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日本の政治経済状況

−第43回日米財界人会議における御手洗日本経団連会長スピーチ−

2006年11月12日(日)14:45〜15:00
帝国ホテル 3階 富士の間

はじめに

ご紹介いただきました日本経団連会長の御手洗です。本日、私に与えられた議題は「日本の政治経済状況」であります。回復を遂げつつある日本経済の現状と、経済の活力をさらに強化し、日本を魅力的な「希望の国」としていくための課題や日米間の経済連携のより一層の強化、深化について、お話ししたいと存じます。

日本経済の状況

日本経済は、失われた10年といわれた長い低迷期をようやく抜け出し、着実に回復を続けております。企業収益は堅調であり、設備投資も増加しております。個人消費の伸びは鈍化しておりますが、雇用情勢は改善しており、いずれ増勢を取り戻すと思われます。米国をはじめとする海外経済の動向等を引き続き注視していく必要はありますが、長年にわたり日本社会を覆っていた閉塞感は確実に拭い去られつつあります。これは、小泉内閣による構造改革の進展と共に、企業による経営革新の努力が実を結んだものであるといえましょう。
しかし、この間に世界では、情報通信技術の革新等によりグローバル化が急速に進むとともに、BRICs諸国に代表されるような新興勢力が目覚ましく台頭し、通商交渉における発言力も著しく増しております。他方、国内では少子化、高齢化が進行し、今後、労働力が不足するおそれがあります。
このような状況の中で、日本は今後、どのような方向を目指すべきでありましょうか。

今後の課題ならびに新政権への期待

ご承知のとおり、わが国では、5年以上の長期にわたり構造改革を推し進めた小泉内閣の後を継いで、本年9月に安倍新政権が誕生いたしました。経済界は、安倍新政権の誕生を心から歓迎しております。
さる10月22日の衆議院補欠選挙での自由民主党の勝利は、安倍内閣による小泉前総理の改革路線の確実な継承を国民も支持し、また総理の中国・韓国への訪問に見られる有言実行、北朝鮮への機敏、かつ毅然たる対応などが、国民の信頼を得た証と思われます。最近の世論調査でも、内閣支持率は約70%と高い水準にあります。

私は本年5月に経団連の会長に就任した際の挨拶の中で、日本を「希望の国」にしたいと申し上げました。私の掲げる「希望の国」とは、単に技術革新にとどまらない社会システムのイノベーションにより、持続的な経済成長を遂げ、国民が豊かで幸せな暮らしを送ることができる国、そしてセーフティネットが整備され、国民が公平なチャンスに恵まれ何度でも再チャレンジできる国、また国際的にも尊敬され、親しまれる国であります。これは安倍総理が提唱する「美しい国」と軸を一にするものです。安倍内閣には、小泉前政権に劣らない長期政権を維持して、「美しい、希望の持てる」日本を実現していただきたいと存じます。

イノベーション

そこで、日本が「希望の国」になるために挑戦していかなければならない諸課題と、新政権に対する要望について、お話したいと思います。
この「希望の国」を実現するためには、第一に、日本が今後とも安定的な経済成長を達成することが前提となります。日本が激化する国際競争を勝ち抜き、引き続き成長を続けるためには、イノベーションにより常に新たなコンペティティブ・エッジを保持していく必要があります。資源の乏しい日本においては、省エネルギーや環境関連の技術などの強みを活かして国際競争力をさらに高め、高付加価値産業に軸足を移していくことが求められます。
そのために新政権には、従来からの「科学技術創造立国」の構想を実現すべく、夢のある国家プロジェクトを牽引力として、新商品や新サービス等のイノベーションを継続的に実現していくシステムを、税制や財政、規制改革などすべての施策を動員して、構築していただきたいと思います。

社会保障制度

第二に、国民が希望を持って生きるためには、将来に対する不安を取り除くことも重要です。その観点から、何と言っても社会保障制度の問題を解決しなければなりません。高齢化の進行に伴い、社会保障給付が急速に伸びております。このままでは、世代間の不公平は拡大するとともに、将来世代に過度の負担を課すこととなります。
新政権には、国民生活のセーフティネットである社会保障制度を将来にわたり持続可能なものとするために、給付と負担のバランスを図り、社会保障の役割を個人で対応できないリスクに限定するといった、思い切った見直しを進めていただきたいと思います。

貿易自由化(WTO、EPA)

第三に、世界の人々から尊敬され、親しまれる国になるために、世界の安定と発展に積極的に貢献していかなくてはなりません。日本は、GATT時代からの自由貿易体制の恩恵を享受して、今日まで経済発展を遂げてまいりました。
今後も、日本の、そして世界の経済の安定的な成長のために、この多角的な自由貿易体制を維持・発展させていかなくてはなりません。経団連では、GATT時代より一貫して、こうした立場を堅持してまいりました。米国政府には、世界に冠たる大国としての責任を果たすべく、中断しているWTO新ラウンド交渉の再開に向け、力強いイニシアティブを取っていただきたいと思います。日米の経済界は協力して、両国政府に対し思い切った政治決断を働きかけてまいります。
同時に、多角的自由貿易体制を補完するものとして、二国間または地域における自由貿易協定(FTA)、あるいは経済連携協定(EPA)の役割が、近年急速に高まってきております。EPAは、貿易・投資上の障壁を削減しモノ、サービス、ヒト、カネ、情報の流れを円滑にすることで締結国双方の経済にプラスの影響を与えるとともに、さまざまな分野における協力促進を通じて政治面での関係も安定化させます。
日本も、東アジアに重点を置きながら、包括的で質の高い多国間及び二国間のEPAを推進していくべきであります。そのような努力を通じて、広く同地域に経済連携のネットワークを構築することにより、地域の安定と経済発展に貢献し、人々の暮らしを豊かにしていくことが重要です。こうした観点から、経団連は先月、「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」と題する提言を発表し、政府に東アジアをはじめとする諸外国とのEPAの推進を強く働きかけているところであります。

日米関係

しかし、日本の対外関係の基軸は、なんといっても日米関係であります。小泉前総理とブッシュ大統領との個人的な友好関係もあり、日米間にはかつてない良好な関係が続いております。安倍新総理にも、ぜひ前総理に負けない強い信頼関係を、米国との間に築いていただきたいと期待しております。
他方、関係が良好であるからといって、これに安住して良いわけではありません。むしろ関係の良い時期にこそ、将来にわたり連携関係を維持・発展させていくための制度を、しっかり固めておく必要があります。そのための枠組みとして、日米EPAを真剣に検討すべき時期が来ています。
日米という二大先進国が締結するEPAは、従来のEPAの基本形に限定されない、包括的かつ高水準の協定であるべきだと考えます。関税の撤廃にとどまらず、サービス貿易の自由化、投資規制の緩和、安全かつ円滑な人の移動及び物流の実現、知的財産権分野における協力等をEPAの枠組みの下で推進することにより、現存する両国間のビジネス上の問題を解決し、経済関係の緊密化をさらに一歩、進めることが期待されます。また、このような協定が実効をあげれば、他の国々の協定のモデルとなるばかりでなく、多国間交渉にもプラスの影響を及ぼす可能性があります。
言うまでもなく、日米EPAに関しては検討すべき課題が多々あります。しかしEPAがもたらす長期的な政治的・経済的利益に鑑み、両国政府は両国産業界と緊密に協力しながら、検討を早急に開始すべきであります。本日の「日米EPA」に関するパネルにおきましても、日米EPAのもたらす便益についてさらに議論が深まることを期待しております。

おわりに

以上、限られた時間の中で駆け足ではございましたが、日本が「希望の国」になるための課題と期待についてご説明いたしました。私の話をお聞きになって、ご出席の両国経済界の皆様が日本の未来に明るさを見出し、「希望の国」を実現するためにご協力くださることを願っております。本日と明日の会議において、活発かつ建設的な議論が行われることを祈念いたしまして、私の講演を終わらせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。

以上

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