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月刊 経団連 巻頭言 国のレジリエンスを高めよ

中村 邦晴 (なかむら くにはる) 経団連副会長/住友商事会長

企業がグローバルな経済活動を行えるのも、自由で開かれた国際秩序があってこそだ。戦後世界が尊重してきた普遍的価値への挑戦に対しては、国際社会が結束を固めて、守っていかなくてはならない。国際社会は一枚岩でなく、分断されているのが現実だが、G7をはじめ、一定の規範と価値観を共有し、信頼できるlike minded countriesを広げる努力も必要だ。

同時に、東アジアの緊張のど真ん中にいる日本として、自国のレジリエンス強化は重要だ。「自分たちの国は自分たちの力で守る」のは当然として、有事に耐え得る強い経済力も欠かせない。エネルギー、食料の安全保障を急ぎ強化し、さらには災害に対する脆弱性の克服、20年、30年後の国力に直結する人口減少問題への対応も待ったなしである。2008年の1.28億人をピークに減少局面に入った我が国の人口は、今の出生率が続けば100年後には半減する。そうなってから出生率を上げようと言っても手遅れだ。減少のスピードを抑えながら、少ない人口でも経済成長を持続させる施策が問われている。

人口減によるGDPの減少は生産性の向上で補うしかない。それぞれの現場で仕事のやり方をよく見直し、これまで経験と勘に頼ってきた部分をデジタルに置き換える。今まで手付かずできた全国津々浦々の企業がデジタル化に踏み出すことで、日本全体の生産性を底上げできよう。

イノベーション力の強化も必要だ。2050年カーボンニュートラル(CN)達成には未だ存在しない革新的技術の開発とその社会実装が欠かせないが、それには官民の投資を最大限引き出す環境整備が急務だ。必要財源を確保するうえで、コロナ禍で毀損した財政を建て直す具体的道筋を明らかにせねばならない。

時間的猶予はない。この先3年間は、過去30年の低成長の流れを変え、成長と分配の好循環につなげていく絶好のタイミングだ。課題を直視し、具体策をもって変革していくリーダーシップを政府に期待したい。

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