[ 経団連 | 会長からのメッセージ ]

第38回日米財界人会議における今井会長スピーチ

−日本の政治経済状況−

2002年2月17日(日)
於 The Ritz-Carlton Hotel, Washington, D.C.

1.はじめに

ご紹介ありがとうございます。
私に与えられましたテーマは「日本の政治経済状況」です。時間の制約もございますので、小泉政権の目指す構造改革、日本経済の現状、不良債権処理の問題、そして地球温暖化問題への対応、の4つに絞ってお話しをさせていただきます。

2.小泉政権の目指す構造改革

小泉政権は、昨年4月の発足以来、常に80%前後という高い支持率を誇ってまいりました。しかし先般のアフガニスタン復興支援国際会議に対するNGOの参加拒否問題を発端とした田中前外務大臣の更迭を機に、支持率は急落いたしました。これは、田中前外務大臣が国民的に人気の高い大臣であったことと、国民の多くは、今回の問題については田中前大臣には落ち度はなかったと考えているからだと思います。
しかし急落したとは言え、小泉内閣に対する支持率は50%を越えており、歴代内閣と比較すれば依然として高く、国民の改革への期待は決して衰えてはおりません。また小泉総理も、様々な抵抗はあっても改革を断固として推進していく姿勢を明らかにしております。私共経済界も、小泉総理のこの姿勢を全面的に支持したいと考えております。
そもそも、小泉内閣が目指しているのは、規制や特殊法人などを通じて国家が経済運営の中心に関与する現在の政治経済システムを、民間や地方主体のシステムへと抜本的に改革することであります。
わが国では、明治維新以来、100年以上、国家が主役として経済を引っ張る国家主導型の経済モデルで発展してまいりました。その間、企業も個人も何かと言えば政府に頼み、政府も面倒見よくそれらの要望に応えてきました。
しかし日本は欧米諸国へのキャッチアップを終え、また世界は、モノやカネのみならず、人や企業が国境を越えて自由に移動するグローバリゼーションの時代に入りました。こうした時代においては、官主導のシステムはむしろ発展の足枷となっており、民主導の下で個人や企業が自由に活力を発揮できる体制の整備が急務となっております。
そこで小泉総理は、「民間で出来ることは民間に任せて、政府の役割は出来るだけ小さくする」という基本的考えに基づき、規制緩和や民営化を進めると共に、公共投資や官による事業をできる限り減らす改革を実施しようとしています。同時に、個人や企業には、自己責任と政府からの自立を求めています。
こうした変化は、日本における100年単位の大きなパラダイム・シフトであるため、与党内においても強い抵抗が存在します。しかし、冒頭申し上げました通り、国民も経済界も、小泉改革が時代の要請であることを肌で感じとり、失業等の痛みや応分の負担が求められるとしても、小泉政権による「聖域無き構造改革」の断行を強く支持しております。

3.日本経済の現状

次に、日本経済の現状について申し上げたいと思います。
わが国経済は、IT関連財の需要低迷などを背景とする世界経済の減速の影響を受け、2000年10月頃をピークに景気後退局面に入りました。
残念ながらこれ迄のところ、内外需とも低迷しており、実体経済は悪化を続けております。他方、金融・為替市場では、銀行株を筆頭に株価は下落を続けており、国債市況も軟調な上、円安と「トリプル安」の状況にございます。不良債権処理に明確な方向性を打ち出すなど、株価が反転するような施策が取られなければ、3月末にかけて事態はさらに悪化する惧れもあります。経団連が1月に主要会員を対象に実施したアンケート調査では、2002年度(2002年4月〜2003年3月)もマイナス0.6%の成長と2年連続のマイナス成長が予測されております。
わが国では先の森内閣までは、景気が悪くなると、財政拡大によってこれを下支えしてまいりました。しかし公共事業を中心とする従来型の景気対策では、一時的な景気浮揚効果しか得られず、自律的な景気回復には結び付きませんでした。その間にも、国と地方を併せた債務残高は増加を続け、来月末には675兆円、GDPの130%を越える見通しで、先進7カ国の中でも最悪となっております。
また日銀による金融政策も、量的緩和の拡大に努めているにも関わらず、銀行から企業への貸出しの増加には繋がっておらず、景気浮揚の効果はあがっておりません。
こうした閉塞状況から脱却するためには、政府、民間がそれぞれ抜本的な改革を断行することが不可欠であります。

4.不良債権処理のスピードアップ

民間が取り組むべき喫緊の課題は、銀行の不良債権処理であります。この問題の解決なくしては、日本経済の新たな成長は不可能となっております。
日本の銀行はこれ迄、75兆円の不良債権を処理してまいりましたが、それでも不良債権は減らないばかりか、むしろ増えている状況です。不良債権の速やかな処理なくしては、日本の金融システムや経済に対する内外の不信は払拭出来ません。そのためには、金融庁による主要行に対する検査の強化等を梃子にして、金融機関による不良債権処理を一層スピードアップする必要があります。その際、今回強化されたRCC(整理回収機構)による不良債権の買取を活用すると共に、銀行の体力が不良債権の償却の足枷となる場合には、銀行に対する公的資金の注入もためらうべきではないと考えます。また、不良債権処理はデフレ解消と一体のものとして実現していく必要があり、さらに思い切った金融の緩和も進めなければなりません。なお、4月からペイオフが一部解禁されますが、万一の場合は、政府、日銀は万全の策を取る仕組みになっており、金融システムが不安定になる惧れはないと思います。
また不良債権処理と表裏の関係にある、サプライサイドの過剰設備、過剰債務の問題も解決しなくてはなりません。その過程で、過剰な債務を抱えなかなか再建の目処のたたない企業に対しては、痛みを伴うものの、早期に市場からの退出を促すことなども必要でありましょう。さらに企業は、これ迄以上のスピードで不採算部門を切り離し、経営資源を高収益部門に重点投入したり、新産業、新事業を創出していくことが重要です。

5.地球温暖化問題への対応

最後に、地球温暖化問題への対応についてお話ししたいと思います。
COP7で京都議定書の運用ルール等についての合意が成立したことを受け、日本政府は現在、本年の締結に向けた国内制度の整備、構築のための準備を本格化させております。
わが国産業界は、1973年のオイルショックを契機に省エネに努め、GDP当たりのCO2排出量は1998年時点で、米国の3分の1、欧州の約2分の1になっております。さらに、1997年に策定した「経団連環境自主行動計画」に基づき対策を推進し、1990年比でCO2の排出量を横ばいに抑えるという当初の目標を既にほぼ達成するなどの、成果をあげております。
今後とも、我々は自主行動計画の透明性、信頼性の向上に努めると共に、自らが課した目標達成に向けて着実に努力してまいる考えであります。
他方、去る14日にブッシュ大統領が新たな温暖化対策を発表したことを歓迎します。
世界のCO2排出量の4分の1を占める米国が行動を起こさない限り、中国、インドをはじめとする途上国の将来の参加も見込めず、CO2削減の実効性はあがりません。今回のアメリカ提案は、産業界の自主的取組みを尊重すると共に、温室効果ガス排出量を経済成長と両立させながら段階的に削減していくという考え方を採用しています。また新技術の開発を強力に支援することとしており、高く評価できます。しかし、米国の削減目標と京都議定書との間には極めて大きなギャップがあり、今後は、これを縮小していかなければなりません。
政府、民間レベルでの話し合いの強化が必要であり、今回の会議においても、効果的な地球温暖化対策について、是非、米国経済界の皆様の忌憚無いご意見を伺いたいと思います。

6.終わりに

これから二日間にわたる会議では、以上の4つの課題を含め、日米両国の直面している諸問題や世界経済の成長に資する方策について、米国経済界の皆様と率直な意見交換を行いたいと考えております。
本会議が実り多い会議になることを祈念いたしまして、私の話を終えたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。

以  上

日本語のホームページへ