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月刊 経団連 巻頭言 Society 5.0の実現に向けて、建設業も一歩を踏み出す

山内隆司 (やまうち たかし) 経団連副会長/大成建設会長

建設キャリアアップシステム(CCUS)が今秋より始動する。

このシステムの開発を主導してきた国土交通省は、建設現場の第一線で作業に従事する約330万人もの建設技能者の資格・就労実績等を、業界統一ルールのもと、ビッグデータとして蓄積し、技能や経験に基づく適正な処遇につなげることを目指している。建設技能者を、企業・業種の壁を越えた業界共通の貴重な経営資源と位置付けてデータベース化するCCUSは、業界のプラットフォームとして、建設業版Society 5.0を実現するうえで欠くことのできないツールであり、官民共同の画期的な試みである。

建設業就業者数は約20年前のピーク時から約3割も減少しているうえ、全産業平均と比べて、高年齢層の割合は5%多く、若年層は5%少ない。概ね10年以内に団塊世代を中心に100万人規模の大量離職が見込まれるなか、建設業界は一層「働き方改革」を推進し、将来の担い手確保を視野に入れた長時間労働の是正をはじめとする就業環境の改善と、建設の生産プロセス全般にわたる生産性の向上に努める必要に迫られている。

現在、官民を挙げて、建設生産システムにIoT(Internet of Things)、AI、ロボット等の先端技術を取り込むi‐Constructionの推進やBPR(業務改革)の徹底による生産性の向上に取り組んでいるが、CCUSも生産性に大きく寄与する。建設技能者の資格・就労実績等の“見える化”は技術者としてのアイデンティティーを醸成し、技能や経験に基づく処遇の改善は能力開発に向けたモチベーションの高揚をもたらす。その結果、建設技能者一人ひとりの能力が高まり、品質や安全性の向上等の付加価値を伴った生産性の底上げが期待できる。

CCUSの普及とi‐Constructionの深化を両輪に、建設業における「人」と「モノ」の情報を連携することで、建設業版Society 5.0の早期実現につながるのではないか。建設業はものづくりの過程において人が主体となる産業である。それ故、建設業におけるSociety 5.0の実現には、建設業にかかわるすべての人に目を向け、個々人の能力の最大化を意識しながら、労働集約型産業の可能性を広げる視点が必要だと考えている。

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