイロ・アルメニア主教秘書を通じて、エジプトのアルメニア教会コミュニティと触れ合う機会を得ることができた。名望家層出身のエジプト人は自身の家族史を作ろうとしており、いずれは貴重な非公刊史料を見せてくれるはずである。こういった人脈は、直接的にも間接的にも、今後の研究の資源となるであろう。

私の場合、2020年の2月以降エジプトをも襲ったコロナ禍を理由に大学や研究所が閉鎖され、同年4月半ばに帰国を余儀なくされた。しかし、古本屋店長など現地のエジプト人が私の代わりに史資料収集の作業を続けてくれて、何とか「留学」を継続させることができた。留学中、多くのエジプト人との出会いがあり、彼らの協力なくしては自身の研究を深めていくことはできなかったが、コロナ禍で一層そのつながりの大切さを痛感している。そして、そのつながりを可能にしてくれた経団連国際教育交流財団には心よりのお礼を申し上げたい。

(2021年2月掲載)

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