(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

私の中のドイツ流

木内 達也 (きうち たつや)
2023年度奨学生
慶應義塾大学からドイツ/ブラウンシュヴァイク工科大学に留学

研究対象のハエと宿主植物
同僚とのクリスマスマーケット
(筆者左から二人目)

私は経団連国際教育交流財団のご支援を受け、2023年度春よりブラウンシュヴァイク工科大学の博士課程へと留学した。

私の研究対象はハエが分泌するフェロモンである。フェロモンとは生物間コミュニケーションに用いられる化学物質であり、種の繁殖促進や危機回避を目的として分泌される。一方、生物の過剰な増加は人間に甚大な被害を与えることがあり、その一つとしてハエによる農作物被害が挙げられる。当研究ではハエが分泌するフェロモンの化学的な構造解明とそれを駆使した生物間コミュニケーションへの介入により、圃場におけるハエの数の制御、さらには農業生産性の向上を目的としている。私は研究設備と知見が備わっているSchulz教授の基で研究を行うためにドイツのブラウンシュヴァイク工科大学を選択した。

望んでいた研究を開始出来たのも束の間、ドイツ生活は初めから波乱に満ちていた。日本の手厚いサポートに慣れきっていた私は、ドイツ滞在三か月にして滞在許可書の問題で国外追放手前まで追い詰められた。自分が行動するしかないという当然の気づきを得て、結局難を逃れることができたが、このような困難さえも今ではよい思い出となっている。

これまでの2年間で多くの縁に恵まれ、3時間休みなく散歩するドイツ人たちと共にし、語り合うことで国際感覚や言語力、足腰が鍛えられた。また、私の住むブラウンシュヴァイクはフォルクスワーゲンの本社から近く、そこで働くために多くの移民が滞在している。移民や難民の受け入れに疑問が投げられる現在、それによる恩恵と問題の両方を抱えているドイツで、様々な人種の友達と議論しその緊迫感を肌で感じることができたのは貴重な経験であった。

異国に身を置くことで学びがある一方、多くの葛藤もあった。例えば、ドイツ人の働き方である。ドイツの博士学生は大学から給料をもらっていることもあり、きっちりと9時に研究室に来て17時に帰宅する。これは私が日本で想像していた研究漬けの博士生活とは大きく異なるものであった。初めはドイツ流の生活に従った方がいいのではと渋々研究を切り上げることもあったが、現在は自分が何をしたいのか、周囲の目を気にせず意思決定をすることができるようになった。そしてそれが、図らずも主体性が高いドイツ流なのかもしれない。

今後の二年間で、私は博士論文を仕上げる予定である。留学の基盤を固めることができたのは、財団からの手厚い支援があったからである。改めて感謝の意を示したい。

(2025年5月掲載)

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