豊田会長による新役員代表挨拶

1994年5月27日
於 第56回定時総会


新役員を代表いたしまして、一言ご挨拶を申し上げます。

本日、第56回経団連定時総会におきまして、会員の皆様のご推挙により、歴史と伝統のある経団連の役員に就任することになり、新役員一同、責任の重さに身の引き締まる思いでございます。

顧みますと、平岩前会長は、平成2年12月に第7代の会長に就任されて以来、「地球」「市場」「人間」をキーワードとされまして、持ち前の卓越した見識と決断力、行動力で、冷戦終焉後の世界的な転換期における、わが国経済の基本的な課題の解決に全力を傾注され、多大の成果をあげてこられました。特に、バブル経済の反省に立って、「企業行動憲章」を制定され、あらゆる機会を通じて企業倫理の確立を訴えられました。また、「地球環境憲章」を制定し、共生の理念を提唱されるとともに、欧米はもとよりアジア・太平洋地域との積極的な交流を推進されるなど、幅広い分野で強力なリーダーシップを発揮されました。さらに、平岩前会長は、昨年、総理大臣の諮問機関として設置された「経済改革研究会」の座長を務められ、21世紀を展望した日本経済の抜本的な改革のビジョンをつくりあげられました。

私ども役員一同は、平岩前会長や諸先輩が並々ならぬ努力で築いてこられました政治・行政・経済の「改革」への道を着実に前進させ、経済界の総意と英知を結集して、日本経済の新たな発展のために邁進してまいりたいと考えております。

世界は今、世紀単位の大きな変革の中にあります。冷戦構造の崩壊の後、国際政治は新たな枠組みを求めて模索しております。そして、わが国もまた、「明治維新」や「第二次大戦後」に匹敵する変革期に入りつつあり、政治、経済、社会のあらゆる面で抜本的な構造改革を迫られております。

そうした中で我々は、内外の重要な課題に取り組んで行かねばなりません。産業界は、これまで築いてきた優れたシステムや伝統は大切にしつつも、時代の要請に基づいて「変革」すべきものは、大胆に見直し、内外の「信頼」関係を構築しながら、21世紀の豊かな経済社会を「創造」してゆきたいと思います。我々は、企業の自己責任原則に立って行動するとともに、技術革新を推進し、新しいビジネスフロンティアを開拓するなど、企業家精神を発揮してゆくことが不可欠であります。

また、経済のグローバル化への対応も重要な課題であります。今日、世界経済における日本経済の比重は一段と大きくなっておりますが、我々は、「相互理解と信頼」、「競争と協調」をベースとした企業活動を通じて、世界の国々との緊密な協力関係を築いていくことが重要であると思います。グローバルな経済活動の進展に伴って、我々は多様な文化や価値観に接しておりますが、こうした多様性を尊重することが世界と日本の進歩と発展につながるものであると思います。そのような取り組みを通じて、我々は、日本的な良さを洗練させつつ、世界に通用する普遍的なシステムを構築していくことが求められております。

私ども経団連は、こうした認識に立って、「大胆に構想し、着実に実行する」ことを活動の基本姿勢とし、「変革」、「創造」、そして「信頼」、この3つの言葉を肝に銘じながら、規制緩和、行政改革、社会資本の充実などの重要課題を着実に実現すべく、果敢に行動してまいりたいと思います。同時に、欧米や、アジア諸国をはじめとする、各国、各地域との相互理解と相互信頼の確立を努めるとともに、世界の新しい枠組みの構築や途上国への経済協力、地球環境問題など、地球的規模の諸課題の解決に、貢献していく決意であります。

最後になりますが、役員一同は、新しい時代の新しい経団連を目指して、広く内外の声に耳を傾け、正しいと信ずる道を、信念と気概をもって歩みたいと考えております。会員各位の、一層のご理解とご協力をお願い申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。


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