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旅行先のリヨンで(筆者左)
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私は経団連国際教育交流財団のご支援を受け、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)へ留学し、三年間にわたりパリで研究生活を送った。私の研究対象は17世紀フランスの政治家・聖職者であるレ枢機卿であり、彼が著した歴史物語『フィエスクの陰謀』、フロンド期に執筆した政治パンフレットであるマザリナード、そして晩年の『回想録』を分析し、文学・政治・宗教を横断する英雄表象の変遷を明らかにすることを目的としている。本研究は文学研究と歴史学を横断する学際的な性格を有し、とりわけ大半が匿名で書かれたマザリナードを扱うためには、文芸事象の歴史研究と学際研究の蓄積が豊富な研究環境が不可欠であった。そのため、学際研究グループGRIHLの主催者の一人であるダイナ・リバール教授のもとで研究を進めるべく、EHESSへの留学を志望した。
留学期間中は博士論文の執筆を中心に研究を進め、レ枢機卿の自己表象が固定的なものではなく、歴史的状況の変化に応じて絶えず形成・変容する動的な過程であることを明らかにした。その結果、彼の語りは単なる歴史の記録ではなく、「事実」と「真実」をめぐる問題と深く関わりながら、自らを歴史の記録者であると同時に構築者として位置づける営みであったことを示すことができた。現地で豊富な史料や先行研究に直接触れ、日常的に議論を重ねられたことは、研究の進展にとって何よりも大きな財産となった。
留学生活の中で最も印象深かったのは、研究進捗の口頭試問である。試問では、フランスでの指導教官であるリバール教授に加え、大阪大学の指導教官である山上浩嗣教授、さらに歴史学者クリスチアン・ジュオー氏にも審査にご参加いただいた。特にジュオー氏との議論は忘れ難い経験である。高校生の頃、高大連携プログラムで初めてマザリナードという史料に出会った際、担当の先生からいただいた抜粋が、ジュオー氏の著書『マザリナード─言葉のフロンド』の日本語訳であった。その著者ご本人から、現在取り組んでいる博士論文について直接助言をいただく機会を得られたことに、不思議な巡り合わせを感じた。試問は予定を大きく超える約二時間に及び、日仏双方の指導教員に見守られながら活発な議論を重ねることができた。その時間は、自らの研究の原点を改めて見つめ直すとともに、博士論文完成に向けた課題と展望を具体的に得ることのできた、大変貴重な機会であった。
財団からのご支援によって、生活面の不安なく研究に専念できる環境が整い、当初の予定より一年早く博士予備論文を提出し、合格することができた。現在は学位論文も順調に執筆が進み、今後一年以内に大阪大学へ提出する予定である。留学を通じて得た研究上の知見や国際的な人的交流を今後の研究活動へと還元し、アカデミアの一員として初心を忘れることなく、自らの関心を原動力に研究を積み重ね、人文学の発展に少しでも貢献していきたい。
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フランス国立図書館で
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EHESSのラスパイユ本部
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(2026年7月掲載)