[ 日本経団連 | コメント/スピーチ ]

「日本の政治経済状況」

― 第41回日米財界人会議における奥田日本経団連会長スピーチ ―

2004年11月15日(月)
於:帝国ホテル

はじめに

ご紹介いただきました奥田です。
本日、私に与えられたテーマは「日本の政治経済状況」であります。世界規模の大競争の時代にあって、わが国が直面している課題や、活力ある経済社会を実現するための日本経団連の取り組みについて、政治への働きかけも含めまして、お話ししたいと存じます。

1.景気の現状と見通し

まず、足元の景気認識であります。日本経済は、既に後退局面に入ったとの見方もありますが、私は、回復基調で推移していると考えております。
輸出は依然として高水準にあり、また内需も、その太宗を占める個人消費が、雇用情勢の改善や消費者マインドの改善を背景に、堅調な動きとなっております。さらに、設備投資も、企業収益の改善を受けて順調に増加しております。
しかし、先行きにつきましては、手放しで楽観できる状況ではありません。
とりわけ、原油価格の高騰は大きな懸念材料であります。原油価格の高騰は、ガソリンや灯油価格の上昇を通じて、家計に少なからぬ影響を及ぼします。また、世界経済を牽引している米国や中国などの経済が減速することになれば、日本からの輸出にも影響が懸念されます。現在の原油価格は投機によるところが大きいと考えられますが、私は、原油価格が世界経済に与える影響の大きさを考えると、最近の投機的な動きを憂慮しており、一刻も早く鎮静化することを強く期待しております。

2.税制、財政、社会保障制度等の一体的改革

このように、わが国経済は回復基調で推移しているものの、世界経済には依然として不透明な要素が残っており、わが国経済の基盤は、決して磐石とは言えません。
わが国経済が安定成長の軌道に乗り、活力ある経済社会を実現するために、日本経団連は、様々な政策課題に取り組んでおりますが、本日はその中から四点に絞ってご説明いたします。

第一は、社会保障制度の改革であります。
わが国の社会保障制度は、これまで、年金、医療、介護の個別制度ごとに改革されてきました。最近は、給付の抑制と負担の増加という改革を、言わば、場当たり的に繰り返しております。このため国民は、将来の姿が見えず、社会保障の負担はどこまで増えるのか、制度は持続可能なのかという点に強い不満や不信を持つようになっております。第一次ベビーブーマーが75歳以上の後期高齢者となりますのは、2020年を過ぎる頃でありますが、その時代には、高齢者1人を現役世代1.5人で支えることになり、世界でも例を見ない高齢化社会を迎えることになります。そうなる前に、年金、医療、介護等の社会保障制度をパッケージで捉え、税制、財政と一体的に改革することが必要であります。わかりやすく、また持続可能性を確保できる制度に再構築すれば、国民の不満、不安は解消され、国民に「新たな安心」を与えることができるものと考えます。
日本経団連はそのための提言を、9月21日に発表いたしました。骨子は、第一に、経済の活力を維持するため、税、社会保障負担に財政赤字を合わせた「潜在的国民負担率」を将来とも50%以内に抑制するという目標を堅持すること、第二に、社会保障制度改革のための共通基盤を整備するため、社会保障共通の個人番号と個人別の会計を導入すること、第三に、個別の社会保障給付の合理化策を実行することであります。
この実現のために、政府に設けられた各種の審議会や会議などにおいて、働きかけているところであります。

3.技術革新の推進と産学官の連携強化

第二は、技術革新の推進と産学官の連携強化であります。資源に乏しいわが国が、持続的な経済成長を遂げるためには、技術革新を促進することが不可欠であります。現在「科学技術創造立国」を目指して、官民挙げて様々な政策が展開されておりますが、とりわけ、知の創造拠点である大学とその活用・産業化を担う産業界の連携強化がわが国の国際競争力強化のために不可欠であります。
日本経団連では、ここ数年、関係省庁や大学、研究機関等と共同で「産学官連携推進会議」を開催するなど、連携強化に向けた取り組みを積極的に展開しております。多様化、高度化する研究開発の世界で、中期的、国家的視点に軸足を置いた基礎研究や基幹技術開発に取り組む大学、研究機関と、プロセス・イノベーションや社会のニーズを先取りしたプロダクト・イノベーションを進める産業界が、互いの役割を認識し、責任を持って進んでいくことが重要であると思います。
私は、産学官が自由な発想をもってそれぞれの改革に取り組むことで、多様性のダイナミズムが発揮され、国全体の研究開発力が強化されるものと確信しております。

4.東アジアにおける経済連携の強化と自由貿易の促進

第三は、東アジアにおける経済連携の強化と自由貿易の促進であります。
経済のグローバル化が急速に進展する中、全ての国の企業にとって、貿易・投資をはじめとする国境を越えた経済活動が、自由かつ円滑に展開しうる制度的基盤が不可欠であります。そうした観点から、わが国は、WTOを中心とする国際通商体制の強化に取り組むとともに、わが国にとって重要な国・地域との間で、高度で包括的な自由貿易協定(FTA)の締結を目指しています。
既にわが国は、シンガポールとの間でFTAを締結したほか、メキシコとのFTAも大筋合意し、来年には発効する運びとなっております。今後は、地理的にも近く、経済関係も緊密で今後さらなる成長が期待される東アジアを重要戦略地域と捉え、FTAを早期に締結していく必要があると考えます。
私は、今月はじめ、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアを訪問し、政財界の首脳と懇談して、これらの諸国との間でFTAを締結するための具体的方策について意見交換を行ってまいりました。これらの諸国との交渉に際しては、農水産物の貿易や人の移動の問題など難しい問題を抱えておりますが、互恵的な協定締結に向け、農業をはじめとする国内の構造改革を推進しながら、前向きに取り組んでいくべきであると考えます。
また、東アジアにおいて重要な経済的プレーヤーとして台頭している中国におけるビジネス環境の整備も、東アジアにおける自由経済圏の実現のために重要な課題であります。
中国がWTOに加盟して3年が経過しようとしております。中国政府は、加盟約束の遵守に向けた努力を続けており、わが国経済界はこうした努力を高く評価するとともに、今後もこうした努力が継続・加速化されることを期待しております。

5.地球温暖化問題への対応

第四に、地球温暖化問題への対応です。温暖化対策は、今日、人類が直面する最も重要な地球的課題として、企業にも大きな責任と貢献が求められます。そこで、経団連は、1997年に環境自主行動計画を策定し、50を越える業界団体の参加を得て、二酸化炭素の排出削減に積極的に取り組んでおります。しかしながら、民生や運輸部門の二酸化炭素の排出量が伸びていることから、日本政府が京都議定書で約束した、2008年から2012年までの温室効果ガス排出量の1990年度比マイナス6%削減の達成は、非常に厳しい状況にあります。
今月5日に、ロシアのプーチン大統領が批准法案に署名したことから、来年2月にも京都議定書の発効が見込まれております。こうした中、政府の一部から、環境税や国内排出量取引といった、企業活力を大きく損ないかねない対策の導入が提案されており、日本の産業界は、それらに強く反対しているところであります。
京都議定書の目標達成はもちろん重要でありますが、温室効果ガス排出量の削減には、地球規模での取り組みをさらに強化していく必要があります。来年から、ポスト京都議定書、すなわち2013年以降の国際的な枠組みのあり方に関する議論が本格化いたしますが、新たな枠組みにおいては米国や中国、インド等の主要国の主体的な参加が不可欠であると考えます。
私は、経済成長を犠牲にしなくとも、温室効果ガスの排出量は必ず削減できるものと確信しております。そのためには、技術の革新・普及や途上国への移転をはじめ、あらゆる産学の知見や経験を動員した取り組みが必要であります。日米両国の経済界の間で連携・協力を強化し、気候変動問題におけるイニシアティブを発揮していきたいと考えております。

6.政策本位の政治の実現

以上のような政策課題を実現するには、政治と経済が車の両輪となって取り組むことが必要であります。
そこで、日本経団連では、政治に対して積極的に政策提言を行うとともに、政党の政策立案やその推進に必要なコストについては、企業の社会的責任の一端として、会員企業に対し、これ迄以上に自主的に政治寄付を行うよう呼びかけております。
この10年、わが国をとりまく国際環境は大きく変化いたしました。経済のグローバル化の中で、一国経済の盛衰がその国の法律や制度に左右される度合いがますます大きくなっております。企業は国際競争力の強化に向けて、経営刷新や研究開発などに懸命に取り組んでおりますが、そうした努力が報われるためには、企業活動を支える法律や制度面のインフラがきちんと整っていることが前提となります。
そのための改革に責任を持つのが政治であります。わが国のような、議会制民主主義のもとでは政党の果たす役割が大きく、世界経済の急激な変化を踏まえたスピード感のある政策立案とその実現が求められます。
政党の政策立案・推進能力を高めるような政治のインフラ整備に資金面から協力するため、経団連では「民主導の経済社会の実現」のために重要と考えられる10の優先政策事項を決定し、それらに基づいて、政党の政策やその実現に向けた取り組みや実績を評価いたしました。会員企業に対しましては、それを参考に、自主的に政治寄付を行うよう奨励しております。
わが国では、自民党、民主党による二大政党制への流れが生まれつつあり、政策討議の活性化が期待されておりますので、我々の政治寄付が、政策本位の政党政治が実現される力となることを期待しております。

終わりに

二日間にわたる本会議も、後半のプログラムを迎えております。日米両国の経済人が集い、率直な意見交換を行うことで、直面している諸課題の解決に繋がることを祈念して、私の話を終えたいと思います。
ご清聴、有難うございました。

以上

日本語のホームページへ