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月刊 経団連 座談会・対談 社会課題解決に資する個人データ利活用の課題

浦川伸一
司会:経団連デジタルエコノミー推進委員会企画部会長
損害保険ジャパン日本興亜取締役常務執行役員

日置巴美
三浦法律事務所弁護士

宍戸常寿
東京大学大学院法学政治学研究科教授

畑中好彦
経団連審議員会副議長、イノベーション委員長
アステラス製薬会長

篠原弘道
経団連副会長、デジタルエコノミー推進委員長
日本電信電話会長

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篠原弘道(経団連副会長、デジタルエコノミー推進委員長/日本電信電話会長)
データの利活用において、データの多量性に加え多種性が非常に大事。企業・業界を超えたデータの相互活用、連携できる環境づくりが課題である。また、データ提供に対する心理的障壁を取り除くことが喫緊の課題であり、消費者との対話を重ね、データ利活用の具体的な便益をアピールすること、活用目的を正しく伝えることが重要。国際的なデータ利活用について、アジア圏においては、日本が新しいデータ利活用のモデルを構築し、イニシアティブを取らなければならない。データ利活用については、一般論で話してもきりがなく、分野ごとに具体的な動きを進めていくしかない。

畑中好彦(経団連審議員会副議長、イノベーション委員長/アステラス製薬会長)
ヘルスケア分野では、個別化医療・予防・未病ケアの実現に向けて、個人のライフコースデータを活用できる仕組みが不可欠。生涯にわたる医療情報を一元的に収集・管理し、高質な医療サービスとして国民に提供している国もあるが、日本ではデータの連携・活用などまだ限定的である。個人データの利活用促進の課題として、データ連携基盤の整備、人材育成、国民への理解の醸成が挙げられ、これらの課題に対し、企業は主体的に役割を担うべきである。さらに、情報の保護と利活用のバランスが取れたデータ利活用環境の整備をデータ提供者、活用者、そして規制当局が一体となり、早急に進める必要がある。

宍戸常寿(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
データの流通・利活用と近代社会の発展や法的な枠組みは不可分。イノベーティブで公正なデータの利活用が進む企業や社会をつくるうえでは、消費者が適切な判断ができる公正な市場を形成する必要がある。海外のプラットフォーマーに対する独占禁止法強化、通信の秘密に対する規定の適用も公正な秩序をつくるためには必要。また、各企業には、プライバシー・バイ・デザインによる研究開発を進め、外部の有識者や消費者の代表を集め、アドバイザリーボードを設け意見を集約し、その成果をまとめて、世の中に公表し議論を深めてほしい。

日置巴美(三浦法律事務所弁護士)
個人情報保護法は利用停止請求権を含め、さらなる規制強化の方向にある。それでも、消費者にとっては事後に自発的に行動するしかなく、法改正のあり方には疑問が残る。日本の企業は、データ利活用に際して、リーガルチェックのタイミングが遅い。また、情報漏えいなどのインシデントへの対応が不十分。まず、これらを機能させる組織づくりが大きな課題である。また、企業間でのデータ利活用に関しては、「トラスト」がないと法令違反を犯すリスクが非常に高くなる。トラストを確立するためにも組織改革や意思決定方法のほか、組織を超えた取り組みも考えていくべき。

浦川伸一(司会:経団連デジタルエコノミー推進委員会企画部会長/損害保険ジャパン日本興亜取締役常務執行役員)
データ利活用の個人への便益を大前提に、国や地方公共団体が国民に向かいわかりやすくメッセージを打ち出す必要がある。DFFTの構想を政府が進めているが、具体化の際には、産業界から動かせないかと思っている。マイナンバーの活用も、産学官で解決できる仕組みを委員会形式で立ち上げるのがよいと思う。また、データをAIで活用するには、高品質なデータが必要で、そのためには入念なデータの整理が欠かせない。企業間がエコロジー化を進め、データ流通を進め、特に個人データの利活用を進めるためには、その提示するデータの質を上げていく必要がある。

  • ■ 個人データの保護・活用を取り巻く現状と課題
  • 社会課題解決のため企業や業界を超えてデータを活用できる環境づくり
  • データ提供者の心的障壁をいかに取り除くかが課題
  • 深化するヘルスケアではデータの利活用が欠かせない
  • 全社的なリーガルチェックとインシデントへの対応の必要性
  • メリットやリスクを議論する環境づくりを
  • 個人の便益と保護をセキュアな環境で
  • 技術家と法律家の議論を行うべき
  • ■ 政府への期待
  • データ利活用の公正な市場形成が必要
  • 個人が事後、自発的に行動する法規制へのシフトでよいのか
  • アジアの求心力になるイニシアティブを
  • 人生100年時代にヘルスケアデータの利活用は必要不可欠
  • 個人の便益をわかりやすく伝える
  • ■ 産業界への期待
  • データの質も高める必要がある
  • アドバイザリーボードを設けて意見を集約
  • 企業間でのデータ利用はトラストが必要
  • 国民への理解の醸成を
  • 経営者はデータ利活用に積極的にチャレンジすべき

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