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月刊 経団連 巻頭言 インフラ整備に向けた視野と時間軸

山口範雄 (やまぐち のりお) 経団連審議員会副議長/味の素会長

ローマ帝国遺跡回訪の途次、アッピア街道の始点付近を見たことがある。塩野七生著『ローマ人の物語』によれば、ローマ街道の道路としての構造は、軍団の移動に耐えられるよう規格化されていたという。両側に歩道と側溝を具備する車道は、幅4m、深さ1~1.5mで、砂利や砕石、石塊など、四層から成っていたらしい。街道は、「二点間を結ぶ道」という概念ではなく、「移動につき複数の選択肢を可能とする多点間ネットワーク」というコンセプトに基づいていた。ローマ帝国の長期的繁栄の基底を成す要因の一つだという。

出張帰りのポーランド・ワルシャワ空港で衝動買いした小さな写真集を、帰宅後開いてみた。ナチスによって破壊されたまちを建築学教授の指導下で再現した話は知っていたが、写真集はその“破壊”と“再建”を見開きごとに対照掲載してあった。国家のアイデンティティーを回復させようとする国民的悲願が、歴史的視野を持つリーダーによって達成されたことが感動的に伝わる一冊であった。

今年2月にミャンマーを訪れた際、新たな国づくりについて懇切丁寧に説明くださったテイン・セイン大統領が、5月に来日された。伺うと、30分刻みで“時のヒト”を待つ方々が、列を成していた。会見中、インフラ整備の最重要課題の発電・エネルギー問題に触れられた。大統領自身が、アウン・サン・スー・チーさんの主張も視野に入れているのだろう、超多忙な日程のなか、日曜日の半日、環境対策技術が投入されている最新鋭の発電所を視察されたことを知った。

インフラ整備では、指導者の視野と時間軸に対する考え方が、形となり、国や社会の行く末を大きく左右することになる。

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