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「日本の直面する課題と今後の経済政策に期待すること」

日本記者クラブ昼食会における御手洗会長講演

2007年11月8日(木) 12時〜13時55分
於:日本記者クラブ 10階ホール

1.はじめに

ただいまご紹介を賜りました、経団連会長の御手洗です。お招きに預かり、大変光栄に存じております。
本日は、「日本の直面する課題と今後の経済政策に期待すること」と題して、日本経済が現在いかなる課題に直面しているか、その中で、経団連がどのように活動しようとしているか、という点につきまして、折角の機会ですので、私が日頃思うところも含めて、率直にお話しさせていただきたいと思います。

ご承知の方も多いと思いますが、経団連では、今年の初めに「希望の国、日本」と題する将来ビジョンを発表致しました。このビジョンは、これからの10年間を見通しまして、わが国を希望の国としていくために、われわれが必要と考える政策課題を取りまとめたものであります。
その中で取り上げた項目は、経済の構造改革をはじめ、通商政策、社会保障制度や財政を中心とする政府部門の改革、雇用問題、地域政策、さらには教育問題など、幅広い分野の課題を、網羅的に取り上げております。経団連は、現在、ビジョンで掲げた政策課題の実現に向けて、組織を挙げて、取り組んでいるところであります。

ビジョンを公表してから、早いものでもう1年になろうとしております。分野によりましては、成果が出始めた課題もあれば、まだまだこれからの課題もあり、いろいろであります。10年間のビジョンの最初の1年ですので、総じて言えば、これから具体化に向けて、さらに取り組みを強化していく、といった課題が大半を占めているといって良いかと思います。
また、どの分野に、どういう優先順位で取り組んでいくかという強弱の付け方も、その時々の情勢を踏まえて変わってくるのは、当然だと考えております。ただし、ビジョンの基本理念につきましては、決して揺るがせることなく、経済界としての信念を持って、今後とも取り組みを強化してまいりたいと考えております。

2.基本理念

そこで、はじめにまず、ビジョンの基本理念、すなわち、われわれ経団連の活動のベースとなる思想は何か、という点について、お話しをさせていただきたいと思います。
これを一言で表しますと、経済全体の成長力を強化しながら、財政の建て直しや、地方の活力強化をはじめ、様々な問題の解決を図り、豊かな暮らしの実現と、国民生活の安心・安全の確保につなげていく、ということであります。これは一見当たり前に見えて、世の中の議論は、必ずしもそうした方向で行われているわけではありません。
むしろ、成長重視か格差是正かなどというように、問題を対立させる議論もあります。しかし、問題を対立構造でとらえる考え方は、往々にして問題の本質をつかみ損ねることも、あるような気がしてなりません。

例えば、企業の経営ひとつとって見ましても、ただ単に売り上げだけを伸ばせば良いとか、あるいは、やみくもにコストを減らせば良いとか、そうした単純なものではないことは明白です。やはり、研究開発でありますとか、人材の育成など、必要なところには、それ相応のコストをかけながら企業自体の成長を図り、かつその中で、適切に利益を確保していけるよう全体のバランスをとっていくということでなければ、きちんとした経営はできないと思います。私は、日頃からこのことについて、「全体最適」を図ると言っております。
この点は、経済や国家の運営を考える上でも同じではないかと思います。もちろん、企業の経営は、まずは利益を確保することが至上命題であるのに対して、経済運営や国家運営にあたっては、国民生活の水準の向上、安心・安全の確保が究極的な目的であろうかと思います。企業の経営と、経済や国家の運営とは、目指す目標こそ異なりますけれども、全体最適を図っていく必要があるという点については、共通するものがあるのではないでしょうか。
逆に、指揮命令系統がはっきりしている企業よりも、意思決定プロセスが非常に複雑で、政策の結果がすべての国民の生活に跳ね返ってくる経済運営こそ、政策の全体最適を図る必要性が、より一層、求められるのではないかと考えております。

ここで重要なのは、最終的な目的意識や価値判断において、共通の基盤があるかどうかということです。もし、目指すべき国のあり方について、共通した基盤がない相手と議論するようなことであれば、方法論の議論ではなく、目的の食い違いということになり、水掛け論や神学論争といった様相を呈してまいります。
幸いにして、これまでに得られました各界の皆様との交流の経験からは、政治と経済を含めた多くの関係者においては、目指している方向性と申しますか、目的の共通化は得られていると感じております。その上で、目的を達成するための政策について、経済環境の変化や国際競争の激化、人口構造の変遷といったさまざまな要素を加味しながら、ベストな選択をするという議論を行っているのだと認識しております。

経団連では、福田新政権の発足後、10月初旬に、自由民主党及び公明党の両首脳陣との懇談会を、それぞれに開催いたしました。これは私の持論ですが、政治と経済との関係は車の両輪であり、国民・社会という日本全体を荷台に載せて前進していく関係にあります。行く手には、山あり谷あり、困難な道が待ち構えております。各党には、いたずらに政局に走ったり、対決姿勢を煽ることで議論の進展を遅らせることなく、国民本位、国益本位の観点から議論を尽くすよう、強く要請致してまいりたいと存じます。
本日ご出席の皆様は、日本記者クラブ会員の皆様方であり、日々生じる事象を、「情報」という形で適時適切に一般市民の方々にお届けになる役割を担っておられます。私も日頃から、記者の皆様と接する機会も多く、そのようなご活躍を間近で見る機会もございます。希望ある日本の将来に向かって、今何をすべきなのかという問題意識について、是非ご理解をいただき、適切な報道について、引き続きのご尽力をお願い致したいと思います。

3.日本経済の三つの課題

さて、ただいま、国家運営の目標は、国民生活の向上と安心・安全の確保だと申し上げました。この観点から、わが国経済がいかなる問題に直面しているか、という点について、本日は、三つの課題に焦点をあてて、経済界としての考え方をお話しさせていただきたいと思います。

まず、第一は、経済の成長力の強化であります。経済全体が着実に拡大していかないことには、国民生活に豊かさをもたらす雇用や所得を十分に確保していくことも、ままなりません。
第二は、生活を支える社会保障制度など、セーフティネットの持続性を確保し、国民の将来不安を解消していくという問題であります。これには、現在危機的な状況に陥っているわが国の財政をいかに立て直していくか、という問題も密接に関連してまいります。
第三は、地域経済の活性化であります。わが国において、中央と地方の間、あるいは、それぞれの地方の間に、経済的な格差が存在することは否定できません。これを解消し、地域の自立を図っていくことは、並大抵の課題ではありませんが、日本全体を豊かな社会としていくためには、何としてもやり遂げていかなければならない課題であります。

4.成長力の強化

そこで、まず、第一の柱である、経済の成長力強化に向けた課題について、申し上げたいと思います。はじめに、現下のわが国経済の状況ですが、幸いにして2002年度以来、5年連続でプラス成長を続けており、基本的には、緩やかな景気拡大が今後も続いていくと認識しております。これは、過去数年来、官民の双方で、構造的な改革に取り組んだ成果であると考えております。
民間部門においては、かつて、企業の足を引っ張っていた過剰設備や過剰債務、過剰雇用などの、いわゆる三つの過剰は完全に解消され、筋肉質の企業体質が形成されております。こうした中で、企業収益は、最高水準を維持しており、多くの企業は、前向きの攻めの投資に乗り出しております。
また一方、政府部門においても、企業活動を支える税制や法制度の見直し、様々な分野における規制改革などが、かなりのスピード感をもって、行われてまいりました。

息の長い景気回復が続いていることで、経済の様々な面にも、プラスの効果が出てきております。例えば、雇用情勢は一時に比べて、かなり改善してきており、失業率はかなり低下してまいりました。労働市場の逼迫度合いを示す有効求人倍率も、全国平均では連続して1倍を上回っております。また、企業収益の改善を受けて、法人税を中心とする税収も上向いてきております。その結果、国の財政も、依然として厳しい状況にはあるものの、最悪期に比べれば、改善がかなり進んできております。
ただし、直近の景気指標を見てみますと、景気のスローダウンを示す兆候も出てきております。高度成長の時代とは異なり、わが国も相当に成熟した経済となっております。景気の回復軌道も、したがって一本調子ではなく、踊り場的な状況を差し挟むことも、十分考えられるわけであります。

しかし、5年間も景気回復が続いたのだからといって、この辺でそろそろ限界だという見方をとるべきではないと考えます。また、そうならないように、民間と政府が力を合わせて、努力していくべきであります。例えば、米国経済の景気回復は、基本的には10年以上も続いており、世界経済の成長を支える原動力となってまいりました。最近は、米国経済も減速気味になっておりますが、来年以降、再び、着実な成長軌道に復帰することが期待されます。
あるいは、英国経済も、サッチャー政権、さらにはブレア政権による改革の継続の成果によって、15年以上の長きにわたって経済成長を続けております。成熟した経済といえども、手綱を緩めず、必要な改革を進めることによりまして、長期にわたる成長を実現することは、十分可能なのであります。

また、この点はわが国固有の問題でございますが、わが国の場合は、デフレが続く中の回復であります。このため、今回の景気回復期間の平均成長率は、実質でみれば確かに2%程度の成長率を達成しておりますが、より生活実感に近い名目の値で見ますと、実に平均0.9%と、1%も伸びていないのであります。経済成長が続いていると申しましても、やはり経済が名目でも拡大していかないことには、生活の豊かさの実感にも、つながってまいりません。
例えば、労働市場が非常に逼迫している割には、賃金の伸び率は芳しくないため、個人消費の動きもいま一つ、盛り上がりに欠けるわけであります。この点は、比較的高い給与をもらっている団塊の世代が、引退の時期に入ったことなどの影響もあると言われております。
しかし、基本的には、物価が安定的に上がっていかない中では、賃金水準もおいそれとは上がってまいりません。物価が下がっているから、実質賃金は上がっているではないかと言われても、ピンとくる人は少ないと思います。やはり、手取りの金額が、少しずつでも上がっていくことが、豊かさを実感できるという観点からも、あるいは、勤労意欲という面からも、重要なことではないでしょうか。

また、経済が名目でも着実に成長していくということは、国民の生活実感への影響ばかりでなく、わが国経済の国際的な地位という面からも、極めて重要な問題であります。それと申しますのも、いま世界を見渡しますと、生活水準を向上させるために、各国が経済成長の実現に向けて、真剣に競い合っております。
一人当たりの名目国民総所得の伸び率を見てみますと、この10年間の平均で、たとえばアイルランドは年平均10%、韓国は6.6%、英国は5.4%、米国は4.3%と、大国か小国か、あるいは成熟国か新興国かを問わず、多くの国々が持続的な成長を遂げております。
これに対して、わが国の場合、10年間で一人当たり所得は、ドル建てでみればほとんど伸びておりません。その結果、わが国の一人当たり所得は、以前は世界の1位、2位を争う水準であったものが、どんどん順位を落とし、現在はOECDに加盟する29カ国の中で、13位にまで落ち込んでしまいました。もはやわが国は、世界で最も豊かな国とは到底言えず、先進国中でまあ並みの水準でしかないわけであります。

以上、いくつか例を申し上げましたが、経済を着実に拡大させていくことが、国民生活の豊かさという点からも、また、わが国経済の国力という面からも、欠かすことのできない要件であることが、ご理解いただけるのではないかと思います。
そこで、わが国経済の成長力を、いかにして高めていくかが問われることとなります。とくにわが国では、今後、少子高齢化が進行する中で、人口が次第に減っていく人口減少社会に突入することが、確実となっております。他方で、経済のグローバル化がますます進み、先進諸国ばかりでなく、中国、インド、ロシアをはじめ、世界各国との経済的競争も、激化の一途をたどっております。また、米国のサブプライム問題を契機とした国際金融市場の混乱といった懸念材料も生じております。
そうした中で、わが国が、持続的な成長を実現していくためには、経済の供給面、需要面、双方からの、総合的な手を打っていく必要がございます。このため、経団連の新しいビジョンでは、新しい日本型成長モデルを確立するということで、総合的な政策パッケージを掲げまして、実現に向けて取り組んでいるところであります。

5.イノベーションの推進

さて、日本型成長モデルの確立に向けた、一番目のポイントは、科学技術を中心とするイノベーションの加速であります。人口の減少が今後も続いていくとしても、労働生産性が向上すれば、経済全体の成長を実現していくことは、十分可能と考えられます。実際に、わが国の生産年齢人口は、すでに10年以上前から減り始めております。したがって、現下の経済成長は、それに打ち勝って実現してきているのであります。
経済の成長力を高めていく上で、イノベーションの強化が欠かせない一方で、イノベーションのための投資は、当然のことながら失敗の可能性も大きく、かなりのリスクをはらんでおります。このため、イノベーションの加速に向けては、これを政策的に後押ししていくことが欠かせません。諸外国におきましても、いかにして、イノベーションを継続的に生み出していくかが、重要な政策課題と認識されております。

例えば、米国では、大統領の競争力イニシアティブにおいて、米国の競争力の基盤は科学技術にあるとの認識のもとに、連邦政府の研究開発投資の拡大、民間研究開発投資の促進、教育・人材育成の政策の強化などが、進められております。また、EUでは、2010年までの包括的政策として、リスボン戦略が策定されるとともに、EU各国においてもそれぞれ、イノベーション政策が強化されております。こうした先進諸国だけでなく、中国や韓国なども、長期的な国家計画を作って強力な取り組みを進めております。
この点、わが国においても、1995年に科学技術基本法が制定され、これに基づく科学技術基本計画が策定されております。現在、第3期目の基本計画が推進されており、ライフサイエンスやIT、環境やナノテクノロジーなどの重点分野を中心に、政府の研究開発施策の充実が図られていることは、経済界と致しましても、大いに評価しているところではあります。
こうした中で、とりわけ、宇宙開発や海洋開発などの分野は、新素材やライフサイエンスなどへの波及も大きく、政府の研究開発プロジェクトとして、今後、より一層、力を入れていくことが重要と考えられます。第3期計画では、5年間で25兆円の政府研究開発投資を確保することを目指しております。厳しい財政状況の中ではありますが、この目標を着実に達成することが期待されます。
それと同時に、予算を細切れに配分するのではなく、米国のNASAの例などを見習いつつ、中核となる拠点を作って資金を重点的に投入し、成果につなげていくことが、予算確保にも増して重要と考えられます。

さて、わが国のイノベーションの特徴は、研究開発費全体において、民間研究開発が約80%と、高い割合を占めていることであります。逆に、政府が負担する割合は20%に過ぎません。米国や欧州主要国では、政府負担が30%から40%と高い水準であります。
こうしたこともあり、わが国では、政府研究開発投資のさらなる充実が求められるわけですが、同時に、全体の80%を占める民間研究開発投資を、いかに促進していくかということが、とりわけ重要な課題であります。
そこで重要となるのが、民間の研究開発を促進する税制の強化であります。科学技術創造立国を国是とするわが国では、研究開発税制の分野でも、世界的にみた場合には、今でもパイオニアの地位にあります。以前は、研究開発費が過去の額を上回った分の一定割合を、税額から差し引くという税制度を持っておりましたが、その後、研究開発費に対して、安定的に税制上の優遇措置を与えるよう、2003年度の見直しで、研究開発費の総額の一定割合、現在の制度では最大10%を控除して、企業の研究開発活動を全体的に下支えする制度となっております。
これに追随して、米国や欧州諸国、中国などでも、相次いで研究開発促進税制の見直しや拡充が行われ、いまや多くの国が、わが国と同様に、研究開発費の総額を対象とする税制を持つに至っております。実のところ、それどころか、わが国の研究開発税制が、各国と比べ劣る部分も出てきているというのが現状であります。例えば、わが国の場合、その年に支払う税額の20%までしか、税額の控除を行うことができません。これに対し、英国や中国、韓国などの研究開発税制には、その上限がなく、いわば青天井で税額の控除を行うことができるのであります。この点は、研究開発が企業の死命を制するようなハイテク型の産業にとりましては、実に競争力を維持する上で、大きな差となっております。
そこで、競争優位を維持する観点から、現行の研究開発税制の仕組みは維持した上で、税額控除の上限を撤廃ないしは引き上げる必要があります。中小企業や地方の活性化を図る観点からも、本年末の税制改正の議論において、最も重要な課題であると考えております。

6.EPA・FTAの締結促進

日本型成長モデルの確立に向けて、イノベーションの推進と並ぶ、二番目の柱が、世界各国との経済連携協定や自由貿易協定、すなわち、EPA、FTAの締結促進であります。経済のグローバル化が進む中で、世界的な市場統合の動きが、加速しております。地域的な市場の統合は、加盟国が27カ国まで拡大するに至ったEUや、北米全域を包含するNAFTAが代表例であります。
これに対し、アジア地域においては、そうした地域統合よりも、二国間あるいは多国間で、EPAを締結し、それを網の目のように充実させていく動きが、最近とみに顕著となっております。各国とEPAやFTAを結ぶことにより、製品やサービスを自由にやりとりできるようになれば、国内の市場が拡大するのと同様の効果を持たらすこととなります。これは、国内の人口が減少していくわが国にとりましては、非常に重要な成長強化策の一つでもあります。
また、EPA・FTAの締結は、韓国や中国も、わが国以上に熱心に取り組んでおり、とくに韓国は、EUや米国とのFTA締結に向けて、着実にコマを進めております。こうした流れの中で、万が一、わが国が遅れをとるようなことがあれば、わが国企業の競争力の確保という点からも、甚大な影響を受けることになりかねません。

経団連では、この1年間、東アジアに重点を置き、とくにASEAN諸国との2国間のEPAの推進に協力してまいりました。その結果、2国間のEPAはおおむね形が整いつつあります。今後は、既存のEPAを、線から面的なものに広げ、東アジアを中心に、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含む形で、できるだけ拡大していく必要があると考えております。
また、EUや米国、あるいは、オーストラリアや湾岸諸国など、わが国にとって重要な経済関係を有する国々とのEPAの締結も、加速すべきであります。私も会長に就任して以来この1年半の間に、延べ18カ国をまわりましたが、相手国に対して、その必要性を直接訴えるとともに、配慮の必要な問題について理解を求めて参りました。経済界としても、政府に要請するだけではなく、各国経済界との連携・対話を強化して、交渉が着実に前進するよう、努力してまいります。

7.企業活動を支える法制・税制の見直し

成長戦略の三つ目のポイントは、企業活動を支える法制度や税制の改革であります。この点につきましては、政府・与党の努力もあり、この10年程度で、相当の改革が行われてまいりました。
例えば、純粋持株会社の設置や、企業再編に関する法制や税制の整備によって、企業組織の再編や統合が、かなり自由に行えるようになりました。多くの業界において、選択と集中の観点から、企業の合従連衡の動きが加速し、今なお続いていることは、皆様もよくご承知のとおりのことと思います。
さらに、商法の抜本的見直しにより、新たに会社法が制定・施行され、企業の形態や組織設計の自由度も、相当に広がってまいりました。この流れの中で、日本においても、これまで通り監査役会を有する株式会社とならんで、米国流に社外取締役の役割を重視する委員会設置会社も、認められるようになりました。

このように、企業活動を支える法制度や税制の改革は、相当程度、進んでおります。ただし、わが国が諸外国に比べ遅れをとっているところを一点挙げるとすれば、それは、法人税率が依然として高止まりしている、ということであります。
企業活動が国境を越えてグローバルに展開する中で、国民の所得や雇用を確保するためには、国内において優れた企業を育むとともに、海外からも質の高い投資を呼び込むことが重要であります。こうした観点から、各国においては、企業活動を行いやすくするための環境整備がどんどん進められておりますが、その流れの中で、法人実効税率の引き下げが着々と進んでおります。例えば、かつて40%近くあった、OECD加盟国の平均税率は、現在28%まで低下しておりますが、わが国の実効税率は依然として40%のままであり、国際的な平均とは10%程度の差があります。
また、財務省の統計によりますと、近年の主要各国の国税収入全体に占める法人税収の割合は、アメリカが約21%、イギリスが約11%、ドイツが約4%、フランスが約15%、イタリアが約9%であるのに対しまして、わが国では、おおむね30%と、非常に高い負担割合となっております。
いくら企業活動が自由に行えるインフラが整っていると言っても、基本となる税率が国際平均からあまりに乖離していては、企業の競争力にマイナスの影響を与えることとなります。また、海外からの投資インセンティブも損なわれることとなりましょう。
厳しい財政事情もこれあり、法人実効税率の見直しを実現するには、国民の理解が必要であることは、われわれとしても、強く認識しているところです。経済界としては、これまで申し上げてまいりましたように、企業の競争力を高めることが、雇用や所得の創出・拡大、ひいては国民の生活水準の向上につながるという点について、幅広い理解が得られるよう、引き続き努めてまいりたいと考えております。

8.セーフティネットの持続性確保

次に、二番目の課題として、社会保障制度を中心とするセーフティネットの問題について、申し上げたいと思います。
年金や医療、介護制度を中心とする社会保障制度は、まさに、国民生活の安心・安全の基盤となるものであります。ここの所がしっかりしないことには、国民は安心して日々の生活をおくることも出来ません。また、老後の暮らしが見通せないようでは、生活態度が保守的、防衛的になり、個人消費をはじめ、経済にもマイナスの影響が出てまいります。さらに、若い世代にとっては、高齢化に伴う社会保障負担の増加によって、将来の生活に対して大きな不安を持たざるを得ないような状況があり、人々が積極的に子どもを産み、育てていこうという気持ちには、なかなかならないのではないでしょうか。

しかし、非常に残念なことに、今、わが国においては、年金問題を契機に、社会保障制度に対する国民の信頼が、大きく揺らいでおります。社会保障制度は、基本的には、国民がお互いに支えあうというところに、制度の基礎を置いております。したがって、社会保障制度そのもの、また、制度の運営主体への信頼が欠如していては、制度全体が崩壊するということになりかねません。ここは、多少は時間がかかったとしても、社会保障制度の全体を抜本的に見直し、誰が見ても大丈夫だ、安心できる、そういうところまで持っていかないことには、国民の信頼を回復することは基本的には不可能だと考えております。

9.給付と負担の関係明確化

まず必要なことは、年金、医療、介護という社会保障制度全体の給付と負担の関係を、国民の一人ひとりが、明確に認識できるような仕組みを作ることであります。
先の参議院選挙で問題となった、いわゆる宙に浮いた年金の問題は、現在、政府において、急ピッチで名寄せなどの作業が進められておりますが、これはこれで、早急に作業を完了させることが重要であります。

しかし、問題はこれだけにとどまりません。そもそも、民間金融機関の場合であれば、預かったお金が誰のものかわからない、などということはありえませんし、そうしたことは、絶対あってはならないわけであります。顧客の側でも、預金通帳を見れば、お金の出し入れは直ちに確認できますし、最近は、インターネットを通じて口座を管理することも、簡単にできるようになっております。
ところが、公的年金をはじめ、国の社会保障制度の場合は、顧客、すなわち国民の側で、幾ら保険料を支払い、それが受け取った側の帳簿にしっかり計上されているかどうかといったことが、わかる仕組みにはなっていないのであります。

この点について、経団連はかねてより、年金や医療、介護を通じた、社会保障制度全体に共通する基礎的なインフラとして、国民一人ひとりが、社会保障に関する負担や給付の状況を明確に認識できる仕組みを導入すべきだと、主張し続けてまいりました。こうしたシステムが導入されれば、社会保障制度に対する信頼性の向上にもつながると考えられます。
これは政府においても議論が進められており、2011年度を目途に、社会保障カードを導入するとの方針が示されております。このような仕組みが早期に導入されるよう、引き続き、政府の取り組みを支援してまいりたいと考える次第であります。

10.制度の持続性確保に向けての視点

このようなインフラ整備の次に問題となるのは、社会保障の制度自体を、将来に向けてどう見直していくかということであります。これは、社会保障に関する給付と負担のバランスを、今後どうとっていくかという、本質的な問題でもあります。
わが国はこれから先、本格的な少子高齢社会に入ってまいりますが、高齢者人口は年3%という早いペースで拡大し、社会保障給付を受け取る側の人数が増えてまいります。他方、今後、社会保障制度を支える現役世代の人数は減ってまいります。そうした中で、いかにして制度を安定的に維持して、国民生活の安心を確保していくかが問われているわけであります。

その際に、考慮すべき視点を、何点か申し上げたいと思いますが、第一は、制度の中長期的な持続可能性を確保するということであります。
まず、社会保障制度は国民生活を支える基本となるセーフティネットですので、その真に果たすべき役割は、しっかりと維持していかなければなりません。この点、わが国の社会保障制度は、今のところは、所得の再分配という面で重要な役割を発揮しております。その結果、わが国においては、所得再分配後の格差は、安定的に推移しております。社会保障制度が弱体化すれば、社会の中における経済的な格差が是正されない、という問題が出てまいります。
しかし、一方で、経済活力への影響も考えなければなりません。社会保障の給付は、税と社会保険料の負担によって支えられております。税と社会保険料負担を合わせた国民負担率があまり大きくなりますと、経済の活力を維持することが出来なくなってしまいます。
経団連で行った実証分析におきましても、国民負担率が高まってまいりますと、貯蓄率の低下や、設備投資の停滞によって、経済成長にマイナスの影響が生じるという検証結果が出ております。高齢化の進展により、社会保障給付が今後増大していくことは避けられません。しかし、国民負担率が過度に上昇すれば、経済の活力が低下し、その結果、肝心の社会保障制度を安定的に維持することも不可能となってしまいます。
こうしたことから、経済活力との関係を踏まえつつ、社会保障制度の持続可能性を確保していくことが、大変重要であります。

二番目は、負担の公平性の視点であります。
社会保障を支える、税と社会保険料負担のうち、所得税などといった直接税と保険料は、基本的には現役世代にかかってくる負担であります。しかし、先ほど申し上げたように、現役世代の数は減ってまいりますので、こうした直接的な負担が増えていくと、世代間の公平性が大いに損なわれることとなります。さらに、働く人々の勤労意欲が減退し、経済活力にも悪影響を及ぼすこととなります。したがって、社会保障に要する負担は、国民全体が広く薄く支えていくことが、望ましいと考えられます。

三番目の視点は、制度のわかりやすさであります。
わが国の現在の社会保障制度は、年金でも医療制度でも、税と社会保険料がそれぞれ、どのような役割分担に基づいて制度が設計されているのかが大変曖昧であります。また、厚生年金と国民年金、あるいは現役世代の医療保険と高齢者医療制度などとの間での資金のやり繰りも、非常に複雑になっており、全体として、極めてわかりにくい制度となっております。したがって、税でカバーすべき範囲、保険料で賄うべき範囲はそれぞれどうあるべきか、また、それぞれの保険制度における給付と負担の関係も含め、制度全体を通して抜本的に見直すことを通じて、国民が明確に理解できるものとしていくことが望まれます。

最後の視点は、財源の安定的確保という問題であります。
制度を将来にわたって安定的に維持していくためには、そのための財源を確保することが欠かせません。現役世代の負担となる保険料を、この先大幅に引き上げることは困難であります。したがって、公費負担の役割を拡大していかざるを得ないと考えられます。しかし、わが国の財政状況が、危機的な状態にあることは、改めて申し上げるまでもございません。
現在すでに、国の一般歳出の約47兆円のうち、約45%の21兆円を、社会保障関係費が占めております。さらに、この社会保障関係費が、現在の社会保障制度を前提に致しますと、実にこれから先、年間1兆円というオーダーで増えると見込まれております。
これを赤字公債の発行により賄うということは避けなければなりません。赤字公債は、現在の受益に対する負担を、まだ生まれていない人たちも含めて、将来世代に付け回すということであります。これから人口が減っていく中で、こうした付け回しが行われれば、われわれの子どもの世代、孫の世代が、大変な負担に苦しむこととなります。
したがって、社会保障制度を安定的に維持していく必要があるとしても、そのことによって、将来世代に過度に負担のしわ寄せが行くことのないよう、財源確保の問題をしっかりと考えていくことが重要であります。
そうした中で、二番面の視点である負担の公平性の問題もあわせて考えますと、われわれとしては、今後、消費税の役割を拡大していかざるを得ないと考えております。
いずれにしても、わが国の税体系の今後のあり方をどう考えるかが、社会保障を中心とする受益と負担の関係を含めた総合的な観点から、国民的な議論を行っていく必要があると存じます。

11.経済界の基本的考え方

以上、セーフティネットの持続性確保を考える上での視点を、四点申し上げました。冒頭で、物事の全体最適を図る考え方が重要であると申し上げましたが、セーフティネットのあり方を議論していく上でも、どれか一つの視点だけということではなく、全体のバランスをとっていくことが重要であります。
私どもの基本的な考え方としては、まず、社会保障の給付面において、質を落とさずに、可能な限り合理化・効率化を図っていく努力をすることが先決であると思います。
例えば、医療保険についてみれば、同じ効用で価格の安い、いわゆるジェネリック医薬品の活用が、欧米諸国に比べ、わが国ではあまり進んでおりません。あるいは、医療部門のIT化も、かなり遅れをとっており、過大な人件費がかかっているのではないかと考えられます。さらに、診療報酬の一層の標準化、包括化を進めていくことも課題となっております。こうしたところを効率化していけば、医療内容の質を落とすことなく、コストの削減を図っていくことは、十分可能であると思っています。

次に、現在議論の焦点が当たっております、公的年金制度の改革について、若干、申し上げたいと思います。
先ほど申し上げました通り、年金制度に対する国民の信頼が低下しているということは確かですので、いかにして信頼に足る制度としていくか、喫緊の課題であります。この点については、このところ政府や国会において、年金改革に関する議論が様々な形で展開されており、経済界としても、議論がさらに深まることを期待しているところであります。
年金制度は、この先も何十年、何百年と存続させていかねばなりません。したがって、経済や政治などの状況がどのように変わろうとも、維持していけるような、しっかりとした制度とすることが重要であります。

この問題に関連して、先ごろ私は、基礎年金の財源を税で賄うことも選択肢の一つであると考えられると申し上げました。あえてこのような発言をした趣旨は、制度の根本的な立て直しを議論する以上、予断を持たず、あらゆる選択肢を含めて検討すべきだということに、尽きるわけであります。
現在の公的年金制度は、基本的には社会保険方式とされております。しかし、基礎年金部分の3分の1は、税金で賄われております。したがって、現在の制度も、3分の1税方式と言うことも出来るわけであります。また、現在の政府の方針では、2009年度に、基礎年金の公費負担割合を2分の1まで引き上げることとされておりますが、仮にこれが実現されますと、半額税方式ということになります。
ただ、現在のわが国の公的年金制度は、税と社会保険料の領域が、非常に入り組んだ形になっており、普通の人には到底理解できないほど複雑化しております。
本日この場におられる皆さんの多くが厚生年金の加入者だと思いますが、しかし、ご自分が毎月支払っておられる保険料のうち、どこまでが基礎年金部分で、どこまでがいわゆる2階部分と言われる報酬比例部分か、また、これらと公費負担の関係がどうなっているのかということを、きちんと理解されている方は、あまり、いらっしゃらないのではないかと思っております。
社会保険方式といわゆる税方式を比べてみれば、それぞれにメリット、デメリットの両方があります。例えば、社会保険方式は、受益と負担の関係が明確になることが基本的なメリットであります。しかし、保険料の未納が拡大したり、負担に応じた給付がきちんと行われないということでは、制度に対する信頼性は低下してしまいます。
もう一方の税方式の場合は、未納の問題は基本的には発生しないものの、国民一人ひとりの立場からは、受益と負担の関係が見えにくくなるという問題もあります。また、生活保護との関係をどう整理するか、また、税金で賄う以上、高額所得者には給付する必要はないのではないか、といった様々な問題も出ています。さらに、現行制度からの移行期において、給付と負担の公平性をどう担保するかという難しい問題もあるかと思います。
それぞれの方式が持つメリット、デメリットをよく吟味した上で、税金が担うべき役割はどこまでなのか、あるいは、保険料の範囲をどうするかを、改めて整理することが必要であります。そうすることこそが、国民の目から見てわかりやすく、信頼性の高い制度を作り上げることにつながるのではないかと、考える次第であります。
経団連としても、年金・医療・介護を中心とする社会保障全体のあり方について、国民の信頼が得られるような安定的で持続性を持った制度としていくために、今後どのような改革が必要か、早急に議論を深め、われわれなりの考え方を世間に問うていきたいと考えております。

12.地域経済の活性化

最後に、成長力の強化、セーフティネットへの信頼回復と並んで、三つ目の重要課題として、地域経済の活力向上を取り上げたいと思います。
先ほど、有効求人倍率が1倍を超えていることをご紹介しましたが、これはあくまで、全国平均での話であります。地域ごと、あるいは県ごとに見てみますと、求人倍率が1.5倍以上と、活況を呈している地域がある一方で、依然として1倍以下、県によっては0.5以下と、二人に1件しか求人がないような地域もございます。
中央と地方の間、あるいはそれぞれの地域・地方の間に、経済的な格差が存在することは事実であります。地域経済も含めまして、わが国の経済社会全体を豊かにしていくことが、重要な課題であります。

13.地域経営の確立と産業立地の促進

それでは、いかにして地域経済を元気にしていくかと言えば、いちばん大切なことは、地域の自律を促し、地域に相応しい産業を興して、雇用や所得を作り出していくことであります。
このような観点から、私は、これからの時代において、豊かな地域を作るための、地域経営という観点が極めて重要だと考えております。これはすなわち、地域の発展を、地域自らが主体的に考えるということであります。自らが知恵を出し、汗をかいて築いた発展は、他に依存したものではありませんので、持続性を持つと言うことができます。わが国全体を見渡せば、すでにこうした地域経営の観点に立って、着実な発展を遂げている地域も少なくありません。

その例を一つだけ挙げますと、大分県では、道路などのインフラの整備や、企業の投資に対するインセンティブの強化など、産業誘致政策を強力に展開しております。こうした中で、キヤノンも複数の工場を、県内に立ち上げました。また、大分県を含む九州北部地域では、自動車産業の集積も急速に進みつつあります。
その結果、大分県の一人当たりの県民所得は、現在九州地域でトップになっております。地域経済の成長を実現していくためには、様々な方向性、方策が考えられますが、やはり最も効果が大きいのは、企業の生産拠点や研究開発拠点などの立地を促すことであります。企業立地が進めば、地域の雇用や所得が創出され、自治体の税収の増加にもつながって、地域経済も発展することとなります。

14.道州制の導入

さて、この地域経営といった場合に、どの程度のスケールで行うことが最適かを考えることが重要であります。企業経営においても、規模が小さいと効率が悪く、研究開発などに十分なお金をかけることが出来ません。そうしたことから、近年、非常に幅広い業界において、企業グループを越えた再編が進み、国際競争力の向上が図られていることは、皆さん、ご承知の通りであります。
今の地方の仕組みを見てみますと、市町村レベルにおいては、近年、市町村合併が強力に進められ、5年前にはおよそ3,200あった市町村は、現在、1,800の団体まで集約されております。これに対し、現在47ある都道府県の仕組みは、廃藩置県後の統合を経た100年以上前から基本的に変更されておらず、いまや時代にそぐわなくなっております。
例えば、産業振興のためのインフラ整備にしましても、各県に一つずつ空港を作る必要はなく、むしろ、地域ブロックで国際空港を作って、それを高速道路で結んだ方がはるかに効率的であります。あるいは、人材の育成や研究といった観点からも、県ごとに総合大学を作っていたのでは、予算や人員の配分も細切れになり、国際水準に匹敵する研究を行うことも不可能であります。さらには、政治・行政面においても、議会も含めて、行政機構の無駄や重複は相当に大きいと思います。

地域経営を、一定のスケールメリットを持って行うためには、現行の都道府県体制の抜本的見直しが不可避であります。そこで、経団連のビジョンでは、10年後を目途に、道州制を導入することを提案しております。道州制ということになりますと、スケールメリットという点からは、たとえば、九州全体の経済規模はオランダやベルギー一国分に相当し、北海道もデンマークやポルトガル並みと、相当な規模を持つことになります。経済的に自立して地域経営を展開していくことも、十分可能と考えられます。
経団連では、9月の東京開催に続いて、昨日、名古屋で、道州制推進に向けたシンポジウムを開催しましたが、地域の経済界の方をはじめ、政官学を含めた多くの方々から、熱烈な賛同をいただいております。われわれとしては、道州制は、究極の構造改革であり、かつ、地域活性化の切り札であると考えておりまして、引き続き、各地でのシンポジウムの開催をはじめ、早期導入に向けた機運を、盛り上げていきたいと考えております。
道州制の導入に向けては、非常に息の長い、腰を据えた取り組みが求められますが、当面の地域活性化策を講じていく上でも、道州制が目指すところの地方の自立を図るという方向性に沿った形で、施策を展開していくことが重要であります。
目下、増田総務大臣を中心に、政府において地域経済建て直しの新プランの策定作業が進められております。この新プランにおいても、地域の経営権とも言える、地方の裁量範囲を拡大することが、極めて重要であります。そのためにも、地方分権をさらに強力に進めていく必要があります。
また、そうした中で、例えば、地方への補助金を複数年度化したり、地方の側で必要な制度を選択できるようにするなど、地方の自主性が発揮される取り組みを進めていくことが重要だと考えます。

15.おわりに

以上、日本の直面する課題と今後の経済政策について、お話しさせていただきました。ご案内の通り、目下の政治情勢は、衆議院と参議院で第一党が異なるという、わが国にとっては、戦後あまり経験したことのない状況となっております。
しかし、本日、私からお話し申し上げたような、成長力の強化、セーフティネットの確立、地域経済の活性化などの課題に取り組んでいく上ではどうしても、政治のリーダーシップが欠かせません。政治上の混乱により、政策遂行に遅滞が生じるようなことは、絶対に避けなければならないと考えております。
一方で、たとえば、社会保障制度などは、政治情勢がいかなるものとなろうとも、この先何十年と、安定的に維持していかなければならないものであります。したがってこうした問題については、与野党がしっかり話し合って、優れた改革が行われることが期待されます。
新しい福田内閣は、希望と安心の国づくりを掲げておりますが、経団連としても、この国を希望の国としていくために、引き続き、全力を挙げて取り組んでまいります。
本日は、長い間、ご清聴いただき、誠に有難うございました。

以上

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