(公財)経団連国際教育交流財団産業リーダー人材育成奨学生留学報告

Milestone

横山 恵利香 (よこやま えりか)
2018年度奨学生
京都大学法学部からイギリス/オックスフォード大学院社会学部に留学

入学式の儀式「Matriculation」の後
Trinity Collegeの友人らと (前列右が筆者)
学生新聞 The Oxford Student
編集チームと(前列一番右が筆者)

極東情勢や社会保障制度、女性の権利や労働問題…。日本や東アジアで今起きている出来事を、世界中のオーディエンスに向け発信したい―私は高校生の頃から、グローバルな舞台で活躍できる報道記者を志していた。そして、その夢への第一歩として私は「メディアの社会的影響力」について深く学びたいと考えていた。

留学の概要

2018年10月から1年間、私は英オックスフォード大学院社会学部に留学し、ソーシャルメディア(SM)について研究した。TwitterやFacebookをはじめとするSMは近年、ジャーナリズムを語る上でも欠かせない媒体となっている。いまや世界中で約44億人が利用するSM。私はSMの社会的影響やその可能性と限界を探究した。

修士論文は、インターネット研究所のNeff教授のもと「Twitter上で攻撃対象になりやすいのはどのような属性を持つ人か」というテーマで執筆した。日本のオピニオンリーダー20人のツイート200件と、それに対する一般ユーザーのコメント7,300件を定量的・定性的な研究手法を組み合わせ分析した。その結果、日本のTwitterではリベラル派の女性政治家が誹謗中傷や否定的なコメントを受け取りやすいということを証明した。

本研究では、プログラミングや統計学のソフトウェア、センチメント分析など多様なスキルが求められた。学部生時代全く異なる分野の学問を履修した私にとって初めて学ぶものばかりだった。1年間という短い期間に、授業の課題に追われながらこれらを学ぶのは非常にハードだったが、教授や先輩、友人たちからの応援もあり、無事に研究をやり遂げることができた。

学問以外の活動

オックスフォードでは、学業以外にも多くの特別な体験をすることができた。その中でも特に印象に残っているのは学生新聞チームThe Oxford Studentでの活動だ。私は新聞チームに1年間所属し、毎週記事を書き続けた。当初イギリス人がほとんどだったチームに、英国文化に馴染みがなく言語もおぼつかない日本人が突然加わったことは、大きな混乱を招いたようだった。しかし、活動に携わろうと必死な私をチームは温かく迎え入れてくれた。メンバーと対話を重ねるうちに、当初イギリスのローカルニュースで溢れていた紙面に国際面が加わり、マイノリティを特集した記事の連載なども始まった。

特に、調査報道部のチーフとして活動した最終学期には、留学生の学費の値上げに関するスクープ記事が一面に掲載された。圧倒的な「部外者」だった私が、チームに徐々に溶け込めたこと、そして「部外者」であることを生かし、新しい視点をチームに提供できたことは大きな自信につながった。

今後の進路

私は卒業後、米通信社で速報部の記者として勤務している。主に政治経済とビジネスニュースを担当し、英語で記事を執筆している。株価の推移や決算資料などから必要な情報を瞬時に読み取ったり、政府高官の発言を翻訳したりしながら、世界各地の読者に向けニュースを発信している。オックスフォードで学んだ様々なテクニックが役立っていると感じる場面も多い。ただ、株や国債、財政など初めて学ぶことも多く、勉強の日々は続いている。

現在の自分があるのは、間違いなくオックスフォードでの日々があるからだ。時に投げ出したくなるくらいに多忙で過酷だった1年間は、ジャーナリストの夢へと一歩踏み出させてくれた。経団連国際教育交流財団の皆様に心から感謝いたします。

(2020年3月掲載)

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