(公財)経団連国際教育交流財団産業リーダー人材育成奨学生留学報告

オックスフォードでの留学生活について

岸上 知志 (きしがみ さとし)
2017年度奨学生
慶應義塾大学からイギリス/オックスフォード大学に留学

Exeter Collegeの敷地内から
オックスフォードの象徴である
Radcliffe Cameraを背景に撮影

留学中の研究内容

私は2017年10月から英国のオックスフォード大学化学科大学院において、細胞内のタンパク質の挙動を観測するための新技術の開発に取り組んでいる。タンパク質は生命を構成する最も基本的な有機体の一つであり、その構造と機能を理解することは、医薬品の開発において極めて重要な課題である。特に、近年の急激な高齢化の進展によって世界的な問題となっているアルツハイマー病に代表される神経変性疾患に対する有効な治療法の開発には、これらの病の原因とされる特定のタンパク質が神経細胞内で異常に蓄積して毒性を有するアミロイド繊維を形成する過程を高感度にモニタリングする手法が不可欠である。私は、これまでは困難であった細胞内でのタンパク質の原子レベルでの構造変化の観測を特殊な二次元核磁気共鳴法の実用化によって可能にすることを目指している。目標の実現までの道のりは険しいが、ゆっくりとではあるものの確実に成果が出てきているので、諦めることなく挑戦を続けたいと考えている。

留学中に心に残ったエピソード

オックスフォードでの大学院生活を送る中で、研究や学業以外に強く心に残ったことは、所属しているカレッジでの思い出と、ケンブリッジ大学との対抗戦にも出場したOxford University Ultimateでの活動の二つである。オックスフォードの学生は専攻や学科といった枠組みの他に、カレッジにも属する。筆者の所属であるExeter Collegeはオックスフォードの中でも四番目に古い歴史を有し、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作「指輪物語」の作者であるJ・J・R・トールキンも学んでいたカレッジで、彼の半生を描き、ちょうど私の留学中に公開された映画「Tolkien」の撮影にも中庭や食堂が使用されていたことが印象に残っている。学期毎にカレッジに所属する学生同士が交流するための晩餐会なども催され、プレッシャーの多い研究生活の苦労を分かち合うことができる貴重な友人と出会うことができた。自分の専門分野以外の領域において深い見識を有し、かつ多様なバックグランドを持つ世界各国の出身者と語り合える機会は、大変有難いものであった。

Exeter Collegeに所属する大学院生が一堂に会した晩餐の際に中庭で撮影された集合写真
(前から三列目の右から六人目が筆者)

さて、実験などの為に普段は室内に籠りがちになってしまう理系の学生にとって、英国らしい芝生に恵まれたグラウンドでスポーツを楽しむのはとても良い息抜きになる。私の場合はOxford University Ultimate Frisbee Teamに所属し、学期中は平日の早朝と週末の午後の練習で汗を流すことが日課であった。幸運にも、オックスフォードの伝統的なライバルであるケンブリッジ大学との年に一度の定期戦にも出場することができ、本当に有意義な経験となった。

私が出場したUltimate Frisbeeのオックスフォードvsケンブリッジ対抗戦での集合写真
(左から三番目が筆者)

近況と今後の目標

現在も私は英国にて研究を継続しており、これから更なる研鑽を積む予定である。オックスフォード大学において研究を行う機会を得ることができたのは、貴財団からの暖かいご支援があってのことであり、関係者の皆様には心より深く感謝を申し上げる。私の留学報告は以上である。

(2020年3月掲載)

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