(公財)経団連国際教育交流財団産業リーダー人材育成奨学生留学報告

フランスでの博士研究生活

宇多田 悟志 (うただ さとし)
2017年度奨学生
早稲田大学大学院からフランス/ISAE-ENSMA(機械航空高等国立大学)に留学

2018年9月 英オックスフォード大学で開催された
Eurosuperalloys2018国際シンポジウムにて。
筆者右端、指導員のJonathan Cormier准教授は中央。
フランス空軍所属のラファール戦闘機。
スイスの山間部モリスで行われた航空祭にて撮影。

私は2017年10月よりフランス・ポワティエにあるISAE-ENSMA(機械航空高等国立大学)の博士課程に在学している。フランスの航空宇宙複合企業サフラングループの航空エンジン部門であるSafran Aircraft Enginesとの共同研究プロジェクトに参加し、Jonathan Cormier准教授の指導の元、「室温において塑性変形したNi基単結晶超合金の高温特性評価」という題目で博士論文研究を行っている。Ni基単結晶超合金は主に航空機用ジェットエンジンのタービン翼に使用される耐熱材料で、製造工程で意図しない塑性変形(損傷)が発生した場合のタービン翼の耐久性を様々な観点から評価するのがプロジェクトの主目的である。塑性変形がおこった場合も製造工程に熱処理を追加することで部品が引続き使用可能であることを証明し、研究論文とは別に特許を出願することもできた。現在は博士論文を執筆しており、順調に進めば2020年10月までに学位取得予定である。

博士論文研究では一部実験をオハイオ州立大学(アメリカ)に協力してもらい、それ以外に物質・材料研究機構(日本)、北京科学技術大学(中国)、マックス・プランク研究所(ドイツ)、サンパウロ大学(ブラジル)との共同研究に参加するなど、研究活動では様々なチームと交流を深めている。機械・航空産業で高い技術力を持つフランスは企業と研究機関が上手く連携しており、それに欧州連合(EU)の枠組みもあって欧州を中心とした国際共同研究開発が非常に盛んである。国単位では日本の科学研究が劣っているとは思わないが、欧州では各国が得意な技術や分野で参加することで研究開発を加速させていると感じた。

交流の機会が多く得られたことで幸運なことに、博士課程修了後は耐熱金属分野で著名な英国オックスフォード大学 Roger Reed教授の元で博士研究員として研究活動をすることになった。Reed教授は島根県の産官学プロジェクトを始めとした日本のプロジェクトに複数参加しており、日本の産業に関わりたいという私の希望に合致する良いポジションを得ることができた。研究者としての専門性を高めつつ、外から日本の産業に関わることで知見を広げていきたいと考えている。

フランスを留学先に選んだのはCormier准教授とSafranの研究であるというのが理由だが、非英語圏での生活自体も得難い経験であった。文化、社会保障、税制、労働環境、言語など、住んで体験しないと分からないことがとても多かった。元々飛行機が好きで研究分野を選択したが、航空文化が庶民的で広く親しまれており、大小様々な航空祭を観に行くことができたのも欧州に来て良かったと思える部分である。経団連国際教育交流財団の支援があったからこそ、金銭面での不安なく留学生活を送ることができた。これまでの支援に感謝するとともに、これからは立場に囚われず日本の経済・産業の発展に貢献することで恩返ししたい。

(2020年3月掲載)

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