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月刊 経団連 巻頭言 「気候変動」にどう向き合うか

柄澤康喜 (からさわ やすよし) 経団連審議員会副議長/三井住友海上火災保険会長

世界経済フォーラムの「今後10年間の発生可能性が高いグローバルリスク」ランキングで、今年は「大規模自然災害」「異常気象」などの環境関連が上位5項目を独占した。政財界のリーダーへのアンケートに基づくこの調査結果は、社会・経済のサステナビリティ改善に向け気候変動への取り組みが急務となっている現実を映している。

実際、昨年の台風による甚大な被害の発生は記憶に新しく、グローバルにも2017年の北米ハリケーンや最近の森林火災など、自然災害の大規模化・頻発化は著しい。また、自然災害に限らず、気候変動がもたらすリスクが多様化・現実化しやすい状況にあることも間違いないだろう。

企業にとって、気候変動問題は、被災による経済活動上のリスクにとどまらなくなっている。最近では気候変動を財務リスクととらえる動きもあるほか、ESG(環境・社会・ガバナンス)投融資がマネーの流入地図を書き換える可能性も考えれば、気候変動対応は重要な経営課題といえる。

こうした潮流は、2017年の公表以降、多くの金融機関等から賛同を得ているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークも契機となってグローバルな浸透を見せているが、最近ではEUがサステナブルな事業の分類・判断基準となる「EUタクソノミー」を公表した。一方で、脱炭素社会への移行を考える際に忘れてはならないのが、移行コストを担えない途上国や貧困層の存在だ。「誰一人取り残さない」移行メカニズムの導入に向け各国に求められるのは、経済力等の差異を認めつつ共通の責任を果たすアプローチである。

企業には、気候変動に向き合い「レジリエントでサステナブルな社会」を実現するという存在意義(パーパス)の確認が求められている。アクションの積極的な情報発信に努めるとともに、「Society 5.0」に向け経済のサステナビリティを担う存在としてイノベーション等を通じた企業価値向上に努めることが必要だ。歩みを止めるようだと「将来世代のニーズを満たす能力を損なう」ことにもなりかねない。企業価値向上のベクトルと、脱炭素社会の実現に向けた積極的な取り組みのベクトルは、さほど離れてはいない。

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