(公財)経団連国際教育交流財団産業リーダー人材育成奨学生留学報告

オランダでの研究留学生活

竹内 麻智 (たけうち まち)
2018年度奨学生
慶應義塾大学大学院からオランダ/アイントホーフェン工科大学に留学

私は2018年度よりオランダ・アイントホーフェン工科大学化学工学・化学科にて、博士課程の学生として研究に取り組んでいる。日本で修士課程を修了し、「研究者として海外で経験を積みたい」という想いでオランダでスタートを切ってから早くも3年弱が経つ。今回はこれまでの私の留学生活について報告する。

留学中の研究内容の紹介

クライオ電子顕微鏡を用いた試料観察技術の
習得のためのトレーニング。(筆者は右側)

牛乳やマヨネーズなどに代表される食品エマルションは、私たちの生活に欠かせない。しかし、これら食品エマルションは脂質酸化を起こし、酸化によって生成する物質は味の劣化を引き起こすだけでなく食品の栄養価にも影響を与えかねない。これまで酸化を防止する方法として抗酸化剤などの食品添加物の使用や真空パック包装が用いられてきたが、これらの方法に依存せずより持続可能かつ自然な方法で脂質酸化を理解および防止することは食品業界のみならず科学研究においても長年の重要な課題であった。

そこで私の研究では食品エマルションがどのようにして脂質酸化を起こすのか、そのメカニズムの根底を解明するべく最先端の光学・電子相関顕微鏡法を用いて調べることに取り組んでいる。これまで私は主に食品エマルション中の主要なタンパク質に着目し、それらが脂質酸化に与える影響を研究してきた。

留学生活を振り返って

私は、私たちの生活で最も重要な要素の一つである「食」の基礎研究に携わりたいという想いから、世界でも屈指の食品・農業科学研究を行っているオランダでの留学を決めた。しかし、留学当初は修士課程とは全く異なる分野だったこともあり指導教員や共同研究先の方々とのミーティングの内容の濃さとスピードの速さに圧倒されディスカッションについていくのに必死だった。彼らと対等に深い意見交換ができる自分になりたいと思い、食品化学だけでなく物理化学・コロイド界面化学・生物化学など、研究に不可欠なあらゆる分野の勉強と最先端の電子顕微鏡の習得を並行して行った。また、ミーティング以外でも分からないことや思ったことを怖じ気ずに質問することを心掛けた。日々の積み重ねを経て、今では自分の研究の土台が固まり博士論文への道が明確になっている。

オランダでの留学生活を通じて自立した研究者としての一歩が踏み出せたと感じている。何より日本と異なる環境に身を置いたことで、自分を軸にした決断や考えが持てるようになった。また、多様な国から構成される欧州での学会やワークショップを通じて様々なバックグラウンドをもつ人々と繋がりをもつことができた。これらの出会いを通じて自分がこれまで気づかなかった視点から物事を考える機会に恵まれたことは人生で最も大きな財産の一つだと思う。

オランダの博士課程は約4年間でありまだ道半ばである。焦らず一歩ずつ前進し、一喜一憂せず粘り強く腰を据えて研究を進めていきたい。

オーストリアにて行われた電子顕微鏡ワークショップ
での参加者の集合写真。(筆者は下段左から二番目)

今後の目標

博士号取得後は、留学中に学んだ知識と経験を生かして持続可能な食の発展に携わる研究を続けていきたいと考えている。
最後に、素晴らしい環境で自分の夢を追求する機会を与えてくださった経団連国際教育交流財団の皆様に心より感謝申し上げます。

(2021年2月掲載)

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