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月刊 経団連 巻頭言 「観光先進国」の実現に向けて

冨田哲郎 (とみた てつろう) 経団連審議員会副議長/東日本旅客鉄道社長

4月に発生した熊本地震の犠牲となられた方々に衷心より哀悼の意を表するとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申しあげる。地域の人口減少も進展するなかで、地元も含めた官民が一丸となって、復興を強力に進めていく必要がある。観光委員会としても、即効性のある観光による復興に微力を尽くしたい。

昨年度末以降、政府から「明日の日本を支える観光ビジョン」と「観光ビジョン実現プログラム2016」が公表されている。これまで観光客誘致や流動促進等、デマンドサイドに重点が置かれてきた感のある観光関連政策であるが、今回は生産性改善等、サプライサイドにも主軸を置いた政策パッケージだ。そして2020年に訪日外国人旅行者数を4000万人、訪日外国人旅行消費額を8兆円とするなど、大変意欲的な目標値を設定している。

これらの実現のためには、「観光立国」から「観光先進国」の高みを目指す取り組みへと大胆なギアチェンジが必要であり、従来の施策の延長では達成し得ない。われわれ経済界も、具体的な行動で呼応することが求められており、まさに「オールジャパン」の体制で創意工夫を凝らし、具体的な結果を出す必要がある。当社も、地域と一体となって観光資源を掘り起こし、磨きをかけ、情報発信するなど、鉄道という社会インフラを担う企業として、地域のあるべき未来を考え、取り組んでいる。

かの松下幸之助氏は、1954年に『観光立国の弁』を著した。同著では、日本が持つ景観の美や自然の美しさは「いかなる埋蔵資源にも勝るとも劣らぬ」とされ、「観光省の新設」等、現在の政策と比較してもほとんど遜色がない提言が並び、その先見の明には驚きを禁じ得ない。現代に生きるわれわれは、「オールジャパン」の知見を結集してさまざまな政策を展開し、わが国の観光の一層の振興を図り、基幹産業へと成長させることで、松下幸之助氏が驚嘆するような「観光先進国」をつくり上げていきたい。

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